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マーガレット・アン・バルクレーの涙  作者: 高城 蓉理
神は僕たちを加速させた
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神は花火の美しさを僕らと共有した③


「この辺は、あんまり歩いたことはないな 」


「先生は休日とかは、どうやって過ごしてるんですか? 学校の周りだけじゃ、行動範囲が狭くなりませんか? 」


「まあ、土日のどちらかは部活の監視もあるけど、最近は用事があれば岐阜市内に出ることが多いかもな。車で行けば、まあそんなに時間も掛からないし。あとは高山に行くこともあるけど 」


「下呂駅の周りで、事足りることもあるとは思いますけど? 」


「……あはは。恒星は、たーまに意地悪だな。まあ、そこらへんはコメントは差し控えるよ。一応、これでも気は使ってんだ 」


「すみません 」


 先生は土産物屋などを物珍しそうに眺めながら、下呂の町を歩いていた。僕らが通う高校は二つ先の駅にあるし、先生はその最寄りのアパートに住んでいるから、本当に温泉街には殆ど来ないらしい。


「ちなみに、あそこに見える大きな建物が雄飛閣で、下呂では三本指に入る有名な旅館です 」


「ほー 」


「ちなみに、芦屋匡輔の実家です 」


「へー 良いとこのボンボンなんだな。あんまりちゃんと生徒情報を把握してないもんだから、ほぼ初耳だ 」


「ちなみに、間嶋椿の両親と、椿自身も働いてます 」


「へー だから、あの二人は仲が良いのか。それは、納得な情報だな。幼馴染みって、いい響きだよな。そう言えば、恒星と御坂も小さいころからの知り合いなんだろ? 」


「ええ、まあ。一応ですけど。お互いの両親が大学の同級生なんで。ただ交流は殆どなかったですし、小さい頃も一度会ったことがあるくらいで 」


「でもまあ、同じように年を取っていけるってのは良いよな。それは素直に羨ましいと思うよ 」


「えっ? 」


 僕は、言葉に詰まった。

 先生が、一瞬だけ本音を漏らしたからだ。だけど先生は呆けた僕に気がつくと、すぐにまた難しい顔をして、僕をこう一蹴した。


「お前、もしかして真に受けてる?  」


「えっ? 」


「別に気にしなくていい。そんなこと言ったって、どうにもならないし。それに何より、どんな形であれ、出会えただけで俺は神様に感謝してるからな」


「はあ…… 」


 先生は、姉貴に録音して聞かせてやりたいような台詞を連発していた。ここまで自分の気持ちを言葉に出来る先生は、やっぱり大人で、少し憧れてしまう部分もあるような気がする。


「そういえば、恒星。お前たちも、芦屋の旅館を手伝ったりしてんだろ? 」


「えっ? まあ、そうですね。僕も最近の繁忙期は麻愛と一緒に手伝いに出ますし、高校生の頃は、姉貴と田端佳央理も働いてました 」


「ああ。そう言えば、鞠子も昔、そんなようなことを言ってたな。だから布団敷くのは得意なんだとか、意味不明なアピールをされたから 」


「あはは、布団敷くのが得意って 」


 一体、どんなアピールだよ……

 一歩間違えたら、床上手みたいな発言じゃないか。

 先生には他意はないとは思うけど、やっと落ち着いた僕のザワザワを逆撫でするような発言は控えてほしいものだ。


「ところで、田端は元気にしてるか? そこの看護学校に通ってるだろ? 」


「ええ、最近は一段と忙しそうですね。実習があるみたいで 」


「へー 頑張ってんだな。お前さんたち三人、目元の辺りが似てるもんな 」


「……そうですか? 」


「ああ。鞠子と田端は、最初は姉妹かと思ったからな。俺はそう思うよ 」


 村松先生は一瞬、学校の先生みたいな顔をしたような気がしたけど、またすぐにプライベートモードに戻っていた。姉貴はともかく、彼女がこんな調子の先生を見たら凍りつくかもしれないけど、その辺りは持ち前の冷静沈着な医者の心で捌いてもらうしかない。


 取り敢えず、場の空気は少しは和んだ。これだけ温まれば十分だ。お釣りも弾もう。

 そして会話も盛り上がってきた頃ではあったが、僕と先生はもうすぐ目的地の河川敷へと到着する。

 そう。僕は本題を切り出すタイミングを見計らっていたのだ。


「先生、あの…… 」


「ん? 何だ? 」


「驚かないで、聞いてもらっていいですか? 」


「はあ? まあ、もう、今さら驚くもへったくれもないけどなぁ 」


「あの、今日は下呂温泉まつりの最終日で花火が上がるんです 」


「ん? それが、どうかしたのか? 」


「えっと、だから、そのですね…… 」


「……? お前さん、急に改まった気がするけど、まさか何か企んでないか? 」


「あの、怒らないで聞いて頂いてもいいですか? 」


「はあ? 」


「僕と先生のサシじゃ微妙だと思ったので、助っ人を呼んであります 」


「助っ人? 」


「はい。僕の家族です 」


「ハア? 」


「まあ、正確に言えば姉のことですけど。麻愛が、ここまで連れてきます 」


「ちょっ、もしかして、恒星。よくも図ったな? 」


「否定はしません 」


「お前、自分が何をしてるかわかってんのか? 」


「四人でいれば、別に怪しまれたりなんかしません 」


「いや、普通に不自然だろ 」


「周りは観光客も沢山いますし、誰も他人に興味なんて持ちませんよ 」


「……お前、一体何がしたいんだ? それに何で御坂が知ってんだよ? 」


「先生の御意向が現実になれば、遅かれ早かれ、麻愛は知ることになりますから。それにそれが叶わなくても、麻愛はうちの家族です。ちょっとフライングしたようなものですよ 」


「……お前も、言うようになったな 」


「もう、遠慮はしません 」


 背に腹は代えられなかった。

 先生に生意気を言った件に関しては、義兄になった時点で清算することを肝に命じることにする。



 僕の無茶な勝負駆けの戦いは…… 

 奇跡的に成功したのだった。






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