1-19.あなたに、恋をした
一章最終話です。
キスの後はなんだか照れくさくて、先生を直視できなかった。
赤くなった顔を隠すために俯いたけど先生にはお見通しだったようで、くすくすと笑う声が聞こえた。
…仕方ないじゃない、こんなの初めてなんだから…。
すると先生が、より強く、まるで爆発しそうな感情を抑えきれないように、ぎゅっと私を抱き締めた。
少し息苦しいくらいが、却って先生の想いを表しているようで嬉しい。
鼻腔をくすぐるのは先生の優しくて穏やかないい香り。いつまでもこうして包まれていたい。
「…あ」
先生に抱きしめられながら、ふと私は思い出した。
「あの、先生」
「うん?」
「賭けは、先生の勝ちですね」
そう言ったら、先生はほんの少し抱きしめる力を弱めて。
どこか気まずそうに私を覗き込んだ。
「や…けど俺、その前に約束破ったし」
「いいえ、破ってないです。だってあの時…先生が私を助けて初めて触れた時、抱き締められて嫌だって思わなかったから。でも先生、最初何か言ってましたよね?先生が賭けに勝ったら、願いことを聞いてもらうって。あれって、なんなんですか?」
「ああ、あれ?もういいんだ、叶えられそうな方向だから」
「え?」
「これからも一緒に暮らそうって言おうと思ってたんだ、実は。まずは原田の男不信を直して、それからちゃんと告白しようと思ってたんだけど…眞中と原田が付き合ってるって噂を聞いた時、全部狂ってさ」
先生は苦笑しながら、少し視線を逸らして続けた。
「自分でも情けないけど、嫉妬した。もし原田が眞中を好きなんだとしたら、もう俺の入る余地なんかないって思って。…で、気付いたらもうどうにでもなれって勢いで告白してた」
「嫉妬…?」
「そう。で、案の定その後ギクシャクして…正直、かなり落ち込んだ」
そのことはもしかするとあまり思い出したくないことだったのかもしれない。
先生はばつが悪そうに呟くと、話題を変えるように続けた。
「あとさ、その…俺以外の男に対しては不信のままでいてくれていいから。つーか、むしろそうでいてほしいっていうか…」
言葉尻が小さくなる先生。言いにくそうに、それでも言葉を探していた。
「我儘なのは分かってるんだけどさ…できれば原田の中で特別なのは俺だけでいてほしいなって…」
先生は耳のあたりをかきながら、必死に平静を装おうとしている。
不謹慎かもしれないけどそんなところがなんだかとても可愛くて、愛しさが溢れ出した。
「…なら、ずっと私だけを見ていてくれますか?」
ほんの少しの悪戯さえ含んで強気に訊ねたのは、多分心のどこかでその答えをわかっていたから。
だって先生はその言葉で、態度で、温もりで、その誠実さを証明してきた。…ほら、今だって。
「そんなの――もうずっと前から、そうだよ」
一章終了となります。
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