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今日の敵は明日の恋人〜先生に恋をしました〜  作者: RIKA
第二章

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2-3.真夜中の逢瀬

深夜、ガールズトークの興奮がまだ冷めていなかったのだろうか、私は突然ふと目を覚ました。

周りの皆は話し疲れてぐっすりと眠っている。

枕元の携帯を見ると、午前1時を過ぎたところだった。


(どうしよ…)


一度目が覚めてしまったら、もう一度目を瞑ってもなかなか眠りにつけそうにない。

気分転換に外を少し歩いてみようかと思いついて、私はこっそりと布団から抜け出す。


皆の布団の隙間を縫うように忍び足で部屋を抜け出し、少し薄暗い廊下を足音を立てないよう慎重に歩く。

確か、上の階に自販機コーナーと休憩用ベンチがあったはずだ。少し部屋からは離れているけれど、こんな時間だし、誰も来ないだろう。


静かな廊下を歩きながら、夜遅くまで話していた皆の恋話を思い出してみる。

あの後、今度は佳穂が問い詰められていた。

佳穂はなんてことなさそうに話してたけど、それでもちょっと、なんだか照れくさそうだった。

実は佳穂には他校に同い年の彼氏がいる。名前は孝太こうたさん、1度だけ会ったことがあるけど、すらりとした身長と黒縁メガネが印象的なインテリ男子だ。ちなみに、やはりと言うべきか、主導権は完全に佳穂が握っている。

もしも、孝太さんを先生と会わせてみたら、先生がどんな反応をするのか見てみたい。

きっと先生、ムスってすると思うな。だって、佳穂のお兄さんだもん。先生って、なんだかんだ言って佳穂を可愛がってると思う。先生は思いっきりそれを否定するけど。


(…――あ)


自販機コーナーが見えてきたところで、そのすぐ側に設置されているベンチを見て思わず足を止めた。

なぜなら、そこに私がよく知っている人の横顔を見つけたから…。


「…先生?」

近づき名前を呼んだ瞬間、先生が弾かれたようにこちらを振り向いた。

みるみる広がる驚きの表情。先生は手に持っていた携帯をしまって立ち上がった。


「どうした?何かあったか?」

こんな夜中に私がここにいることを緊急の用だと思ったのだろう、どこか顔を強張らせている。

私はあわてて首を横に振って答えた。


「いいえ。なんだか目が覚めてしまって…ちょっと気分転換にと」

「…そっか」


緊急事態じゃないことを知って、先生は少し安心したようだ。

それからふと自販機を一度見て、私に笑う。


「なんか飲む?買うよ」

「え…でも」

「いいよ。どれがいい?」

なんだか断れない気がして私は「…じゃあ」と自販機のメニューに目を向ける。

その中に大好きなコーヒーミルクを見つけたから、迷うことなくそれを指差した。


「コーヒーミルクで」

すると先生が一瞬間をおいて、突然吹き出した。

「…先生?」

私は急に笑い出した先生を、怪訝な顔で見上げる。先生は口元を手で押さえながら、可笑しそうにしている。


(…――あ)


