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売れ残り貧乏貴族がクビになったけど、なんやかんやでイケメンに囲まれる話

作者: 桃野産毛
掲載日:2025/07/12

「不採用。ごめんね。」


 そう言い放たれた私は、

膝から崩れそうになるのをこらえて、

笑顔を作ってお辞儀した。


 王国歴165年。


 王制を撤廃し、

共和国として新たな門出を迎えた我が国イウノア。

五十年前から準備をしてきた貴族たちは領土を返還し、

平民になった。

 紆余曲折はあったが、

貴族たちのほとんどが王制の撤廃に賛成していたので、

いざこざは小さくすんだ。


 そんなこんなで、

貧乏貴族の私も平民になった。

婚約者がいなかった私は、

当座の資金を渡されて一人立ち。

領地を離れて小さな家を借り、仕事を探し始めた。

 仕事さえあれば、なんとかなる。

そう思っていた。


「世間は甘くない……。」


 肩を落として夕暮れの町を歩く。

これで百件目の不採用。


「辛い……。

明日には家も引き払わなきゃいけないのに。」


 もう手渡された資金は底をついた。

一人立ちして一年。

仕事は見つからない。

 貧乏だったが、

貴族の教育はされていたので文字の読み書きや計算はできる。

かなりのアドバンテージだと思っていたのが、

間違いだった。


「似た境遇の人が多すぎる。」


 独りゴチる。

そう、私と同じような理由で職を探す人がたくさんいたのだ。

さらに言えば、皆容姿が良い。

男女問わず、元貴族と言うと見目が麗しい。

 それに引き換え、私はどうだ?

つぶれた鼻。

畑仕事でそばかすだらけの頬。

一重の上に三白眼。


「並べられると、どーしてもダメだ。」


 同じ能力なら、見目が良い方を選ぶ。

野菜や魚を選ぶのと同じだ。

多分私が選ぶ立場でもそうするので、

強く否定できない。


「もう、身体を売る?

……売れなかったら、絶対立ち直れない。」


 自分でも自身の身体を貧相だと思う。

骨張った身体には女性らしさが微塵もない。


「帰って片付けをしないと。」


 こぼれそうな涙をこらえながら、

私は家路を急ぐ。



 朝、大家さんに家の鍵を渡しに向かう。

私物がここに来た時より減ってしまって、

小さなトランクひとつで間に合った。

自嘲しながら、大家さんの家を訪ねる。


「大変お世話になりました。」

「えぇ。

でも、本当に大丈夫?」


 大家のアンリさんが、心配そうに聞いてきた。


「仕事、またダメだったんでしょ?」


 この人の情報網は末恐ろしい。

昨日の話がもう届いているのか。


「あははは……。

今日からは、泊まり込みできる仕事場を探します。」

「もしよかったら、ここ行ってみて。

泊まり込みできると思うし。

オバチャンの紹介だって言えば、

多少融通してくれると思うし。」


 アンリさんが半ば強引に手渡してきた紙。

私は作り笑いをしながらお礼を言って受け取った。

正直、こんなのをくれるなら、

もう一月いさせてくれた方がありがたかった。

 トランクを手に職業案内所に向かう。

職業案内所は毎日通いつめていた。

そのせいか、

私が門戸を潜ると職員たちは目を背ける。

百敗した女を相手にしたくない、といったあからさまな態度だ。

 それでも私は藁にすがる思いで職員たちに話しかけ、

職を斡旋してもらいたいと願う。

だが、誰も私の手をとることはなかった。



 私はお昼のパンを飲み込み、

アンリさんに渡された紙を開いた。

雑用と帳簿の管理の仕事らしい。

賃金は高くないが、泊まり込みで働ける。

二食は賃金途別で出るのは悪くない。

 私は自分にそう言い聞かせ、

紙に記された場所へ向かう。


「ここ……かな?」


 街の職人街の奥にある鍛冶の工房。


「あぁ?

……ちっ!

