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今日の敵は明日の恋人〜先生に恋をしました〜  作者: RIKA
第二章

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2-12.もう一つの選択肢

修学旅行4日目、長崎。

私はその日、指示されたとおり、「九州の名所」というレポートを書きながら日中過ごした。

とはいえ、レポートに一日中かかるわけじゃない。お昼前には書き上げると、教頭先生に外出許可をもらい、ホテルの近くのコンビニでおにぎり2つとお茶を買って食べた。

それから部屋でぼんやり過ごしたりベッドで少し休んだりしていたら夕方になって、教頭先生のお迎えがきた。


教頭先生と次のホテルに移動した私だけれど、みんなと合流できるわけもなく、そこでも個室を与えられた。

だけどタクシーの中で聞いた話によると、明日は私も皆と一緒にいれるらしい。

本当はすぐに東京に帰すつもりだったけど、先生や君川先生、佳穂たちの懇願でそれは思いとどまった、だから皆に感謝するようにと、教頭先生に厳しく言われた。


窓を開けたら、少し冷たい風が部屋に吹き込んできた。夕焼け色に染まる空が街を照らし、もうすぐ今日という1日が終わりに近づいていることを知らせている。

私は小さな窓から知らない景色を眺めながら、今頃皆どうしているかなとぼんやり考えた。


確か今日は午前中に原爆記念館を見た後は、終日長崎の市街地を自由行動だったはずだ。

幸いにも天気に恵まれた今日、グラバー園とか大浦天主堂にいく予定だったけれど、迷わず行けただろうか。特に佳穂はけっこうな方向音痴、危なっかしくて目が離せないのだ。

志保は路面電車に乗るのを楽しみにしていた。電車が大好きな彼女は、撮り鉄という意外な趣味を持っている。電車を前にしたらきっと興奮するだろうから、佳穂と千沙で宥められたか心配だ。

お昼ご飯は中華街で食べたのかな。皿うどんを食べるかちゃんぽんを食べるか迷っていた千沙、分けて食べようねって約束していたのに果たせなかった。


「…う…っ」


ぽたり、と涙が零れた。

私を慕ってくれる大好きな人たち。その人たちの期待を裏切ってしまったことが何より辛い。

修学旅行という一生の思い出を台無しにしてしまってごめんなさい。

せめて、どうか私のことなんて忘れて楽しい時間を過ごせていますようにと、私は見上げた月に祈った。




時間は無情なほどゆっくりと流れていく。普段は瞬きする間に過ぎていく気がするのに不思議だ。

手持無沙汰にベッドに横になり、白い天井を見上げても、やっぱり思うことはたった一つだけ。

…悔しいほどに、たった一人のことだけで。

塞ぎ込んだり、自己嫌悪になったり。

卑屈になったり、心の中で文句を言ってみたり。

自棄ヤケになって、もう全部どうでもいいって思っても、本心はそうじゃない。

あんな人って思っても、心の奥ではあの人じゃないとって思ってる。

悪いところをたくさん挙げれば少しはすっきりするかなと思ったけど、思い出すのは優しさとか笑顔ばかりで。

そんなことを繰り返してたら、いい加減意地を張るのも疲れてくる。

諦めにも似た大きなため息を一つつくと、私はふわふわの枕に顔を埋め、心のままにあの人を想った。


一体いつから、こんなにも好きになっていたんだろう。

一体どうして、私はこんなに脆くなってしまったんだろう。

一人で生きていけると思っていた。むしろそう望んでいた。

いなくなると考えただけで辛くて涙が出てくるなんて、想像もしていなかったの。

ねえ…先生。


――ピンポーン


突然部屋のインターンホンが鳴り響いた。

時刻は17:30、一体誰だろうか。

先生はまだ仕事中のはずだから、もしかしたら佳穂が来てくれたのかもしれない。

私はそっと窓際から離れると玄関に向かい、ドアスコープを覗いた。すると、そこにいたのは意外な人物だった。


「おす」

ドアを開けて出迎えると、眞中くんが右手を挙げて微笑んだ。

「これお土産」

言って、小さな袋を私に差し出す。

受け取ってちらりと中を見ると、中華街のお土産と思われるものがいくつか入っていた。


「あ、ありがとう…でも、どうしてここが?」


教頭先生から、この部屋のことは他の生徒に伝えていないと聞いている。

私自身、佳穂にしか部屋番号を教えていないから、なぜ彼がここにいるのか疑問だった。


「大崎に聞いた」

「…佳穂に?」

「うん。どうやら昨日のことで俺、大崎の信頼を勝ち取ったらしい」


どこか得意げに笑う彼のそばで、私は予想外の答えに驚いていた。

だってついこの間まで眞中くんには気をつけたほうがいいと言っていた佳穂だったのに、まさかその佳穂が教えるなんて…。


「大崎は原田を守る最大にして最強の砦だからな。それをクリアした今、俺本気で原田にアプローチしていくつもりだから、覚悟してて」

「…でも私、眞中くんのこと…」

「うん、分かってる。今はそれでもいい。でも、簡単に諦められるような気持ちでもないから」

「眞中くん…」

「それから俺さ、もう気にすることやめたんだ」

「え」

「俺、ずっと原田とアイツが付き合ってるんじゃないかって思ってた。だからその証拠つかんで別れさせてやろうって思った。けどさ、そうしたところで結局、原田の心は俺にないじゃん。それってすっげーなんか虚しいし、やっぱ俺だけを見てほしいし。だから俺、もう追及しないよ。その代わり、これからは遠慮なく想いを伝えていくから。俺の方がいいって原田に思ってもらえるように」


確かな決意を宿した瞳で眞中くんは私を見つめてくる。

自分に想いが向いていないと知っていても迷いなくそう言える彼が、そこまで自分に自信を持てる彼が、今の私にはとても眩しい。


「ていうわけで。まず呼び方から変えたいなって。原田のこと、呼び捨てで呼んでいいかな」

「よ、呼び捨て?」

「嫌?」


問われて、私は少し戸惑ったけど首を横に振った。

だって、彼の気持ちが嬉しかったから。

こんな私だけど、誰かが見ていてくれるなら自分を頑張ってもいいのかもしれないって、思えたから。


「ううん…いいよ」

「お、よっしゃ!」


大袈裟にガッツポーズまでして喜ぶ眞中くんに、思わず笑みが零れる。

そんな私を彼は満足げに見ると、ポケットから携帯を取り出した。


「あともう一つ。連絡先交換しない?」

「え…あ、…うん」

これにも頷き、自分の携帯を差し出す。

「えっと、ちょっと待ってね、連絡帳だすから…」


基本的に人見知りの私なので、実を言うとこういうのはあまり慣れていない。

しかも私の携帯番号を知っているのは男では先生だけ。なんだか新鮮で、ひどく緊張してしまう。


「ちょい貸して?」

もたつく私に彼は苦笑すると、携帯を渡すように促した。素直に従うと、偶然にも同じメーカーの携帯だからだろうか、彼は慣れた操作であっという間に連絡先を登録してくれた。


「テスト送るから確認して」

「うん」


頷いた数秒後、携帯が震える。届いたメッセージをさっそく開いてみると、そこに綴られていたのは。


――『好きです』


驚いて彼を見上げると、さっきとは打って変わって真剣な眼差しとぶつかった。


「次は、()()から聞きたい」


その一言に、私の胸が大きくときめいた。


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