「…先生」

先生が笑う理由に思い当って、私は頬を膨らませて先生をねめつけた。


「仕方ないじゃないですか、好きなんだから…」

不機嫌に呟いたら、先生が笑って頷いた。


「うん、分かってるんだけど。なんかさ。変わってないなぁと思って」

「子供扱いしてる…」

「でも、可愛い」


そんなこと言われたら、何も言えなくなる。

ガタンと取り出し口に落ちてきたコーヒーミルクを手に取って、先生が差し出した。

その時ほんの少しの悪戯心が顔を出して、私はさっきのお返しとばかりに先生を意味深に笑って見上げた。


「…あの時みたいに、もう冗談は言ってくれないんですか?」


そう言ったら、先生が少し驚いたように目を見張って。それから困ったように笑いながら頭を掻いた。


「まだ覚えてたのか、あれ。めっちゃスベッたよな、俺。…あー、今思い出しても恥ずかしい」

「でも、嬉しかったです、私。あの時、すごく緊張していたから」


今でも鮮明に覚えてる。

あの時、先生がそうやって何とか私の緊張を解してくれようとしたこと。

ねえ知ってる?あの日、私はとても久しぶりに笑ったんだよ。


「もうちょっとマシなこと言えなかったのかなって…すげー後悔してる。でもさ、俺スベるなんてこと滅多になくて、あの時はなんていうかたまたま…」


必死に弁解しようとしてる先生がなんだかおかしくて、今度は私が思わず吹き出してしまう。

そんな先生もまた、愛しい。


「先生は、素敵な人です」

「俺はもっとおもしろい奴で…――え?」


弁明の途中、呟いた私に先生が固まった。

私はそんな先生を見上げて笑って、ベンチに腰を下ろす。その隣に、躊躇なく。


「誰よりも、私が知ってます。先生は私が知ってるどんな人より、素敵でかっこいいです」


そして途切れる会話。

先生を見上げてみると、先生は驚いたような顔で固まっている。

そんな先生が可愛くて小さく笑うと、先生は居心地悪そうに頭を掻いてそっぽを向いた。


「…そういうの、不意打ちって言うんだぞ」

「ごめんなさい」


先生の温もりが隣にある、それだけで私は安心した。

真夜中の静かな廊下。私達が喋らなければ、自販機以外に音はない。

なんだか秘密の逢瀬のようで、皆が泊まっている部屋は随分と離れているのに、自然と話す声の大きさが小さくなった。


「今日一日、あっという間でした。明日も楽しみです」

「そっか」

「先生は、どんな一日でしたか?仕事ですけど、楽しめましたか?」

「んー…まあ楽しくなかったわけじゃないけど。後悔もした、かな」

「え。どうして?」

意外な言葉に、私は傍らの先生を見上げた。その横顔は笑っていなかったから、その言葉は紛れもない本心だと気付く。

「紗妃と別のコースならよかったのにって」

「――…っ!」


先生の言葉が、私の胸に鋭く突き刺さる。


(…ど、うして)


どうして。どうして、そんなこと言うの?

私は、先生と一緒のところがよくて、このコースを選んだのに。

先生は、私のことが嫌になったのかな?

学校行事にまで私生活を持ち込むなって、怒っているのかな?

私と何日も会えなくても平気だったのかな?


急に胸がぎゅっとなって、目頭が熱くなって。

先生に迷惑なことをしてしまったのかもしれないと反省の気持ちと悲しい気持ちとが入り混じって、泣きそうになる。

でもこんなところで泣いたらそれこそ迷惑だろう。だからなんとか涙を堪えていたんだけど…。


「そしたら、仕事だって思えるのに。今だって、明日も朝が早いからって爆睡してるはずなのに。…でもダメなんだよ。どうしても割り切れなかった。一日中、いつも以上に紗妃のことばかり考えてる。紗妃が班の奴らと笑ってるのを見る度に悔しくて。何で俺は教師なんだろう、生徒じゃないんだろう。そしたら紗妃とずっと一緒にいられるのに。班から抜け出して二人で観光したりなんかして、んで先生に叱られたりして。…そんな風に、たくさん思い出作れるのに。教師という立場が、生徒じゃないってことがこんなにも大きいなんて」

「先生…」


見たことないくらいに切なげな先生の瞳。

それはさっきとは別の意味で私の胸を締め付けた。


「…本当は、今俺がここにいるのだってさ。昼間のこと思い出したら嫉妬で眠れなくて。紗妃が男子と仲良くしてたりするのを、あと4日も我慢して見なくちゃいけないのかって思うと…やりきれなくて」

「せん、せい…っ」


心臓が苦しくて、言葉も詰まって。

私はどうしようもなくて、隣の先生に抱きついた。


「俺、今まで教師であることを嫌に思ったことなんてないのに。でも今日はダメだった。不本意だけど…佳穂にすら嫉妬したよ」


先生の言葉に熱い涙が零れて、どんどん先生の服に染み込んでいく。

涙はそれでも止まらなくて、静かに泣く私を、先生が優しく抱きとめてくれた。


だって、嬉しくて。先生がそんなことを思ってくれたなんて…すごく嬉しい。

だから私も思わず、本音を零していた。


「私だって…!今日、楽しかったけど本当はすごく悔しかった。だって先生、いっぱい女の子たちと写真撮ってたもん。あの子たちが先生と撮った写真、全部消してしまいたい。だって、私の先生なのに。先生の腕を組んでたあの子、もう嫌い。先生に笑いかけたあの子も嫌い。私以外、先生に触っちゃダメなのに。先生は私のものなのに。…そんなことばかり、今日は考えてたんです」


先生も佳穂も周りの友達も、皆、私をよくピュアだとか優しいだとか言う。

でも本当は違う。本当はみっともないくらい嫉妬深いし、心が狭いの。

先生を独り占めしたい。先生に近づく子は皆キライ。

先生が他の子に笑っていると、たとえそれが仕事だとしても、子供みたいに駄々をこねて、大声をあげて泣いてしまいそうになる。

そんな風に、醜い私が心の奥にいる。

そしてそれは決まって、先生絡みのときに顔をだす。


「一緒なんだな、俺達」

先生が少し笑って、私の顎に手を添えて上に向けた。

私の涙を拭って微笑む。それはいつもと変わらない優しい笑顔。私だけに見せる、特別な。


「二人して、ヤキモチ妬いたな?」

「…ですね」


先生はその大きな手で私の髪を撫でると、愛しげに私を見つめて肩を抱き寄せた。

そうして二人は、そっとキスをした。


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