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異端の聖女と流刑地ライフ 〜番外編〜  作者: 右中桂示


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21/22

若葉は春に惑う 前編

 温かな気候が心地良い春の夜。熱気を程よく温くする夜風の風情。精霊の足跡(スピリステット)では人々の活気に満ちていた。


 そんな街の外れ。複数のゴーレムが並んだ、ペルクスの自宅兼研究所。研究資料が生活空間にまで溢れる飾り気のない建物内だが、絵が飾られている周辺だけは丁寧に整頓されていた。

 家主に加えシャロとクグムスを招いて三人で集まっている。テーブルには店で買ってきた食べ物と飲み物が並ぶ。串焼きに揚げ物、チーズを乗せたパン。濃い味付けには酒も進む。

 飲み食いですっかり上機嫌のシャロが朗らかに言った。


「で? グッちゃん、そろそろ相談聞かせてよ」


 クグムスに二人の視線が向く。この日、三人で集まろうと提案した張本人。しばらく近況と他愛ない話で場が和み、話しやすい頃合いだろうか。


 彼はもじもじと躊躇いつつ、口を開く。


「はい……その、お二人は先日の愛の聖人の日は、どうでしたか……?」


 愛の聖人の日。恋人達に祝福を授けた聖人に由来する祝祭。恋人や夫婦が互いに贈り物をし合う日だ。

 最近シャロの提案により恋人や夫婦でなくてもお菓子を贈ったり、その返礼の日という文化も広まりつつある。


 シャロはニヤニヤと幸せそうに語り出す。


「いやあ、オレ達は毎日ラブラブだからねー。ホントはわざわざバレンタインに改まる必要もないんだけどさ、やっぱ特別な日には特別なサルビアが見られるし……。え、今日は好きなだけ惚気けてもいいの!?」

「ふむ。僕達は花と菓子を贈りあったが、どこまで詳しく説明すべきだ?」


 サルビアと夫婦となっているシャロ。最近ワコと恋人になったペルクス。反応こそ違えど協力的だ。

 クグムスは真剣な面持ちで傾聴している。


「そりゃ何プレゼントしたのかは気になるでしょ。ペッさんはどうやって選んだ?」

「ワコに相談して決めた」

「えー! サプライズって盛り上がるでしょ!」

「事前調査は重要だろう。推測頼りで見当違いの事をするより確実に笑顔にする方が良い」

「確かにペッさんのセンスは合わないかも?」

「ああ。そちらではワコに敵わない」


 シャロの意図とは異なる返事をして、ペルクスは愛おしそうな笑みを浮かべる。シャロに負けず劣らず無自覚に惚気ていた。


 満足するだけ語ると、シャロはクグムスに向かって身を乗り出した。


「で? で? こんな話題を振ってきたって事は?」

「つまりカモミールだな?」

「えあっ、は、はい!」


 照れてうつむくクグムス。

 意識しているのは端から見ても分かりやすい。悩んでいるのも同様に。


「前ん時に失敗した? っていうか何もしてない……?」

「いえ、あの、あくまで友人としての贈り物は……。しかしやはり、カモミールさんをそんな目で見ていいのでしょうか、と……?」


 か細い声には罪悪感すら漂う。真面目な性格が故の葛藤が重かった。

 反対にシャロはあくまで軽い調子で応える。


「いやー、初々しいねー。若人の青春からしか得られない栄養がある」

「茶化すものではないぞ」

「それは分かってるよ! ただ温かい目で見守りたいだけだって!」


 本音ではあるのだろうが、ニヤける顔に説得力はあまりなかった。

 ペルクスは溜め息を吐くと、腕を組んで語りだす。


「カモミールが生まれて八年程度。確かに本来なら相応しい年齢ではないが」

「大丈夫じゃない? 見た目年齢は十七、八くらい? 大体同世代っぽいし?」

「それに頭脳も大人と遜色ない程度に発達している。残るは感性、精神面だが」

「ちょっと幼い感じ? それも最近は変わってきてるよね?」

「ああ。着実に大人に近付いている。だからどんな想いを抱こうと否定はしない」


 二人から心強い肯定。応援の気持ちも込められた温かい言葉をかける。

 ただ、まだクグムスの表情は曇っていた。


「しかし、ボクのせいで悪い影響が出てしまっては……」

「一つ大事な事を忘れているな、クグムス」


 弱気な言葉を遮り、ペルクスはクグムスの肩に手を置いた。そして優しげな笑みを向ける。


「僕達からすれば君もまだ子供だ。多少我儘なぐらいで丁度いい。そう責任を感じる必要はないし、気に病むものでもない」


 ぽかんとなったクグムス。ペルクスとシャロは余裕ある態度で導くべく話を続ける。


「そーそー。あんまり他人を子供扱いするのも失礼だしねー」

「強引に関係を迫る訳でもないのだろう?」

「当たり前です! カモミールさんの気持ちが最優先ですから!」

「ならば問題ない。安心するといい」

「……そう、ですか」


 ようやくクグムスから力みが抜けたので、更にホットミルクを勧める。一息ついた彼は清々しい表情で言った。


「それでは、カモミールさんとは改めて話をしようと思います」

「要するにデート?」

「いっ!? あ、そう、なりますけど……」

「じゃ、作戦会議する? 良い人止まりじゃ幸せにできないよ?」

「見守りたいだけじゃなかったのか?」

「応援も含めての見守りじゃあん?」

「……いえ、お二人の知恵をお借りしたいです。お願いします」


 何処までも真面目な態度のクグムスに、微笑ましい気持ちを抱いてペルクスとシャロはアドバイス。互いに意見の違いはあれど純粋な応援の意思は変わらない。

 騒がしく賑やかしく、男達は温かな夜を過ごしたのだった。

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