おい! コイツ案内しろ!」


 気難しそうなひげ面の男はそう叫んで、

面接は終わった。

案内されたのは屋根裏の狭い部屋と、

床に敷かれたシーツだけだった。



 働きだして二年。

毎日怒鳴られ、殴られる。

髪はぼさぼさ。

手はガサガサ。

 夜もろくに眠れない。

仕事があってもろくなものじゃなかった。

食事は野菜の端のスープ。

お給金もスズメの涙。


「なにやってんだろ。」


 夜な夜なそう考えて、溢れる涙をこらえる日々。

私は心身ともに限界だった。



 ある日、身なりの綺麗な男性が事務所を出ていった。


「御祝いの品、しっかり承りました。」


 気持ち悪いくらい顔を歪めて笑う親方。

男性が会釈して立ち去る。

 あれこそ貴族、といった立ち振舞い。

ただ羨ましい。

 数日後、事務所を訪れると親方が綺麗な箱に詰めたブローチを皆に見せていた。

私はそれを見て、思わず叫んでしまった。


「そのデザインはダメです!」

「なんだ?!

職人でもないヤツが仕事にケチつけんじゃねぇ!」


 私は日頃の鬱憤をぶちまけるように捲し立てる。


「黄色いキンセンカは、

御祝いの品にデザインしちゃダメなんです!

貴族制が廃止になっても、

こう言う慣習を気にする方はまだまだいます!」

「黙れ!」

「黙りません!

御祝いに泥を塗るつもりですか?!

私は止めました!

誰になんと言われようと、止めます!」

「うるせえ!

今日はメシ抜きだ!

部屋にもどれ!」


 私は大騒ぎして、

親方に殴られ若手に引きずられ部屋にもどされた。



「何て物を!」


 翌日、事務所から聞こえる怒号。

親方の声じゃない。

きっとあのお貴族様だ。

 だから、止めたのに。

これでも私は貴族教育を受けている。

花と色に意味をこめて送るのは、

貴族の慣習としてポピュラーなものだ。

 もちろん、悪い意味もある。

同じ花でも、色違いで大違いになる。


「結婚式の祝いの品に、

こんなものを渡せない!」


 私は事務室から飛び出した貴族の男性とぶつかってしまった。


「失礼。大丈夫?」


 なんと綺麗なご尊顔。

至近距離では光ってすら見える。

 私は言葉を失い、

壊れた人形のように首を縦に振った。

立ち去る彼を見送り、事務室に入る。

 事務室には呆然自失の親方と、

棒立ちの職人たち。

そして、その真ん中にはやはりあのブローチがある。

 親方と目があった。

その顔はみるみるうちに怒りに燃える。


「出ていけ!」


 殴り飛ばされ、

玄関から外に飛び出た私を誰も彼も目を背けて直視しない。

私のトランクが投げつけられ、

私のこめかみに当たった。


「お前のせいだ!」

「わた! 私は止めました!」

「うるせえ! お前が悪い!」


 言い返せど、聞く耳なんて彼にはない。

真夏の日差しに炙られ、

額から滴る血で服を汚し。

ただでさえ汚い私がどんどん汚れていく。

誰も彼も、私に目を背ける。

 ふわりと、入道雲が私をかばう。

入道雲からは美味しそうな甘い匂いがした。


「なんの騒ぎだい?」


 アンリさんだ。

親方たちが水を打ったように静まりかえる。


「そ、そいつのせいで、

大口の仕事がわやになった!」

「聞いたよ。

アンタがこの子の話を聞かずに、

仕事をしくじっただけだろ?」


 この人の情報網は本当に何なんだろう。


「違う! そいつのせいだ!」

「誠実でなきゃ、腕がよくても職人じゃねぇ。

そう言ってた口と今の口は、同じ口かい?」


 アンリさんの言葉になにも言い返せない親方。


「この子はこれでも元貴族。

そう言う仕事の時に役立つと思って紹介したのに。

これかい?」


 アンリさんはしゃがみこみ、

私の額にハンカチを当ててくれる。


「あ……。血が。」

「いいよ。ハンカチはあげるから。」


 そう言ってアンリさんは笑った。


「な、何の用だ?」


 ひり出すように親方が言う。

アンリさんは親方を睨み付けた。


「家賃の回収だよ。

三ヶ月も待ってやったんだ。

今すぐ耳を揃えて払いな。

嫌なら、荷物をまとめて出ていきな。」

「だから大口の仕事が……。」

「払えないのかい?

