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今日の敵は明日の恋人〜先生に恋をしました〜  作者: RIKA
第二章

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2-6.防御壁

「何って…千沙が日誌出し忘れたから、それで」

彼がそこにいることは全くの予想外だったから、思わず声が震えた。


「それだけ?本当は別の用で担任に会いに来たとかじゃなくて?」


どこまでも勘のいい人だ。

だけど絶対に首を縦には振れない。無意識でもそれだけは分かっていた。


「…もうすぐ点呼の時間だよ。早く部屋に帰らなくちゃ」


私は強引に話をそらし、眞中くんの横を努めて平然に通り過ぎた。

そうして足早にその場を離れて階段を降りようとしたけれど…あっという間に眞中くんに追いつかれてしまう。


「原田!」

彼が名前を呼んでも私は振り返らなかった。ほっといてほしい、と暗に伝えるために。

だけどそれくらいじゃ彼は怯んでくれなかった。


「…待てって!」

「放して!」

眞中くんの手が私の腕を掴んだその瞬間、私は強く彼の手を払った。

激しい拒絶に彼の表情(かお)が歪む。

でもそれも仕方のないこと、その温もりは私が求めている手じゃない。何もかも違うのだ、あの手とは。


眞中くんが切なげに私を見つめる。そう分かっていても、私は頑として視線を合せなかった。


「話、聞いてよ。昼間のことなんだけど…」

「ごめんなさい」


彼の言葉を遮るようにして言い放った。今度は躊躇なく、きっぱりと。…本当はあの時、そうするべきだった。


「眞中くんの気持ちには応えられないの。ごめんなさい」


――だからもうこれ以上私には構わないで。


「…理由聞いていい?」

静かな声音で彼は尋ねた。足元を見つめたまま、私はいっそ淡々と答えた。

「好きな人がいるから」

これで引き下がってくれるはず、そう期待したのに。

「それって、担任?」

「まさか」

「なんで嘘つくの」

「嘘じゃない」

「そんなの、原田のこと見てればすぐ分かる」

「私の何が分かるって言うの?」


私は眞中くんをきっと睨みつけた。

全てを知っているわけでもないのに…私が過去にどんな傷を負ったのか、どれだけ先生に救われたのか、何一つ知らないくせに。

表面上の私しか知らない彼に、やっと掴んだ幸せを壊されたくない。


「もう私に関わらないで。こういうの、すごく困る」


彼の目を見据えて告げたら、眞中くんがはっと息を呑んだ。

さっき手を払ったことも、今の言葉も、きっと彼を深く傷つけてしまっただろう。

でも、この恋を守るためなら止むを得ない。

それほどまでに、私にとって先生は必要不可欠な存在なの。


「私、行くね」


彼を残し、私は一人歩きだした。

だけど階段を降り始めたところで、背中から聞こえたのは謝罪でも後悔でもなく――むしろどこか吹っ切れたような、そんな声だった。


「…なら、証明してみせてよ。今すぐここで」

「え?」


立ち止まって振り返ると、眞中くんの視線とぶつかった。


「俺聞いたんだ。原田に社会人の彼氏がいるって。昼間はいないって言ってたけど、どっちが本当?」

「…なん、で」


なぜそのことを?誰に?と思ったけれど、昨日の夜にそういう話を女の子達としたことに今さら思い至った。おそらくそこから漏れてしまったのかもしれない。

だとしたら、あの時口止めするのを忘れていたうえ、そのことを考えないまま眞中くんに嘘をついてしまった自分の落ち度だ。


「否定しないってことは、彼氏いるってこと?」


言い訳すらできず、ただ視線を彷徨わせることしかできない私を見て、眞中くんが苦笑した。


「そっか。俺に言ったことが嘘だったんだな」

「…ごめん、なさい」

「ショックだったけど、もういいよ。でもそうなるとさ、その相手が担任じゃないっていうさっきの言葉も、嘘かもしれないよな」

「…そんな、こと…」

「だったら証明してよ、俺の目の前で」

「証明…?」

「そう。今からその彼氏に電話して。それが担任の声じゃなかったら信じる」


――心臓が一瞬にして凍りついた。


「な、…に言…」


形勢逆転。今度は眞中くんでなく、私が言葉を失う番だった。

眞中くんは視線で私の携帯を示して続ける。


「その手に持ってる携帯で、今すぐ電話してよ。安心して、別にその彼氏に何か言うつもりなんかない。ただその声が担任じゃないことを確認したいだけ」


顔を真っ青にして言葉を失う私に、眞中くんが首を傾げた。余裕すら滲む笑みを浮かべて。


「え、なんでそんな顔すんの?彼氏に電話するだけじゃん、まさか携番知らないわけじゃないよな?電話して惚気れば俺も諦めるかもしれないよ?一石二鳥だろ?」


おどけるような態度とは裏腹に、その瞳は明らかに私を挑発している――できるものならやってみろ、と。

でも、電話なんてできるわけがない。そんなことしたら、今の今まで隠した意味がない。

――もう逃げられない、そう思った。


「相手が担任じゃなかったら、二度と疑ったりしない。原田にも関わらないって約束する。でもそれができないなら、俺の疑惑はもっと深くなる。真実を絶対に突き止めてみせるよ。そうしてその後は…分かるよな?」


