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2 学園のアイドル編②



同日、放課後


いつもと同じように、私は、ピアノを弾くために音楽室へと向かった。もうすぐ夏休みなため、気温が30度以上を越す日が増えてきた。ちなみに、今日は32度なため、とても暑い。私は、暑すぎてエアコンをつけた。部屋が涼しくなるまでの間に、私は、たくさんの楽譜が入ったファイルの中から、何の曲を練習するかを考えていた。そういえば、もうすぐピアノの発表会があるはずと思い、発表会に相応しい曲を選ぼうと思った。そのとき、ふとこの楽譜が目に入った。


「ピアノソナタ第14番『月光』第3楽章」


 正式名称は「Prest agitatoプレスト・アジタート」この言葉は、イタリア語で「熱烈に、激して」という意味がある。作曲者はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンだ。彼は、日本で「楽聖」と呼ばれるほどの音楽的才能があった。しかし、20代後半となると、彼は目が見えなくなってしまう。そんな彼が31歳のときにこの曲を作った。彼は、伯爵令嬢ジュリエッタ・グイチャルディに捧げるために作ったとされている。作曲家は恋多き者が多いと私は思っている。恋をすることによって、人生経験が増えて、後世にまで愛され続けるような曲が作れると私のお母さんが話していた気がする。


この曲には、過去の大切な思い出に浸りたり、未来への希望や前向きな心が表現されている。ピアノの曲の中でも、上級者向けなので、とても難しい。私はこの曲の力強く和音を連打する所がいつも上手くいかない。あまり運動をしないから、体力などがついていないことが原因となっているのかもしれない。

 先週の土曜の朝に、体力をつけるためにジョギングを近所の公園でしようと思ったが、そのとき、お兄ちゃんが

「さくちゃんを一人で公園に行かせることはできない!!変な虫(男)がついたらどうするんだ…」

とか血相を変えて、私に言ってきたので、仕方なく、お兄ちゃんと一緒に公園でジョギングすることになったのだ。

ジョギングをしているとき、朝なのにも関わらず、周りが騒がしいと思ったら、部活に行く途中の女子学生や、休日出勤の若い女性がお兄ちゃんを見て、「キャー!」と叫んで顔を赤らめたり、チラチラとこちらの様子をうかがったりと、凄かった。お兄ちゃんを連れて来なければよかったと、とても後悔した。

(まあ、確かにお兄ちゃん、あの顔とスタイルだからなぁ…)

と半ば諦めて、ジョギングしたことを思い出してしまった……。

ちなみに、お兄ちゃんはそんなことを気にせずに、ずっと、私の顔ばかり見て、「頑張れ!」と応援したり、近くを通りかかる男を睨みつけたりしていたので、周りの女の人たちから、「あの女誰?」という視線も凄かった。

そんなことを考えながら、練習していると、音楽室のドアがガラガラと開いた。びっくりしてドアの方を見ると、一ノ瀬綺羅が立っていた。

「どうしたの?」と尋ねてみると、

「部活の息抜きがてらに、ここに来た。」と言って、音楽室の隅に置いてあるパイプイスを取って、ピアノの近くにパイプイスを置き、座った。

「俺に構わず続けろよ。」

と眠そうな声で言いながら、目を閉じて寝てしまった。

(さすがに眠るときにこの曲だと眠れないでしょ…)

と思ったので、ブラームス作曲の、「子守歌」を弾くことにした。この曲は、私が子供のときに、お母さんがよく弾いてくれた曲だ。優しい雰囲気の曲で、この曲を弾くと、私はいつもすぐに寝てしまったらしい。最近は、人間関係のトラブル(主にお兄ちゃんが原因)などで、癒しが欲しいときに聴いている。

ヨハネス・ブラームスは、クラシック音楽のロマン派を代表する音楽家だ。ブラームスはね、クラシック音楽の様々なジャンルで活躍した人で、私の尊敬する人なんだよ~!と、お母さんがよく私に言っていた。


 この曲を弾くと、一ノ瀬君は、気持ちよさそうに寝てしまった。

(本当に、髪の毛サラサラだなぁ~。イケメンは髪の毛がサラサラという法則でもあるのかな。)

そんなことをを考えて、この曲を3回ぐらい弾いたところで時計をみると、午後5時だった。


(ヤバイ!今日は6時までに帰らないと行けない日だった。)


そう。私の家は、毎月1回は6時までに家に帰り、食事をしに出かけるというルールがあるのだ。このルールを守らなかった暁には、お父さんだったら台本に、お母さんだったらピアノに、お兄ちゃんだったら私とヴァイオリンに、私だったら本とピアノに近づけなくなるというペナルティがある。自分たちの好きなものに近づけなくなるのは、私たち芸術一家にとっては、酸素がなくなるも同然のことなのだ。ちなみにこのルールは、お母さんのご先祖様が決めた伝統あるものらしい。大変だよね。




「なんとか間に合った~。」

学校から家まで全力ダッシュで帰ってきたので、へとへとだ。最近、運動をしているはずなのに…。

そんなことを思いながら玄関のドアノブに手をかけると目の前が急に暗くなった。

「だ~れだ!」

「お兄ちゃん?」

「正解!さすが、僕の妹は可愛いな~!」

「こんなことやってくる人、お兄ちゃんしかいないし…。」

「僕以外にこんなことやられたら、すーぐーに!お兄ちゃんに教えてくれよ!そいつ(悪い虫)に、話したいことがあるってね。」

と私の頭を優しく撫でながら笑顔(目が笑っていない顔)で言ってきた。

「そんな物好きな人そうそういないよ…。それよりも早く家の中に入らなきゃ。遅れたって勘違いされちゃうよ!」

「そうだな。今日は、さくちゃんの大好きなお寿司だよ。」

「え!?やった!!早く着がえないと!お兄ちゃん、早く早く!!」

(さくちゃん、本当に可愛いな!)


お母さん、ただいま~!」

「お帰り~!さくちゃん。今日はちょ~っと高いお店だから、この服着てね~!」

「え…。これ、和服じゃん。(しかもやけに高級そうなやつ…)」

「これ、私のお古なの~!お父さんとのデートのときにね、プレゼントしてくれたやつなのよ~!」

「そんな大切な服、私が着てもいいの?」

「いいのよ~!さくちゃん、絶対似合うから。髪型やメイクも私がやってあげるからね~!とびっきり可愛くしてあげる!」

(たまにはこうゆうのもいいよね。)

「お母さん、ありがとう!」


こうして、私たちはお店へ向かった。




この後、お店で大変なことが起こることを、この時の私はまだ知らなかった…。




こんばんは!五月雨娘です。お兄ちゃんのシスコンが際立っていた回でした。

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