なら、出ていきな。」


 親方はアンリさんを睨み、

工房へ駆け戻る。

部屋の奥から声が聞こえる。


「親方!

それは材料費です!」

「馬鹿野郎!

ここを追い出されたら、

材料があっても仕事ができねぇ!」


 虎の子の材料費に手をつけるらしい。

それを確保するのに、

私がどれだけ頭を下げて頑張ったか知りもしないで。

 戻ってきた親方が、

お金の入った皮袋をアンリさんに投げ寄越す。

アンリさんはそれを開いて中を確認した。


「確かに、三ヶ月分だ。

来月は待たないからね。

ちゃんと払いなよ。」


 アンリさんに支えられながら、

私は工房を去った。

 アンリさんの家に久々に入り、

お茶を出された。

私はゆっくり飲み干し、

止まらない涙をぬぐう気力もなく、

アンリさんの辺りをぼぅっと見る。


「本当にすまないね。

結婚前の娘に、こんな酷いこと。

 さすがにあそこを紹介した私にも非がある。

退職金だと思って、これを受けとりな。」


 アンリさんはさっき親方から受け取った皮袋をそのまま私に手渡した。


「……でも。」

「いいんだよ。

今日は宿を私で用意したから、

そこでゆっくり休みな。

 服を買って、

おいしいものを食べな。」


 私はぼぅとしたままアンリさんに引き連れられて、

宿に泊まった。

久しぶりの暖かいお湯で身体を清め。

柔らかいベッドで眠った。

宿屋のお代は、

いつの間にかいなくなっていたアンリさんが払っていた。

 とりあえず、服を買おう。

血や煤で汚れたボロの服を着替えるため、

古着屋に行った。

運良くサイズがあったので、

その場で着替えさせてもらってお代を支払う。

 身綺麗にしただけだが、

生まれ変わった気分だ。

 だが、これからどうしたものか。

今から職業案内所に向かっても、

なしのつぶてに決まってる。

 街を出ていけるほどの資金もない。

帰る家ももうない。

両親は家を引き払って、

遠く他国に嫁いだ姉の所だ。

 このアザだらけ傷だらけの身体を、

誰かが買ってくれるとも思えない。

 私はあてもなくふらふら街をさ迷う。

これならこのお金を孤児院に寄付して、

川に身投げした方が建設的だし楽で良い。

そう決めた私は教会の孤児院に向かう。


「見つけた!」


 後ろからそう聞こえたが、

私は関係ないものだと決めつけて歩き続ける。


「待ってください!」


 また聞こえるが、

誰を探しているのか。

名前くらい呼べば良いのに。


「すまない!」


 そう言って誰かが私の肩を掴んだ。

振り替えると、

昨日見たご尊顔が至近距離にいる。

 驚き声を失う私に、彼は話し出した。


「本当にすまない。

急いでるんだ。

君なら貴族の習慣に詳しいと、

アンリ殿から聞いた。」


 アンリさん、本当に顔が広いんだ。


「馬車の中で話そう。

メリザ、彼女を馬車へ。」


 いつの間にかいたメイドさんに手を引かれ、

馬車に乗せられた。

後から思えば、

なんとうかつで愚かなことだと思うが。

正面に座った彼は紳士的に話し始めた。


「姉の結婚式なんだ。

祝いにブローチをと思って発注したんだが。

おそらく、ご存じの通り。

親族でも渡せない代物だった。」


 アンリさん、どこまで話したの?


