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今日の敵は明日の恋人〜先生に恋をしました〜  作者: RIKA
挿話1

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23/64

この雨の向こう側に

時間軸は、同居開始から数日後です。

紗妃と龍、それぞれの視点で。

**[Side Saki]**


「…雨か」

窓の外を見上げて先生が呟いた。

昨夜から降り始めた雨は朝になっても止まず、せっかくの祝日の朝を薄暗くしている。時折激しい雨音が聞こえてきて、心なしか先生の気分も少し低めのようだ。

「午後には止むって言ってたけど、本当かな」

私は先生の呟きには特に答えず、黙々と朝食の後片付けをしていた。

返事を求めるように先生が私を振り返ったのは分かっていたけど、敢えて無視した。


先生と「賭け」の中で暮らし始めて数日。

新しい生活のやり方もなんとなく分かり始めてきて、今ではそれなりに自由も感じている。

だけど先生とは、最低限しか話さない。学校での会話が生活の内容に変わっただけ。

といっても、さっきみたいに先生はよく何気ないことを話しかけるけど、私に会話を続ける意思がないからそれもすぐに終わってしまう。

先生が家にいる時、基本的に私は自室にこもっているので、二人が顔を合わせる時間はごく限られているといっていい。

そんな風に、できるだけ先生と関わらずに、私はただ一ヶ月が過ぎるのを待っていた。


「…じゃあ、部活行ってくるから」

先生が車の鍵を取って、部活用のスポーツバッグを手に取る。

それには頷いて答えるだけで、私は洗った食器を布巾で拭いて黙々と食器棚に入れていく。

「何かあったら連絡してくれ」

それにも返事をする意思はない。食器棚に皿をしまい終えると、私はエプロンを外してキッチンを足早に出る。

そうして全てのものを遮断するように、部屋のドアをぴしゃりと閉めた。


外が曇っているせいか、部屋の中に明るい光は差していない。

でもそれが私には却って心地よかった。

「…1ヶ月…」

カレンダーを眺めて、溜息をつく。まだ始まったばかりの賭け(ゲーム)

短いようで、長い。だけどこの1ヶ月で残りの高校生活がどうなるかが決まる。

絶対に負けられない。一瞬でも隙を見せたらダメだ。

だから、私は先生となるべく接触を持たず、ただ1日が終わるのを待っている。

そうしてあと二十数日やり過ごせば、私は本当に自由になれるんだ。

――それなのに、どうしてだろう。

先生に背中を向けるたび、何かが自分を責める。何かが不器用に、なっていく。


窓の外には灰色の雲が重く垂れこんでいる。雨は激しく、未だ止む気配はない。

あの向こうに太陽があるように、私の未来にも光はあるんだろうか。

待っていれば、雨上がりの空にも虹がかかる?

この日常の先で、私は一体何処に辿り着くのだろう――そんなことを独り、考えていた。






**[Side Ryu]**


「ただいま。…原田?」

部活から帰ってきたら、原田がリビングのソファで眠っていた。

テーブルには栞のはさまれた文庫本が置かれている。おそらくそれを読んでいるうちに眠くなってしまったのだろう。

俺がいるとき、彼女は滅多に部屋から出てこない。だからこんな無防備な姿を見るのは初めてだった。まさかこんなに早く俺が帰ってくるとは思っていなかったに違いない。

大雨だったために外練ができず、早めに部活を切り上げてきたのだが――こんな幸運が待っているとは。


「原田?」

もう一度呼んでみる。ぐっすり眠っているのか、起きる気配はない。

そっと屈んで覗きこんでみても俺の気配に気付く様子はなく、思わずその寝顔に見とれた。

長い睫が白い肌に影を落としている。手を伸ばせば触れてしまえそうなほどの至近距離で、俺は目に焼き付けるように彼女を見つめた。


――1ヶ月。

我ながら、変な条件を出したと思う。

たった1ヶ月の間に原田の男嫌いを治せるなんて、そんな確証はっきり言ってどこにもない。

だけどあのままじゃ原田は間違いなく俺の手の中をすりぬけ、遠くへ行ってしまっただろう。

そうしたらまた今までと同じ日常が待っている。俺は教師で、原田は生徒で――実際は、それが正しいのかもしれない。


だけどそれを認めてしまうのは嫌だった。教師と生徒だから、なんて理由で諦めたくはなかった。

これが俺にとって最初で最後のチャンス。

1ヶ月かけて原田のことをもっと知りたいし、原田にも俺を知ってほしい。

その結果が惨敗だったとしても、俺と彼女の関係は生活援助という形で続く。

極端な話、金蔓と呼ばれようが構わない。彼女と繋がっていられるなら、それだけでいい。


たとえ1ヶ月後にどんな結末を迎えようとも、俺はこの瞬間を決して忘れない。

原田と過ごす二人きりの時間。彼女の人生にたった一度きりのこの瞬間は、確かに俺とともに在る。

それだけのことが、これ以上なく幸せだと思う。


ふと気付くと、いつの間にか窓の外の雨は止んでいた。

視線をあげると、雲の隙間から小さな光が射しこみ、暗い街を淡く照らし始めていた。

いつか彼女にも。あんな光が訪れたらいい。


「…紗妃」

声にもならないくらいに小さな声で、彼女の名前を呼んでみた。

いつかそんな風に呼んで、それに彼女が笑って頷いてくれたなら――もう他に何も望むものなんてないのに。


明日何が起きるかなんて、誰にも分からない。

それはこうして俺と原田が同居するようになった経緯を見れば明らかだ。

だから俺は、この賭けが無謀だとは思っていない。

どれだけ時間がかかろうと、きっと彼女を振り向かせてみせる――そして彼女に教えてあげよう。

止まない雨はないこと。そして雨上がりの虹の向こうに、見たことのない綺麗な景色があるんだってことを。


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