疑惑、と言ったけれど、彼は私と先生が付き合っていることを確信していると思った。

ただ証拠がないから言い切れないだけで。

そしてついにそれを見つけたとき――彼は学校にそのことを暴露するつもりなのだろう。


(…先生)


心の奥で、先生を呼んだ。たった一人、私が愛して止まない人。

ねぇ、先生。私はどうすればいい?こんな時、なんて言えばいいの?


(先生…――!)


強く先生を心の中で叫んでみるけど、残念ながら返事は聞こえてこない。

聞こえてくるのはただ、速い心臓の音だけ。

返答に窮して私が無言でいると、眞中くんが私を急かした。


「どうした?早く電話しろよ。…それともやっぱり原田の彼氏って、」


勢いを失い呆然と立ち尽くす私に彼が一歩近づく。

後ずさりして距離を保つけど、すぐに詰められては何の意味もなさない。私はまさに絶体絶命だった。

…すると、その時。


「もー、こんなところにいた!」


突然階下から声が響いて、私たちは同時にそちらを見やった。

その存在を主張するかのように荒い足音で階段を上ってきたその人は…。


「佳穂…!」


そこにいた人物を認めて、私は安心のあまり涙がこぼれそうになった。

佳穂は頬を膨らませながらやってくる。いつものあの調子で、口を尖らせながら。


「ちょっとー、一体どこで道草食ってるのかと思ったら、こんなとこで何してんのよ。紗妃、もうすぐ点呼の時間だよ。早く行かないと廊下で正座させられちゃう!」


そう言って、佳穂は私の腕を掴むなり踵を返した。引っ張られるようにして階段を降り始める私、するとそんな私達を眞中くんが呼び止めた。


「大崎。今、俺ら大事な話してるんだよ。罰は受けないように俺が先生に説明する。責任は全部俺がとるから、大崎は先に部屋に帰ってて。原田に何をする気もないし、ちゃんと部屋まで俺が、」

「イヤよ」


眞中くんの言葉を遮って、佳穂がじろりと彼を睨みあげた。


「そしたら、私がここまできたのが無駄足になっちゃうでしょ」

「…大崎」


的外れな返答に、眞中くんが眉をひそめた。

だけど佳穂の表情は、真剣そのもの。


「言っておくけど俺は…」

「あのさ!例え眞中くんでも、紗妃を傷つけたら私許さないよ」


佳穂はそう強く言うと、再び私の腕を引っ張りながら階段を降り始めた。

普段滅多に怒りをおもてに出さない佳穂の睨みはかなり怖く、眞中くんにも効いたらしい。

彼はそれ以上何も言わず、険しい表情のまま静かに私たちを見送った。


「――バカね」

「…え?」


階段を降りきり、眞中くんが見えなくなったところで佳穂は手を離すと、背中を向けたまま言った。


「ああいう時は『今仕事中だろうから今度ね』とか言うのよ」

「…佳穂…?」


佳穂はそこで私を振り返る。少し顔をしかめて、私をまっすぐに見つめながら。


「紗妃は、優柔不断なところがあるよ。気付いてる?」

「…え」

「優しいのは紗妃のいいところだけどね、時にはそれが逆に凶器だって知っておく必要があるよ。…ったく、さすがの私も思わず冷や汗かいちゃったじゃない」

「あの…?」


佳穂の言葉の意味をイマイチ理解できてない私に、佳穂がため息をついた。


「本当は私、あそこで出る予定じゃなかったのよ。二人の話が終わった時に何気なく出るつもりだったのに。だってああいうのって第三者が入ったらややこしくなるもんでしょ。なのに、誰かさんがとことん追い詰められて今にも大ピンチそうだったから、つい助けちゃったの、心優しい私は!」


言い放って、佳穂が再び歩き出す。

そこまで言われて、私はようやく気付いた。

いつからかは分からないいけれど、佳穂は私たちのやりとりをずっと聞いていたということ。

でも私が眞中くんに追い立てられ、身動きが取れなくなったから、やむなく助けに入ってくれたのだということも。


「佳穂…ありがとう。ごめんね」


私をいつも想い、守ってくれる小さな背中。

その背中にぎゅっと抱き着いたら、親友は肩越しに私を振り返った。いつものように悪戯っぽく、佳穂らしい笑顔で。


「ケ〇タッキーのクリスピー3個で手を打つわよ」


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