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第二部3

**3**


「中等部は大きなイベントが3つある。『光の授業』と『対抗戦』と『色付け』だ」


光の授業はまだまだ続くが、それが完結する前に『対抗戦』が来る。


「対抗戦、知ってるやついるかー」とミチサネは生徒に尋ねたが、すぐに「これはなー」と続ける。


 


 対抗戦。テンマンの他国校舎『ゴルゴファ』と合同で行う演習のこと。


「単純に言えば、模倣戦争だな。もちろん死にはしない。行程は三日間。朝夜問わずに行われる。休戦時間はない。気を抜いたらそれで終わり。これがウチの名物だ」


 これまでの演習とは比較にならないほど厳しい。


 だがこれを乗り越えた生徒は間違いなく将来の活躍を約束される。持っていると引く手数多な資格のように、三日間を耐え凌げると国政や外政機関において、高級な立場を約束される。



「加えてこの対抗戦は『色』を付ける上で重要な指標となってくる。得手不得手をしっかりと見極めること」


 その日から演習に向けて、より戦略的な戦い方や武器の準備活動が行われた。


多くの生徒がが一同に介して行うため、学級の委員長たちが集まり、クラスの総意をまとめ上げる。


 役職決めは、文化祭の担当決めみたく着々と決まっていった。


「次は先陣組だけど」


「はい!行きます」


「じゃあ阿流斗くん。よろしくね!」





 「あぁ、対抗戦か」


「阿々紀先輩は参加したことないんですよね」


「そうだな。前にも言ったが私はこの学校の生徒ではない。見学は何度もあるが」


 この時期、特訓は来年休みになっていた。もちろん演習場が使えなくなる、というのもあるのだが一番の理由は「阿々紀が見学をしに行く」ためだ。


「三日間寝ずに神経を張り詰めていたやつは、例外なく壊れていった。いくら命の保証があるとはいえ、恐ろしくて辛い体験になるのは変わらない」


それに加えて、と言って小さい金属の塊を取り出す。


「これは、破片…?」


「あぁ演習に使用されている武器の一部だ。剣だろうか。肉を貫くほどの硬度ではないが、この中に特殊な薬剤が入れられており、これが破壊され液がかかると、たちまち恐怖に支配されるそうだ」


「そんな薬が」


「阿琉斗の会社の特注らしい」


「えぇ!?」


「恐ろしい企業だな」


「先輩ほどじゃ」


「私は怖くないだろう」


「寝ずに対抗戦を見届けられるのは、十分怖いですよ。






 そして、対抗戦まで一月をきった。


元より目指している『色』がある人間は所属した想定で立候補し、これからという人間は直接交戦組に集中して組み込まれた。


 ゲンジはギリギリまで悩んでいた。


「得意の移動を使って武器の補充をするか、救護班にいくか…。


「救護?」


「一応漢方屋だから、その辺の薬草とか分かる。


「それは適所だね。『赤』でいいんじゃないの。


「うーん…。


「なにか引っかかることでも?」


「救護班に、話せる知り合いがいない」


フフッと吹き出しそうになった。


なんだそんなことか


「いっぱい話せばいいよ。みんなゲンジのこと気になってたし」


「そうなのか」


「よく食べるって」


「ビックリ人間じゃないんだから」


「でも救護班は向いていると思う。俺も定期的に会いに行くよ」


「阿流斗は前線だろ。怪我するな、心配になるから」


「仮病使うよ」


「真面目にやってくれ」







 数日後


阿琉斗はゲンジを含めたクラスの何人かを誘い、町まで遊びに来ていた。


集合場所に早めに着くと、もっと早く待っている人がいた。


 ゲンジは落ち着きなくキョロキョロと当たりを見渡していた。目が合うと、明らかに表情が緩んだ。


「何笑ってんだよ」


「いや、ゲンジの顔、分かりやすく変わったから」


「本当に来て良かったのか?」


「当たり前でしょ」


「でも」


「まぁいいから」


その後、ゾロゾロと友達がやってきた。


ゲンジが恐る恐る「初めまして」と挨拶していたのが可笑しかった。


いつも同じ教室の中にいるだろうに。


「そう!ここ!ここのお菓子が美味しいのよ!」


「試験上手くいくかな。不安だ」


「あの2人が遊びに行ってるの見たぜ。付き合ってんのかな。」



それぞれが口々に話す中、件の少年は最後尾でみんなを見守っていた。


体格といいその位置といい、まるで保護者のようであった。


これには思わずプッと吹き出した。「阿琉斗くんどうしたの」と話題が転換される。


「ん、いやゲンジがみんなのお父さんみたいになってるから」


「えー?」本当だ、とみんな笑う。


「しかもゲンジ、料理も上手だし。あれ美味しかったよね、お肉煮込んだやつ」


前に阿琉斗の家へ行き遊んだ日のことを思い返す。


 クラスメイトたちはこれまで知らなかった情報を受けゲンジの見方が目に見えて変化していく


「え、赤にするか悩んでるの?赤だったら私もいくよ」


「俺もいるぜ!薬品の調合とか楽しそーじゃん。一緒にやろ」


「いたずらするために入るんじゃないよ!」


「分かってるよー」と和やかな空気に包まれる。


誰もゲンジを拒まなかった。


ほらな、と阿流斗が目配せする。


「どうすんの、ゲンちゃん」


柔らかく、しかし期待を含んだ声色で阿琉斗は尋ねる。


「そうだな…」


チラッと阿琉斗を見やる。


阿琉斗は静かに微笑みかける。


ほら、みんな待ってるぜ。ゲンジのこと。


「俺も、赤に入るよ。みんなと一緒に頑張る」


おー!やった!と同色になる者が喜び、「よろしく!」とゲンジの手を取った。


 異色となったものたちの中には


「怪我したらゲンジに運んでもーらおっ」と軽口を叩く者もおり


「怪我はしないほうがいいよ」とゲンジに突っ込まれていた。


 帰り道でのこと。阿琉斗が例の殺人鬼に襲われた小道前を通るとき、ゲンジがそこを隠すように歩いてくれた。


 気持ちがまだざわついてしまう阿琉斗は、その配慮に「ありがとう」とお礼をいう。


「いや、お礼を言うのはこっちだ。ありがとう」


「何が?」


「今日のこと」


「みんなで遊びたかっただけだよ」


「素直に受け止めてくれよ」


「ごめんごめん。でも、本心」


と悪戯に笑う。


「それと阿流斗、」


「ん?」


「ゲンちゃんって言うな」


この頃にはすっかりゲンジはみんなの輪の中に居た。


 


阿琉斗は最後の計画を立てる。




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