2-+.譲れない想い
第二章のおまけ
「話ってなに?」
修学旅行後の振替休日が明けて、火曜日。
放課後の部活が始まる直前、外へ走りに行こうとしていた眞中くんを呼び止めた。
他の部員は先にグラウンドへ下り、準備運動を始めている。
もう一人のマネージャーである美玖も今日は委員会で遅れるって言ってたから、広い体育館の中、いまバスケ部のスペースにいるのは私達だけ。
――ちなみに、私が彼に話したいのは部活のことではない。
だからこそ、誰にも聞かれないほうがきっと眞中くんにとってもいいはずだ。
「あの、…私」
呼び止めておきながら、情けないことに、いざ面と向かうと何からどう話せばいいか分からなくなった。
だけど、ちゃんと言わなくちゃ。嘘をついていて悪かったということ。
先生と私のことをどうか誰にも言わないでほしいということ。
そして…私は眞中くんの気持ちには応えられないということ。
「なに、愛の告白?俺の答えはいつでもオッケーだよ?」
眞中くんは茶化すようにそう言ったけれど、彼自身、私の目的がそうではないと気付いているだろう。
だってそうじゃなければ、こんなに言葉を選んだりしないのだから。
静かに首を横に振った私を、どこか落胆したような表情で彼が見返す。
「それとも…あいつのこと?」
言い当てられて、言葉もなく彼を見上げる。
すると眞中くんは「やっぱりな」と肩をすくめて、マネージャー用の椅子に腰を下ろした。
「なんとなく、そんな気はしてたよ。でもそれならあんま聞きたくないな」
「…ごめんなさい。でも私はやっぱり、」
「言っとくけど、俺、諦めるつもりないから」
遮って、眞中くんが言った。
だからその先は言うな――そう暗に言うように。
「言ったろ。紗妃が誰と付き合っていようが関係ない。たとえ紗妃が今フリーでも、俺のこと好きになってもらえないなら、結果は同じなんだよ。だからここで俺をフっても同じだよ。…安心して、別にバラそうだなんて考えてないから。紗妃を傷つけるつもりは、全くないんだ」
「ありがとう…」
彼の言葉に私は頭を下げて礼を告げた。
嘘をついて振り回した私に怒ってたって不思議じゃないのに、彼はそれでも私に優しい。
「頭上げろって。話はそれだけ?」
「あ…あの、嘘をついててごめんなさい。その、付き合ってないって」
「別に。隠すのが当然だろうし」
「それから、はっきりしない態度だったこともごめんなさい。でも私の気持ちはもう揺るがないから。だから眞中くんも、眞中くんだけを好きになってくれる誰かを見つけてほしい」
私はまっすぐに彼を見つめて言った。
恋人にはなりえないけれど、いい友人ではありたい。
なんて、都合のいい我儘かもしれないけれど…。
「好きって言ってるそばからそんなこと言われるとか、なかなかキツイもんがあるな」
「…ごめんなさい」
「だから、謝るなよ。そんな言葉が聞きたいわけじゃない」
会話が途切れ、気まずい沈黙が流れる。
やがて気を取り直すように眞中くんは立ち上がった。
「俺、もう行く。そろそろアップしないと」
「あ、うん。ありがとう、わざわざ来てくれて。お水飲んでく?」
言って、ウォーターサーバー用の紙コップに手を伸ばそうとした私の手を、眞中くんが掴んで止めた。
見上げると、彼は何故か困惑の色を浮かべて私を見つめていた。
「紗妃は…無防備だよ」
「え?」
意味を理解しかねて目を瞬いた、その時。
「原田、悪い、部日誌を返すの忘れて…」
すぐ側にある体育館のドアが突然開くと同時に、ひどく聞きなれた声が聞こえた。
私も眞中くんも、そしてその声の主も、誰もがこの状況を予想だにしてなくて、お互いに顔を見合わせて固まる。
一足早く状況を掴んで動き出したのは眞中くん、彼は先生を相手に何一つ怯むことなく余裕すら含ませて笑った。
「どうも。紗妃に二人きりで話したいって呼び出されまして。少し話をしてただけなんで安心してください」
その意味深な言葉に先生が顔をしかめる。
「話って、なんだよ。つーか、手はなせ」
私の手を掴む眞中くんの手を、先生が乱暴に振り払った。だけど眞中くんは動じることなく、余裕の顔で見返している。
「今のところバラすつもりはないけど、飽きたらいつでも俺を選んでいいよって」
「…お前な」
「俺、そろそろ行くんで。あ、そうだ紗妃」
「馴れ馴れしく呼び捨てするな」
先生の低い警告を簡単に聞き流し、眞中くんが私を振り返る。そして先生の存在を無視するかのように、明らかな確信犯の笑みで私に告げた。
「今度二人で出かけようよ。映画とか買い物とか。高校生デート、絶対楽しいから」
そう言い残すと、眞中くんは先生の横を通り過ぎ、颯爽と体育館から出て行った。
呆然とする私のそばで、遠ざかっていく眞中くんの背中に向かい、先生が大声で叫ぶ。
「勧誘は一切お断りだっつーの!!」
――その直後の部活で。
早々に仕事を終わらせてやってきた先生は、いつになく熱心に指導をしていた。
容赦のない鬼のような扱きに次々と部員が脱落していく中、眞中くんだけは文句ひとつ言わず淡々とこなした。
それが気に入らなかったのか、あるいは彼の限界を試そうとしたのか、はたまたその両方なのか――最後には「腕試し」と称して眞中くんにミニゲームまでふっかけたりして。
エースvs監督の構図に、事情を何も知らないギャラリー達は大きく盛り上がっていたけれど、対峙する二人の目は真剣そのもの。
そんな二人を私はハラハラしながら見守るしかできなくて、最初から最後まで、まるで生きた心地がしなかった…。
佳穂がその話を聞いて大笑いするのは、また別の話。
第二部これで終了です。
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