第6章 体育祭の混乱
体育祭当日、五月晴れの青空が広がっていた。
「まずは開会式を行います。各クラス、整列してください」
校内放送が鳴り響く中、俺は赤組のクラスメイトと共に並んでいた。
眠れなかった前夜の疲れが残っているにもかかわらず、体は奇妙な緊張感で震えていた。
グラウンドには赤、白、青、黄の四色に分かれた生徒たちが集まり、応援席には保護者たちの姿も見える。
体育委員たちが準備を進める中、俺は必死に深呼吸を繰り返していた。
「緊張するなよ、陸」
佐々木が俺の肩を叩く。
彼はいつもの明るい笑顔で、赤組のTシャツを颯爽と着こなしていた。
「ああ……大丈夫だ」
言葉とは裏腹に、胃がよじれるような不安が襲ってくる。
もし能力が暴走したら……。
そんな恐怖と闘いながら、開会式を何とか乗り切った。
最初の競技「クラス対抗リレー」が始まる。
俺はアンカーを務めることになっていた。
「陸、カッコいいところ見せろよ!」と佐々木が声をかけてくる。
「うん……頑張る」と曖昧に答える俺。
リレーのコースの両側には応援する生徒たちが並んでいた。
女子たちの応援の声、カラフルな衣装、日差しの照り返し……全てが俺の神経を刺激する。
第一走者がスタートし、次々とバトンが繋がれていく。
3走の佐々木から俺へのバトンパスを待つ間、何とか冷静さを保とうと努めていた。
しかし、バトンゾーンに佐々木が近づいた瞬間、隣のコースで転倒する女子生徒がいた。
白組のユニフォームを着た彼女がコースに倒れこみ、悲鳴を上げる。
「大丈夫か!?」
思わず視線が奪われ、集中が切れる。
「陸! 集中しろ!」
佐々木の叫び声で我に返るが、タイミングが狂ってしまった。
伸ばした手の先でバトンを落としてしまう。
「くそっ!」
俺は慌ててバトンを拾おうとかがみ込んだ。
その瞬間、心拍数が急上昇し、額から汗が噴き出る。あの感覚だ……!
「やばい……落ち着け……!」
内心で叫びながらも、既に体が熱くなり始めていた。
バトンを掴み、走り出した瞬間、悲鳴が聞こえ始めた。
「きゃあ!」
「なんで!?」
「また下着が!」
コースの両側で応援していた女子たちから次々と悲鳴が上がる。
その混乱の中を俺は走り続けた。
「嘘だろ……今のタイミングで……!」
頭の中がパニックになりながらも足を動かす。
しかし、混乱は瞬く間にグラウンド全体に広がっていた。
両側の応援席から次々と悲鳴が上がり、女子たちが慌てふためく姿が見える。
なんとかゴールにたどり着いたが、既にレースどころではなくなっていた。
グラウンド全体が騒然となり、教師たちが慌てて対応に動いている。
そんな混乱の中、俺は不思議な光景を目にした。
有栖川凛が、他の女子たちと違って冷静に立っている。
彼女は白組のユニフォーム姿で、リレーのバトンを握ったままじっとしていた。
しかし次の瞬間、彼女の表情が変わる。
顔が真っ赤になり、急に慌てた様子で走り出した。
グラウンドから離れ、校舎の方へと向かっていく。
「何かおかしい……」
直感的に、彼女の異変が気になった。
周囲の混乱に紛れて、俺も彼女を追いかけた。
校舎に入り、廊下を走る彼女の姿を追う。
彼女は女子更衣室の方へと急いでいた。
一瞬、立ち止まる彼女。
「有栖川さん!」
思わず声をかけると、彼女はビクッと体を震わせ振り向いた。
その表情に、羞恥が浮かんでいる。
額には汗が浮かび、息は荒く、顔は真っ赤だ。
「都倉くん……お願い、今は……」
彼女の声は震えていた。
明らかに何かが起きている。
そして、その瞬間――。
有栖川の足元に、白いものが落ちた。
それは、下着だった。
「え……?」
彼女は慌てて屈み込み、それを拾おうとする。
「これは……」
有栖川が震える手で下着を拾い上げ、俺を見上げた。
その瞳には、驚きとそして……何かを悟ったような光が浮かんでいた。
「あなたも……能力者よね?」
震える声でそう尋ねる彼女に、俺は言葉を失った。
「能力者……?」
その言葉の意味を理解するより先に、廊下に足音が響いた。
教師たちが駆けつけてくる。
「おい、何をしてるんだ!」
体育教師の鈴木先生と、養護教諭の佐藤先生が走ってきた。
「先生、これは……」
「とにかく保健室に行きなさい。あなただけじゃない、大勢の生徒が同じ状況よ」
佐藤先生が有栖川を抱きかかえるように連れていく。
俺の頭の中は混乱していて、さっきの有栖川の言葉が鳴り響いていた。
「能力者」
彼女も何か特殊な能力を持っているのか?
窓から差し込む陽光を見つめながら、俺は考え続けた。
有栖川との出会いが単なる偶然なのか、それとも何か意味があるのか。
そして、この「能力」の正体とは一体何なのか。
この疑問の答えが、きっと彼女が握っているような気がした。