未来人の落とし物その5
「あ〜くっそー!遅くなっちまった!」
私は仕事を終え自宅に帰るため首都高速で車を走らせる。今日は明日の会議に使う資料をまとめていたらかなり遅くなってしまった。早く帰って息子の顔を見たい。
先月生まれた息子の歩夢、家に帰ってあの子と遊ぶのが今の私にとって何よりの楽しみだった。でも今日はもう寝ている時間になってしまった。せめて寝顔を見て癒されよう。
気持ちがアクセルを自然と強く踏ませ車の速度は上がって行く。
十分ほど走らせた頃、夜の遅い時間を走っていたこともありチカチカと電光掲示板が光っているのを何度か見たことに気がつく。
あれ?いつもあんなに点滅していたかな〜。あまり今までは気にならなかったけど、今度の掲示板はしっかりと見ておこう。たぶん同じ内容が書いてあるはずだろう。
私はほんの少し違和感を感じる。
しばらく走ると次の電光掲示板があった。
「スピード注意……なんだ普通のことが書いてあるだけかよ!」
私はこの時、一気に気を緩ませた。
自分の勘違いだと思ったんだ。
私は変わらず法定速度100km以上で走り続けた。
しばらく走ると次の電光掲示板があった。
「はぁ?なんだあれ!」
電光掲示板には……
免許持ってないの〜?法定速度を守れないおバカさんかな〜と書かれていた。確かにルールを守らないのは悪いことだが、バカにするのは腹が立つ。俺はイラッとした。
私は変わらず法定速度100km以上で走り続けた。
しばらく走ると次の電光掲示板があった。
「おい!あの掲示板映している野郎!俺にケンカを売ってるのか!」
電光掲示板には……
いい加減に気づけ!危なねぇ〜って言ってるだろが!クソ野郎が!と書かれていた。なんだこれ!悪口にもほどがある。まるで感情をそのまま書いたようだ!失礼な!あとで抗議の電話でもかけてやろうか!
私はイラついたせいか更に速度を上げてしまった。
しばらく走ると次の電光掲示板があった。
「え!?どういう意味だ」
電光掲示板には……
あなたには大切な者がいます。決して死んでいい命ではないはずです。お願い速度を落としてと書かれていた。今までとは明らかに違う口調で、優しいメッセージが込められている気がする。
私は一体何をしているんだ。自分のワガママでルールを破って、もしも事故でも起こした日には……息子の歩夢に会えなくなるかもしれない。
私はアクセルを踏む足を緩め速度を下げる。
焦ったらダメだ、冷静に他事を考えず運転集中しよう。私には大切な妻と息子がいるのだから………
それからしばらく走ると次の電光掲示板があった。
電光掲示板には……
この先のトンネルで逆走車か走行している注意を促すものだった。もし電光掲示板の注意を聞かず速度を上げたままだったら、私は事故を起こしてしまったかもしれない。
皆さんにも大切な人が居るはずです。
メッセージをしっかりと受け取ってください。
悲しみを生まない安全運転に心掛けましょう。