トライアングルレッスンU2・恋の厄落としはできそうにありませんっ
とんとことんとことんとんとん…
獅子舞の練り歩きに併せて鳴る太鼓の音
ただしラジカセのテープだ
1月中旬の日曜、私達の町は幼い子の泣き声と大人達の笑い声に溢れる
田舎町の数少ない若い男手は皆駆り出されていた
去年の秋祭りの神輿担ぎは「俺!たった今風邪ひいたから!だから無理!」と逃げたたくみも今日はどこかにいるはずだ
町内を散歩しながら探していると急に目の前の地面にだぁぁんっ!と飾りのついた竹筒を打ち付けられた
「ひゃあぁぁっ!」私は悲鳴を上げ持ち手を見る
獅子舞と一緒に廻ってくる荒と呼ばれる赤い作務衣を着て鬼みたいな面を付けた男性が私の顔を覗き込んでいた
小さな子供じゃなくてもたじろいでしまう
「…くくくっ」「ゆいこはまだ荒が怖いのか」
聞き慣れた声がこぼれ、面がまくられると見知った顔が現れる
「ひろし!?」
その時私の腕を慣れぬ感触が挟んで後ろに引っ張る
振り返ると
「うわあぁぁっ!?」
獅子に噛まれてるよ、私の腕!
「…あんまりゆいこを怖がらせるなよ」
こちらからも聞き慣れた声がして獅子の頭を外すと
「たくみ!?」
飛脚みたいな格好のたくみがひろしを睨みつける
「褌は穿かないのに獅子は被るのか」
「お前みたいに恥知らずじゃないんだ」
「あれは正式な格好だろ、お前はゆいこに尻を見られたくないだけ…」
「わー!わー!やめろぉっ!」
私を置いてけぼりにしたふたりの小競り合いは町内会長のおじさんにはたかれるまで続いたのだった