「後数日しかない。

君の知恵を借りたい。

なんとか、

プレゼントを用意できないだろうか?」

「あ……。

えっと、その。

この町は元々王族直轄領だった時期が長くて、

そのまま王制撤廃された所です。

貴族を相手にした商売の歴が浅いんで、

私みたいな貴族くずれを雇ってもらえるんで。

 その、昔から貴族とやり取りのある職人か商人の方にお願いした方が……。」

「実は、理由あって私と姉は昔ここに隠れ住んでいてね。

そういう縁もあって、

ここの物を贈りたかったんだ。

まさか、こんなことになるとは。」


 美男子は、困った顔すら絵になる。

そうじゃなくて、

とりあえず私で分かるものはお伝えしよう。


「王族が唯一ここでとっていたのは、

野菜でした。

交易も野菜が主体で、

鍛冶屋はあそこともう一件くらいしか。

……あ。」


 どさ回りの時に、

小耳にはさんだ話を思い出した。


「そう言えば、

ご隠居さんが昔王族に頼まれて木工細工をしてたって……。

でも、木工だし。」

「いや、それがいい!

姉の嫁ぎ先は木こり伯、と呼ばれる方だ。」


 とりあえず、私は職人町につれていってもらい、

ご隠居の元を訪れた。

ご隠居が貴族様を見て嬉しそうに目を細めた。


「これは、これは。

大きくなられて。」

「……はて、どこかでお会いしたのか。

私も何となく貴方の顔に見覚えが……。」

「それだけで、私は嬉しいでさぁ。

私は貴方の揺りかごや、

積み木を献上した者でさ。

 第八王子、

小さい頃の貴方のお気に入りの木馬も私の作ったものです。」


 第八王子?!

私は声も出せず、

開いた口も閉じられなくなる。

 思わぬ繋がり、思わぬ再開だが、

時間がない。

私は買いつまんで説明した。


「難しいでさぁ。

私ももう歳で、手元が見えんくての。

是非にもお力になりたいが、

納得できるものが作れません。

 ただ、不肖の弟子がいまさぁ。

ちょうど昨日この町に帰ってきたんでさぁ。」


 奥から出てきたのは、

褐色の肌が眩しいワイルド系イケメンだ。

イケメンとイケメンの二つの光に、

虫けらの私は思わず縮こまる。


「なにやってんだ?」

「い、いえ。

眩しくて、つい。

と、とりあえず、お話を……。」


 事情を説明し、

ご隠居と相談しながら木工のブローチを作ることになった。

 第八王子様の木馬と、オリーブの木のモチーフ。

彼は大喜びで帰っていった。



 あの後、

何故か私は第八王子様から大金を手渡された。

アンリさんからもらった倍はある。


「行くとこ、ないならうちに来なよ。

モチーフについて、色々聞きたい。」


 お弟子さんがそう言ってくれて、

私の再就職先も決まった。


「君のお陰だよ。

姉も大喜びで、本当にありがとう。」


 第八王子様もわざわざお礼を言いに来てくれた。

それにしても、顔の距離が近い。

眩しくて消し炭になりそうだ。

お弟子さんはそこに割り込んできた。


「はいはい、お客様。

注文がないなら、

うちの経理に絡まないでね。」

「あぁ、悪かった。

注文をしたい。

 ……実は姉が身ごもっていたそうだ。

式の後に判明したんだが。

どうしても、

ここの木で君とご隠居に作ってもらった揺りかごが欲しい、と言われて。」

「……北の国に嫁がれたんすよね。

遠すぎてそんな大きなもの、

運送できないんじゃ。」


 私は困るイケメン二人に助け船を出す。


「籠と足を現地の職人ではめてもらえるような、

組立式にしたらどうでしょう?

籠の中に足をいれたら大きさも半分だし。」


 イケメン二人の顔に笑顔が咲く。


「君はさすがだな。」

「本当にアンタは、頼りになるよ。」


 二人に微笑みかけられると、

ほんとに消し炭になりそうだ。

私は苦笑いしながら、

新しい生活に一抹の不安を感じた。


終わり。


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