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王立騎士学園の生意気貴族に喧嘩を売られたので返り討ちにしてみた

作者: クロ

「ここが·····王立騎士学園」


雑多な故郷から数千里離れた異国の地。

そこにそびえ立つ煌びやかな建築物に圧倒される。


いや、それだけではない。

そこへ行き交う生徒達もまた調度品のように輝いている。


王立騎士学園。

万全の設備と優秀な指導者を揃えている為、学費はとても庶民に払えない程に膨大。


故に入学生は貴族ばかりになるのだが、中には庶民の金持ち·····大商家の出の者もいる。


ていうかそれが俺だった。

この貴族だらけの学園で、たった一人の庶民。


「·····できれば穏やかに過ごしたいな」


そんな無理な願いを呟きながら、場違いな門徒に足を踏み入れる。



「ねえ、君ってあの〝キリサキ家〟だよね?」


下駄箱の前に貼られていたクラス分けの紙に従い、教室へ着く·····その直後にクラスメイトに声を掛けられた。


(一瞬で庶民の出ってバレたよ!)


できれば、本当にできればだが·····正体は隠しておきたかった。

とはいえ自分も装いは整えたが、根っからの貴族とは内から溢れるオーラが違う。


そして商家は下手な貴族より顔が広い。

無理な願いだった。


生で食べられる魚を提供する──

我がキリサキ家はそんな従来の常識を覆すビジネスを展開し、一世を風靡した。


庶民も食べるが貴族にも人気で馴染みが深い。


「ふんっ、この高貴な騎士学園で·····庶民なんかあたしは認めないんだからね!」


だが隣席の女生徒は冷たくそう言い放った。

金糸のツインテールをやや乱暴に揺らし、蒼い眼をツンと細める。


彼女のように露骨に態度には出さないが、内心で同じような事を思っている生徒は決して少なくない事は容易に想像できた。

先程の好意的な反応の方が稀なのだ。


「えーでもレミちゃん、サシミ好きだよね?」

「そ、それとこれは関係ないでしょ!」


先程の生徒は彼女の親友だったらしい·····が、意見は曲げてくれない。

ふと彼女は此方を一瞥し、


「あんた、名前は?」

「キリ」


「ふん、庶民っぽい名前ね」

(庶民っぽいって何だよ!)


何だか一々突っかかってきそうな気配を感じる。

よりによって彼女が隣席とは、先が思いやられるばかりだった。


「ねえ庶民、そういえば先生が向こうで困ってたわよ」

「·····どうしたんだろうな」


名前聞いたのに庶民呼びなのな。


「察しが悪いわね。模擬刀を運んできてるのよ。ていうか何であれ貴族が困れば全霊で駆けつけなさい。それが庶民の務めよ」


反論する気も起きないくらい横暴な物言いだった。

まあ暇してたし、人の助けになれるのはやぶさかではないが。


まだ校内に詳しくないが、凡その構造は想像がつく。

教室を出て職員室付近に着くと、やや大きな籠を抱える教員の姿。

籠には俺達のクラスの番号が記されている。


「俺も持ちましょうか」

「あら、助かるわね」


それは二人でも常人なら持てない程に重かった。

然し教員も俺も、騎士学園の人間。並の身体能力ではない。


模擬刀は木製であり切れ味は無いが、持ち手や刃の形状に加えて重量まで本物と遜色なかった。

さすがに良く出来ている。


「早く振りたいって顔してるね」

「分かりますか」


「そこそこ先生やってればね。安心して、直ぐに模擬戦があるから」



それから体育館で校長による入学生への長い祝辞はあったが、その後は言葉通り模擬戦が始まった。


入学時点での実力を見極め、指導を最適化する為だ。

クラスメイト達はグラウンドの一角に移り、配布された模擬刀を軽く振るう。


「庶民、あたしと戦いなさい!」


予想はしていたが·····そこでまたもや彼女に突っかかられた。

有無を言わせぬ瞳で何かの仇のように睨み付けてくる。


「·····俺、お前に何かしたっけ?」

「言ったでしょ。あたしは庶民なんて認めない。白目剥いて泡吹くまでボコボコにしてやるから覚悟しなさい!」


そう宣言し、先生の戦線の合図まで彼女は手に口を当て高らかに笑う。

そして合図と同時に──瞬時に此方に間合いを詰め剣を振るう。


流石に驚愕し·····紙一重で躱す。殆ど条件反射だった。


「よく避けたわね。けど、間合いを詰められた時点でもう手遅れよ」


剣を振るった後はどうしても隙が生まれる·····

が、彼女は剣と動きが一体化しており、そこには〝間〟が一瞬たりとも存在しない。


全てが攻撃であり次の攻撃モーションの布石にもなっている。

キリは手も足も出ていなかった。


「あはははははははははははは!!!

