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第二部4

**4**


「よし、決まったな。ウチは合計4班に分かれる。基本的には今決めた立ち回りを遵守することになる。だが夜間に相談を行っても構わない。それも自由だ。離脱情報に関しては逐一伝えるのでしっかりと聞いて陣形を整えて欲しい」


みんな頼りにしてるぞ。とミチサネがクラス会議を締めた。




 合同演習まで残り半月。ここからは連携と一人一人の練度を高めることが目標だった。


 おおよその仮色付けも終わったため、他クラスとの会議も設けられた。


「じゃあ、救護班の会議行ってくるよ。阿琉斗お大事に」


「ん、いっでらっじゃい」


垂れる鼻水を啜りながら見送る。


ここ数日、体調が芳しくない。


医者も「分からない、不摂生かな」とテキトーなことをいう。


ある者に言えば「うちの漢方を飲むか?」と続くし、ある者に言えば「治験ついでに父さんが作ったこの薬を…」と続く。


もっとも、「それは、『恋』じゃないか」というミチサネの返答に勝るのはテキトーさはなかったが。


 

 阿琉斗は陣形において先頭部になるため、連携というよりも個人の技術が重視された。


 実際、突撃組の会議は開かれていない。


そのため体調不良は当日までに治りさえすれば、問題外だった。


ズズッと鼻を啜りながら阿々紀のもとに向かう。


「風邪を引いているのなら無理をするな」


と案の定、到着してすぐに叱られる。


「先人の…知恵を借りたくて…。先陣だけに…」


「今日はもう帰れ」


「ごめんなさい。教えてください」


「阿琉斗はてっきり『武器調達・開発』だと思っていた」


「え、どうしてですか」


「私が『黒』だから」


「あれ、武器関連も『黒』の仕事でしたっけ」


「むしろそっちが看板だ。事件の隠蔽や抹殺の方は裏窓口だ」


そういえば黒の拠点には多くの武器や見たこともない道具がぶら下がっていた。


それを見せないために、わざわざ目隠しまでされた。


 なるほど、と納得していると、


「もちろん」と阿々紀が繋げる。


「もちろん、対抗戦でもしっかりと黒の仕事体験は可能だ」


「ま、抹殺ですか?」


そんな返答に「ちーがーう」と一文字ずつ少し伸ばして目を細める。


「潜入しての情報収集だ。相手の脳の把握。そして撹乱。現実では当たり前のように行われている戦い方だ。対抗戦でも、それは反則行為ではない」


「自由すぎる」


「戦争だからな。始まりも終わりも、勝ち方すらも我々が操れるものじゃない」


「戦争」


声の調子が弱まり、周りの音がよく聞こえるようになる。


「1つ良いことを教えといてあげよう」


耳を貸せ、と頭ごと引き寄せゴソゴソ話す。


「なんでそんなこと知っているんですか」


恐怖が尊敬を追い越した。


本当に隠し事ができない。国家の秘密すらも握っていることだろう。


阿琉斗の台詞を感嘆と受け取った阿々紀は、一歩前に出て、


「私を誰だと思っている」


と、いつ着たのか白い羽織のを靡かせ、


「阿々紀さんだぞ」と重ねて自己紹介した。


背面には大きく『阿々紀』と刺繍が施されていた。


「あぁ、はい」


それ以外に素敵な返答方法があるなら教えて欲しかった。


これが分からないから、鼻が垂れるのかと自責の念に駆られた。


まさかそんなワケないよな、と思いながらも「作ってもらったんですか、それ」と好奇心で尋ねる。


「あぁ、ゲンジにな」


アイツかよ。


「手先が器用で、仕上げるのに三日とかからなかった」


「すごいけども」


 対抗戦のこの時期は、花の色づきが緑黄へと変わっていく季節だった。


気温が変わりやすく、戦時中の体調管理も難しい。


衛生環境の保全や配給の担当についても連日話し合いがされていた。


武器に加えて食料や水分の確保も『黒』の仕事である。


「黒って忙しいですね」


「その通り。黒には2つの顔があるからな」


『黒』という色は、働き蟻から頂いたという噂も聞いたことがある。


的を射ているようだが、こちらの蟻はより攻撃的で、嘘もつく。


相手を欺き、生きた形を名前ごと葬り去る。


「そして、誰にも覚えられないのも黒だ」


その寂寥を含んだ言い方につられて、思わず顔を見る。


「私たちは影の仕事だ。影で光を支え、光を一層輝かせる。それが何よりの栄誉なんだ」


これまで陽家の教主をしてきた阿琉斗は、おそらく光の性質だ。


だがこれから選ぶ道は、影で黒。


 夕日に煽られたのか。これからの人生全てが黒くなる想像をする。


だがなんてことは無い。


日はまた登るのだ 


 一度の人生だから色んな経験を積んで、色んな人を救おうと決めた。


それが今の阿琉斗の想いだ。


「静かな時が少ないこの世界では、それが特に重要となる」


 阿々紀の横顔が、沈む日に照らされ寂しそうに写る。「私も忘れられるのだな」とポツリと呟いたからだろうか。



「じゃあ」


阿流斗は色んな人の思いを背負い、一緒に歩いていく。生きていく。


「俺が阿々紀先輩のこと、一生覚えていますよ」


それが自分に表現出来る、精一杯の謝辞だった。


「そうか、ありがとう」


その言葉には寂しさが薄れていたように思う。


「私も、ずっと。忘れないでいよう、阿琉斗」


沈む太陽を2人で見送る。


沈む太陽は2人を見送る。


寮に着き「それじゃ」と2人は別れる。




食堂はものすごく混んでいた。



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