表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子の夢と滅びの運命  作者: 小鳥遊ゆう
6/10

6 王子が見たかったもの


アレクシス王が即位してから五年が経った。


まだ若い彼が王権を取った時、王国内の評判は決して良くはなかった。「経験が浅い若者が国を導けるのか」という声が貴族の間でささやかれる一方、民衆は「また新たな支配者が自分たちを搾取するだけだ」と冷ややかだった。


しかし、アレクシスはその評判を覆すべく、即位してすぐに動き出した。


宮廷内の無駄を削減し、貴族たちに重税を課す一方、民衆に対しては税負担を軽減。特に農村やスラムの人々に対する支援に力を注いだ。彼が若き日に目にした苦しむ人々の姿が、彼の改革の原動力となっていた。


アレクシスの行った政策の一つに、スラム街の改革があった。衛生環境を整備し、住民が学び働ける環境を整えるため、学校を設立した。資金不足の中、彼は自ら金庫を開け、私財を投じて教育事業を支えた。


その学校の一人の生徒として通っていたのが、かつて町の市場で果物を盗んだ少年だった。


彼の名前はミハイル。少年は学校で文字を学び、計算を学び、次第に成績優秀な生徒として教師たちの注目を集めるようになった。


「お前があのミハイルか。随分と変わったな。」


アレクシスは学校を視察した際にミハイルと再会した。


かつてのやせ細った姿は消え去り、真剣な目つきで本を抱える少年に成長していた。


「王様、あの時、私を助けてくださったこと、ずっと忘れません。」


ミハイルはその後、商いの道を志し、小さな商店を開業。その才覚を発揮して次第に事業を拡大し、王都でも評判の若き商人となった。彼は「貧しい者にもチャンスを」と、地元の若者たちを雇い、共に成長していく道を選んだ。




他にアレクシスが心を砕いたのは、王国の防衛を担う兵士たちの待遇改善だった。かつて訓練場で見たぼろぼろの装備や飢えた顔が忘れられなかったからだ。


彼は新しい政策として、兵士たちへの給与を増額し、質の高い防具や武器を調達した。また、訓練内容も改革し、指導者には実力のある者を選ぶよう徹底した。


その結果、かつて粗末な装備で嘆いていた兵士の一人、イリヤが新しい兵隊長に昇進した。イリヤは努力を怠らず、新たな訓練方針にいち早く適応した人物だった。


「王様のご指導のおかげで、私たちは誇りを持って戦えるようになりました。」


イリヤは兵士たちの士気を高めるために尽力し、国境付近の小競り合いでも大きな成果を挙げた。王国の防衛体制は強化され、隣国からも「アレクシスの軍は強い」と恐れられる存在となった。



一方で、アレクシスが農村にもたらした変化は劇的だった。土地を持たない農民たちに安価で土地を貸し与え、収穫物の一部を税として納める制度を導入した。この政策は多くの農民にとって希望の光となった。


かつてアレクシスが訪れた村の少年、マルクもその恩恵を受けた一人だった。


幼い頃に父を亡くし、母と共に苦しい生活をしていた彼だが、与えられた土地で働き、次第に豊かな農地を築き上げていった。やがて、彼は裕福な農家となり、近隣の村から嫁を迎えた。


結婚式の日、アレクシス王は彼に特別な祝辞を送った。


「お前が幸せな家庭を築いたと聞いて、私も嬉しい。この土地はお前のものだ。大切に守り続けてくれ。」


マルクは感激のあまり、涙を流して礼を述べた。彼の家族は次第に村の中心的な存在となり、多くの人々を助ける存在となっていった。



※ 



ある日のこと。


王宮の庭で、アレクシス王は特別な晩餐会を開いた。


その場に招かれたのは、ミハイル、イリヤ、そしてマルクだった。


かつての少年や兵士たちが、それぞれの道で成功を収めた姿を見たアレクシスは、感慨深いものを感じた。


「お前たちのような存在が、この国の未来を支えている。私がしたことは微々たるものだが、こうして成果を見られるのは何よりも嬉しい。」


ミハイルが言った。


「いいえ、王様。あなたが私たちに機会を与えてくださったからこそ、今があります。」


イリヤもそれに続いた。


「私たちは、王様の信念に触れ、変わることができました。これからも、命を懸けてこの国を守るつもりです。」


マルクもまた、


「あなたが土地を与えてくださらなければ、私の家族は今日の幸せを得られなかったでしょう」


と語った。




その晩、アレクシスは星空を見上げながら、一人静かに考えた。


「一人一人の人生を変えることができたのなら、それが私の王としての務めだったのだろう。」彼の心には確かな満足感があった。


そして、これからも王国をより良い場所にしていくため、さらに努力を続けることを誓った。




こうした努力の積み重ねにより、民衆の間ではアレクシスへの信頼が着実に高まっていった。同時に、彼を支える重臣や地方役人たちの間にも、共通の目標が生まれていた。


イーゴリはある晩、王宮の灯りの中で静かに呟いた。


「陛下、あなたのような王は、私が仕えてきたどの人物とも違う。民が信じるのも当然です。」


アレクシスはその言葉に微笑みながら答えた。


「私だけでここまで来られたわけではない。共に歩んでくれる人々がいてこそだ。」




アレクシスはその後も改革を続けた。


教育機会の拡大や、交易を活発にするためのインフラ整備など、多岐にわたる政策を推進した。これらの成果により、民衆の生活は次第に豊かさを取り戻していった。


だが、彼はまだ理想の国を実現する道の途中に立っていた。


彼の背負う責任は重く、試練は続くことを知りながらも、アレクシスの目には確かな光が宿っていた。


「この国は変わる。そのために私は全力を尽くす。」


その言葉は、彼の周囲の全ての者に希望を与え、彼を中心に新たな未来が描かれていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