降参なんてさせてあげないから!!

その身に刻んであげる!庶民と貴族の格の違いってものを!!

ふふふさっきから避けてばかり──··········って·····あんた·····何なの·······いつまで避け続け······································「危ない!!」


瞬間、俺は彼女の背後に周り剣を抜く。

振り上げた腕に衝撃が走り·····別の剣が落ちる。

彼女は一瞬戸惑ったが、直ぐ状況を理解する。


「隣のすっぽ抜けた剣から、あたしを守った·····ってこと?」


そして頬を赤くし、わなわなと肩を震わせる。

感謝などなく、寧ろ怒りしかないようで·····それも最高潮のものだった。


「庶·····民の癖に··········舐めた真似してくれるわね」

「·····中断しちゃったし、この勝負はドローってことで」


彼女に勝てばとても角が立ちそうだった。だから避けつつ、ボコボコにされない程度にダメージを負おうとしたのだが·····


「そんなわけないでしょ!あんたには絶対に勝つ!!」


彼女は体制を立て直し、剣を強く握り直す。

ここまで昂らせてしまっては軽く負ける事など出来ないだろう。

──仕方ない。勝たせて貰おう。


「あんたなんかあんたなんか──魚でも捌いてればいいのよ!」

「よく言われる」


キリサキ家はあくまで商家であり、つまり商品の立案と確保、そしてマーケットを展開する立場なのだが。


「けどな、感じたんだ。初めて剣を握った時、掌に·····悠久を共にしたような魂の馴染みを。それから俺は、騎士になろうと──」

「はは!何言ってんの!庶民如きが高貴なる騎士になれるわけないじゃない!!」


「庶民かなんて関係ねえだろ──それにこの学園じゃ、強い方が偉いんだぜ?」


心が乱れた彼女は隙だらけで·····俺が振った一撃はその横腹に鈍い音を響かせた。



「それにしても、キリ君は何で庶民なのにそんなに強いんだろうね」


あの試合は親友である彼女も観ていたようだ。

というかよそ見して集中を欠き、剣をすっぽ抜かしたのが彼女だったらしい。

レミには内緒にしてほしいと言われた。


「だからそれは関係ないって。庶民でも剣くらい学べるさ。

最も独学になるし、外的な強制力もないから自分を律する必要性はあるけど」


それでも本当にその道に進もうと決意したなら、ひたむきに鍛錬を詰めるのならば、その刃は──誰にだって届く。


「言うが易し·····ね。けど、キリ君は本当にやっちゃったんだよね。全く、私達の立つ瀬がないじゃない」


そう、そういうところに、レミの反感を買ったのだろう。


「貴族ってね、誇りであると共に重荷なんだよ。レミちゃんの家の方針は特にその思いが強くて·····

だから·····我儘かもしれないけど、レミちゃんの事、少しは許してほしいんだ」


勝負は俺が勝った。

然しそれは結果論であり、彼女が勝っていれば本当に模擬刀で殴り続けていただろうと思う。

そうでなくとも日常的な態度が目に余る。だが、


「別に気にしてないし、俺も強く剣を振り過ぎたかもしれないし·····」


その言葉でレミの親友の顔がパッと明るくなる。

気にしてないは本当だし、それに·····


「あ·····お、おはよ庶民」


遅れて教室に来たレミは軽く挨拶を交わし、ちょこんと隣の席に着く。

どうなる事かと思ったが·····あれ以来彼女はしおらしくなっていた。


「庶民呼びはやめてくれないのか」


知られてるとは思うが、それでも貴族だらけの学園でそう呼ばれると更に目立ってしまい恥ずかしい。


「しょ、庶民は庶民でしょ。それに·····他に何て呼べって言うの」

「レミちゃん·····普通に名前でいいんじゃない?」


「な、名前で?」


レミが顔を赤くする。

初心過ぎないか。


「レミちゃんは箱入りのお嬢様だからね」

「ああ、通りで世間知らずっぽい·····」

「べ、別に名前呼びくらいなんてことないんだからっっ·························キリ」


ボソッと名前を呼んだ後、そっぽ向く。

顔を見られたくないのだろうが耳まで赤くなっていた。


「い、いい気にならないでよ!前は確かにあたしが負けたけど──次は負けないんだからね!」


再びの宣戦布告。

しかしそれは以前の侮りではなく、同じ王立騎士学園に通う仲間としての意思表明だった。


全くどうして·····穏やかではない学園生活になりそうだった。


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