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異端の聖女と流刑地ライフ 〜番外編〜  作者: 右中桂示


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20/20

花に願いを

 それは、わたしが生まれて、二年くらい経った頃の話。


 北方の辺境。ペルクスが研究の為に移り住んだこの地域は、栄えた中央地域との交流も少ないし何かあってそこから逃げてきた人も多いから、異端とか気にしなくて良い場所だった。

 何も危なくない、嫌な事も知らない、まだ平穏な頃の、思い出。






 わたしの名前はカモミール。

 オレンジ色の獣人の耳と尻尾、背中に妖精の白い羽。

 妖精のおかあさんと獣人のおとうさんの間に生まれた娘。わたしが珍しい事はわかってるけど、大好きな人たちに囲まれて毎日が楽しかった。


 気持ち良く晴れて、くすぐったい風が吹いていた日。

 おかあさんと一緒に空のお散歩をしていた途中。たくさん白い花が咲いている場所を見つけた。気になったから降りて近くで見ると、楽しくなっておかあさんを呼んだ。


「わあ、このお花かわいい! いい匂いもするよ!」

「そうか。気に入ったか? カモミールっていうんだ」

「え? カモミールはわたしだよ?」


 不思議な事を言われて、きょとんと首をかしげる。

 おかあさんはお花の上で飛びながら笑って答えた。


「同じ名前なんだよ」

「カモミール。へえ〜」


 まじまじと見つめる。顔を動かして、前から後ろからじっくりと。同じ名前のお花ってだけでもっと好きになれる。


「昔な、おとうさんがアタシにプレゼントしてくれたんだ」

「そっか!」


 おかあさんは優しい笑顔で嬉しそうに言った。それがわたしにまで伝わって心がぽかぽかする。

 だから、にかっ、と満面の笑みで可愛いお花をちぎる。


「はい、おかあさん! プレゼント!」

「おお、ありがとうな」


 抱えるみたいに持ったお花はおかあさんと同じくらいの大きさ。違う感じに見えるけどやっぱりかわいい。

 おかあさんは幸せそうな顔で、わたしのおでこを撫でてくれた。小さいのに、しっかりと手触り。温かくて気持ちが良かった。


「おとうさんとペルクスにもあげるー!」

「おっと、待つんだ。ちぎるのは止めよう。根っこまで掘って家の近くに植えたらいい」

「近くに? じゃあいつでも見れるんだ!」

「そうだな」


 素敵だからおかあさんの言う通りにした。魔法で根っこを丸めて土と一緒に浮かせて運ぶ。

 早く二人に見せたくて、急いで家へ帰りたかった。

 それからもっと楽しい事を思いついて、おかあさんに話す。


「もっともっとたくさんカモミールを植えたらどうかな。いっぱいにするの!」

「それもいいな。でも、可愛い花、綺麗な花が世界にはたくさんあるんだ。たくさんあってもカモミールだけじゃ寂しいだろ?」

「そっか。じゃあ全部見てみたい!」

「……そうだよな。それが良いよな」


 わたしは素敵な世界を知れて嬉しくなったけど、おかあさんは寂しそうな顔で声も弱かった。


「よし! いつか世界中のお花を見に行こうな!」

「うん! 行きたい!」


 でも励まそうとする前に明るく笑ってたから、わたしもつられて口を大きく開けて笑った。


 どうしてあんな顔をするのかわからなかったし、気のせいだと思ってすぐに忘れたんだ。






 妖精の足跡(スピリステット)。皆で作った素敵な街。

 たくさんの人が行き来する分、畑や牧場ではたくさんの作物や動物が必要で、その為の研究も皆で進めている。

 そこから一つ、嬉しい結果が出たから、わたしはソワソワした気持ちで飛んでいた。


「ベルノウさん!」


 元気に声をかけながら、ベルノウさんのお店に飛び込む。


 ほんわかした雰囲気の獣人。明るい毛色と垂れた耳で、ぐるぐるした模様の服を着ている。穏やかで優しくて大好きな人だ。


「カモミールちゃん。そんなに慌てると危ないのですよ」

「あ、ごめんなさい……」

「分かってくれたのですね。それで、どうしたのです?」

「あ、ほら、あのお花が咲いてたんだよ!」


 柔らかく注意されて反省する。いくら嬉しくても大事にしないといけなかった。


 気を取り直してわたしが差し出したのは、植木鉢。丸い形の小さくて白い花が並ぶ。

 ベルノウさんの故郷の花だ。寒い地域の花だから難しかったみたいだけど、ペルクスやクグムスさんが頑張ったおかげで咲いた。可愛い形ですぐにわたしも好きになった。


 お店を飾るのは他にも、サルビアさんが好きなドレスみたいに華やかな紫の花、ワコさんの故郷の赤い鳥の羽みたいな花、リュリィさんが大事にする大きく広がった白い花、他にも色々。テーブルや窓際を飾って花畑みたいな綺麗な空間にしていた。


 ベルノウさんはにこにこと笑って受け取ってくれた。


「とっても嬉しいのです。頑張ってくれたのですね」

「ペルクスとクグムスさんが中心だけど、わたしも手伝ったよ!」

「それなら二人にもお礼を言わないといけないのです。お菓子も贈ろうと思うのですよ。ちゃんとカモミールちゃんの分も作るのです」

「わあい、ありがとう! もっともっと増やしていいかな!?」

「もちろんなのですよ」


 そのまま椅子に座って、ベルノウさんと楽しくお喋り。お菓子やお花を使ったお茶も出してくれて、皆も集まってきた。賑やかに過ごせば、最高に気分が良い。


 色とりどりの可愛い店内。人と同じでお花も集まる場所。

 誰も辛くない、皆が幸せな世界にするは凄く大変だ。そう、冒険の中で学んだ。でも、絶対にできないわけじゃない。それも冒険の中で実感した。

 このお花に包まれたお店も、きっと幸せな世界につながるはず。


 わたしは、輝く未来を思い描いて、思いっ切り笑うんだ。

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