短編 『選ばれなかった話』
タクヤはまだ幼稚園に通う幼い男の子。
お母さんや友達と一緒に過ごす時間が大好きだった。
ある日、家の近くの公園で遊んでいると、知らないお姉さんが現れた。
お姉さんは優しい笑顔でタクヤに話しかける。
「タクヤ君、この世界は好き?」
タクヤは無邪気に答える。
「うん!お母さんと一緒だし、友達もたくさんいるから好き!」
タクヤは幼稚園に通い始め、毎日楽しい時間を過ごしていた。
友達と遊び、お母さんが迎えに来るのが嬉しい。
再びお姉さんが現れ、同じ質問をする。
「タクヤ君、この世界は好き?」
「うん!幼稚園も楽しいし、友達もいっぱいだよ!」
タクヤは小学校に進学し、新しい友達や勉強に興味を持つようになった。
運動会や学芸会などのイベントも楽しんでいた。
ある日、学校の帰り道でお姉さんに再び出会う。
「タクヤ君、この世界は好き?」
「好きだよ。学校も楽しいし、みんなと遊べるから!」
中学生になったタクヤは、勉強や部活動、人間関係に悩み始めた。
友達がいじめられているのを見て助けられない自分に無力感を感じ、さらに自分よりも優れている友達との比較に苦しんだ。
ある日、学校の下駄箱に手紙が入っていた。
「この世界は好き?」と書かれていた。
タクヤは手紙を持ってトイレの個室に入り、深い悩みの中で返事を書く。
「嫌いだ。この世界が嫌いだ、それよりも嫌いなのは自分自身だ。」
タクヤは書いた手紙をビリビリに破ってトイレに流す。
タクヤは手紙を流した後、こう思う。
「きっと、あのお姉さんはもう来ない」