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今日の敵は明日の恋人〜先生に恋をしました〜  作者: RIKA
第一章

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1-17.本当の気持ち

翌日、土曜日の昼間。私は数週間ぶりに佳穂の家へ来ていた。

先生と同居を続けることにした、私からそうお願いした、と佳穂に電話で報告したら、詳しく聞かせろと呼び出されたのだ。


「兄貴から引っ越し止めるって電話あった時からそんな予感はしてたけど…それってつまり、やっぱ兄貴に恋してるってこと?」


先生と同じ質問をする佳穂に、私はやはり明確な答えを提示することができない。

分からない、と素直に答えると、佳穂は「そう難しいことじゃないと思うけどなぁ」と前置きしてこう言った。


「紗妃は、兄貴といても嫌じゃないんだよね?側にいたいって思ったんだよね?それってこれまでの紗妃からしてみれば、革命的なことだと思うんだけど。それが恋じゃないとしたらなんなの?憧れ?」

「憧れ…」


分からなくはないけれど、そうとも言えない気がした。

そもそもその二つの違いって何だろう?似ているようで、でも何か決定的に違う気がする。

そんな疑問を抱いたのは佳穂も同じようで、携帯を開くと何やら調べ始めた。


「『憧れとは、ある人や物事に対して尊敬を抱き、自分もそうでありたいと思うこと。恋とは、特定の人に強く惹かれること。例えば憧れはその人の能力や行動に惹かれる気持ちだが、恋はその人の個性や人間性に対して強い興味や愛情を伴うもの』だって。…どうよ?」

「うーん…」


尊敬はもちろんしている。先生個人に対する興味もある。

あとは特別な愛情があるかどうか、か。でもそこが分からないから悩んでるわけで…。


堂々巡りで悩み続ける私に佳穂は大きくため息をつくと、重たい空気を振り払うように続けた。


「あのさ、これはあくまで私の意見なんだけど。個人的にはその違いって、深い関係になりたいかどうかって気がするのよね。例えば手を繋ぎたいとかキスしたいとか…つまり、その人を独り占めしたいかどうか」

「独り占め…」

「もっと兄貴のこと知って、近づいて、二人きりになって…そういうのをさ、兄貴が他の誰かにしてたらどう思う?」

「――!」


先生のあの優しさが、笑顔が、他の誰かに向く。そう考えた途端、胸がざわついた。

最初に思ったのは、それは嫌だ、ということ。そして次に、できればあんな素顔の先生を知るのは私だけであってほしいと。

そう――思ってしまったのだ。


「佳穂…私…」

ついに辿り着いた答え。戸惑いを隠せないまま佳穂を見やると、それが伝わったのだろう、佳穂が「あーあ、やっぱりかぁ」と肩をすくめた。


「そもそも好きかどうかなんて直感的なもので理屈で説明できるもんじゃないんだけど…なんかそんな気がしたよね。だって紗妃、最近よく笑うようになったもん。愛想笑いじゃない、本当の笑顔で」

「…そう?」

「そうだよ。それって心が安定してる証拠でしょ?うちに来ることも減ったし」

「言われてみれば…そう、かも?」

「そうかもじゃなくて、そうなの!これほどの心境変化がおきるの、恋しかないから。まあ、よりによってなんでアイツなのって感じだけど。男の趣味悪すぎない?」


佳穂の最後の言葉は聞かなかったことにするとして――なんていうことだろう。まさか私が誰かに恋するなんて。


「でも…だとしても、この想いは伝えられないよ。だって、愛なんて幻想だもん。いつか消えてしまうものだもん…」

「それで紗妃の心は納得できるの?自分の想いに蓋をして、兄貴がいなくなっても紗妃は後悔しないの?」

「それは…」


言葉に詰まって、何も言えなかった。

だってそれは、先生を引き留めた時に痛感している。

そんな私に、私の過去をついさっき知ったばかりの佳穂は真剣な表情で告げた。

それはきっと彼女なりの忠告アドバイスであり、精一杯の応援エール


「愛は幻想って言ってたけどさ、好きだという想いが確かなら、幻想にならないように努力してみたらいいんじゃない?愛って形ないものだからこそ、強くなるのも脆くなるのもその人次第だと思う」

「努力、なんて…。そんなこと、私にできるのかな」

「できるよ」

「できなかったら?先生を巻き込んで傷つけてしまったら?だって私愛情が何かも分からないんだよ」

「そう言ってる時点で、紗妃は自分が思っている以上に愛情深い人間だよ」

「え」

「だってそれってつまり大切な人を自分のせいで傷つけたくないってことでしょ。誰かを大事に想う気持ちが愛じゃないなら、一体何が愛だっていうの?」


断言した佳穂に反論する言葉などもうなかった。

親友の言葉に後押しされ、長い間頑なに閉ざしていた心の扉が、今静かに開こうとしている。


ずっと、期待することは悪だと思っていた。何も求めず、現実だけを生きて行くほうがよっぽど楽だと。

だけど先生に出逢って、私はようやく気付き始めているのかもしれない。

それだけじゃ生きていけないこと。それだけじゃ悲しすぎること。だから――。


もう一度だけ、勇気をだしてもいいのだろうか。

もうあと少しだけ、手を伸ばしてもいい?


(信じてみたい)


素直にそう思った。

先生を、この想いを信じてみたいと。

踏み出す一歩は私の全てを変えてしまうだろう。そう考えると足がすくむけれど、その先にはきっと今よりもっと輝く未来が在る。

そう信じて進んでみよう。大丈夫、例え崩れそうな橋だったとしても渡れるはずだ。

先生という支えを手に入れた今の私なら、きっと。


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