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第二部5

**5**


 風邪を治した阿琉斗は二日目の早朝に合流した。


外からの物資供給を防ぐため、教官の入念な身体検査のあと地図だけ渡される。


「阿琉斗、体調はもう大丈夫なのか。何かあればすぐに言えよー」


「ありがとう、先生。行ってくる」


「おう、頼んだぞ」




「みんなごめん。様子は?」


「正直あまり良くない。開戦一番に先発が場所を確保して交戦したんだけど、あっちの装備に苦しんでいる」


「装備?」


「こっちは機動力確保のために軽装と短刀、長くても腕の長さくらいの剣なんだけど」


広げられた報告書を見ると、『足先まで鎧、槍、剣。刃通さず』と書かれている。


「なるほど。戦力が欠けないように攻守共に固めてきているのか」


「そう。中々手堅いね」


あっちは随分とお金あるみたいだね、と戦略班の少年が笑った。



 拠点には大きめの箱が2つありそれぞれに食料が入っている。


そしてその上に1人分の装備が並んでいる。


「あ、阿琉斗のそれね。どうする?今から突っ込みに行く?」


服を着替え、短刀をベルトに刺しながら考える。


「んー。そうだね…。一度出て様子見てくる。前線はどのくらい削られた?」


「全クラス合わせると2割。ウチは頑張っている方らしいよ」


「おー流石」


最後に膝や肩にゆとりを作り、拠点の幕をめくる。


「じゃあ行ってくる。ここも狙われないようにね」


「了解。気をつけて」




 音を殺す必要はない。


「撃破」という声や悲鳴が、周りの木々にぶつかり反響している。


 視界が悪い。耳に入る情報も雑然とし、行動の契機とするには無駄なものが多すぎる。


一度判断を誤ってしまえば、それで終わり。


あの悲惨な発明薬を浴び、悲鳴の一部になる。


「阿々紀先輩が言っていた、あの薬剤」


疑っているわけでは無いが、あの話が本当ならば。




 前方から「いた!敵!」と声がし、槍の先が向けられる。


走る勢いをそのままに大きく横に回り込む。


相手は槍を向け直す。


「重そうだね、服も武器も」


「すごい重い!んでもって、すごく暑い!」


「空気穴ないの?」


「この口のところが開くだけ。そっちは軽そうでいいね」


「この下はほとんど裸だ。あんまり強く叩かないでね」


「戦士らしくないね」


「まぁ負けないからね」


鋭い穂が視界の中で膨らんでいく。


寸前で躱し、柄を握る。


引かせない。


「その鎧じゃ、体術が難しんじゃない?」


「あー確かに」


首元の隙間に短刀を差し込み、少し撫でる。


その瞬間、相手は悲痛な表情を浮かべ、叫びながら膝から崩れ落ちた。


「どんな薬入れてんだよこれ」


と呆れた顔のまま、


「撃破!」と大きく宣言した。




 こちら側はどうやら、鎧の硬さと相手の武器に苦しめられているらしかった。


 こちらの武器は、皮膚を割いたり肉を貫いたりするように作られておらず、基本的には安全である。そのため鎧の硬度に負けていた。


 あちらは攻守ともに優れている装備だった。聞くところによると、あの格好は伝統や風土に基づいており全体で決めているそうだ。


その装備の中に短刀があり、厄介なのはそれだという。


「さっきの奴は忘れ物したわけか。槍しか持ってなかった」


「運が良かったみたいだね。槍を捨ててからが本番だよ」


「確かに。正直、槍は最初さえ頑張ればなんとかなる」


「フフ。頼もしいね、阿琉斗」



 一番の問題は、戦闘に『光』を用いている人間がほとんどいないことだった。


確かにこの技術は相当の集中力と、光との対話が可能な時間を要する。


そのため「戦闘をしながら…」というのは現実的ではないと判断されてしまったのだろう。


 裏を返せば、それを克服さえすれば強力な武器になることは間違い無かった。


「とりあえず『光』に関しては一度全体に通しておいていてほしい。怖がらずに使っていこう、と。勝機があるとするなら、機動力だ」


「了解」




 二日目のお昼ごろ、だろう。


日の位置でしか時間を確認できない。


拠点には続々と負傷者が運ばれてくる。


彼らからの聞き取りによると


「凄いやつがいる」とのこと。


どうやら鎧を身にまとったまま相手を投げ、光を使ってトドメをさしたらしい。


「手も足も出なかった」多くのものが肩を落として離脱していった。


 


「行ってくる」


気を新たに戦場の地を踏む。


周りからはやはり異様な声が響き、土埃の匂いが血液の鉄臭さに感じた。


次々くる攻撃を避けつつ、阿琉斗はぼんやりと色々考えていた。


あの薬のこと。


本当にウチの会社が作ったのか。学校から頼まれたのだろうか。


あの手紙のこと。


アイツが来たら色々と教えてやらないと。先輩には挨拶しろ、とか。


阿々紀のこと。


今も見ているんだろうな。注目されてませんように。


夢のこと。


あそこは何だったんだ。何を探していた。話しかけたのはだれー


 

 頭がビリっと痺れ足が止まる。


まずいと思った頃には遅かった。


体当たりをくらい、ふっとばされた。


今の加速。光か。


ゴロゴロと地面に打ち付けられながら転がった。


打った場所が悪く、すぐに起き上がれない。


「あ、ごめんな。いや謝ることはないか。単純に俺が強かっただけで」


隙間から覗く目を見て、コイツが『凄いやつ』だと分かった。


慣れている。冷淡、というよりも絶対に勝てるという自信を持っていた。


それを裏付けるように、頭の仮面を外し素顔を晒す。


尖ったその頭髪が攻撃的な性格を助長していた。


足で乱雑に阿琉斗の身体を上向きにし、


「じゃあな」と胸元に剣を降ろす。両手をかざすがそれすらも貫きそうだった。


逃げる隙どころか身体を動かす隙すらもなかった。


薄い布が鋒によって引き裂かれる。




 はずだった。


降ろされた剣は真横の地面に刺さっていた。


さらに不思議なことは、その剣がズンズンと地に沈んでいくのだ。


「な、なんだこれ…!剣の自重じゃない!まるで俺が上から体重を掛けているかのように!沈む!」


阿琉斗にとっても奇怪なできごとであったが、これ幸いと相手の顔を蹴り上げ首元に短刀を当てる。


「撃破…」



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