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zzzzzzzzzzzzzzzzz



翌朝、弥生は目覚ましの音で目覚めた。すっかり冷えきった部屋はしんと静まり返り、鼻の頭が冷たい。

「…あれ、私、昨日ベッドに入って寝たっけ?」

覚えていないけど、酔っ払っても家に帰れるし、寝ぼけながらお布団に入ったのかもしれない。


弥生はあくびをしながら、ベッドから起き上がった。

こたつに置いてあった限定スイーツとグラスが空っぽになっている。

「あれ、私、これも食べちゃったのかな。やばい、夢遊病ってやつ…?」

意識のないまま冷蔵庫を漁る人がいるって前にテレビでやってた気がする。一人暮らしだと止めてくれる人がいないし、無呼吸症候群になっていたらどうしよう。


そんなことを考えつつも、今日は月曜日。急いで支度をすると弥生は駅までダッシュした。忙しい午前中の仕事をこなして昼になる頃には、朝の出来事はすっかり頭から消えていた。



その日の夜、弥生は自宅で適当に切った野菜を鍋でグツグツ煮ていた。

1人鍋である。

今日は何の味にしようかな。お味噌を入れたら、ただのお味噌汁になっちゃうし。ヘルシーに豆乳?それとも香辛料を入れて——


ピンポーン

インターフォンが鳴った。


「はーい」

弥生は特に何も考えず、玄関の扉を開いた。


外から冷たい風が入ってくる。

「はい。…あれ、誰もいない」

「あの……」

下の方から遠慮がちな声がした。

弥生が下を向くと、そこには小学生くらいの男の子が立っていた。


プラチナブロンドの髪の毛、こぼれ落ちそうなほど大きな目は緑色。ほっぺたはバラ色に染まっている。


…なんだこの美少年は。こんな子、このマンションにいたっけ?

某国が誇る少年合唱団にでもいそうな可愛らしい男の子だ。


少年はジャケットを着て、首元には赤色の蝶ネクタイを着けている。寒くないのだろうか、半ズボンを履いて膝下は白ソックスだ。


どこかの学校の制服?私立かな。


ぼうっとしている弥生にしびれを切らせたのか、少年がもう一度、「あの!」と強めに言った。変声期を迎える前の高い声は廊下によく響いた。

「はい、すいませんなんでしょう?」

弥生はつい丁寧語で対応した。

「お届け物にあがりました」

少年は、後ろ手に持っていた花束を弥生に差し出した。

「え?」


クリスマスらしい赤と緑のラッピング用紙に包まれた花束には、ピンクと赤と緑のバラがぎっしりと咲き誇っている。

「えっと…間違いじゃないですかね。私、お花は頼んでないです」

「いえ、間違いじゃないです。サンタさんからの贈り物です」

「はい?」

「花束です!ご所望の、愛の花束!」

「…愛の…なに?」

とにかく渡しましたからね!と少年は早口で言うと、弥生に花束を押し付けて廊下を走って行ってしまった。あっという間に見えなくなった。


「何だろう、何かのいたずらかな?」

それにしては手が込んでいる。少年がいなくなった方を呆然と見ていた弥生だが、寒いことに気づいてとりあえず玄関のドアを閉めた。

あの子の親御さんに連絡をしようにも、どこの誰だかわからない。


あ、カードがついている。

花束の間に挟まっていたピンクのカードを取り出すと、そこには変な癖がついた『愛』という文字が書いてあった。

書き順が分からないのだろう。明らかに止めとハネがおかしい。日本語を学び始めた外国人が書くような感じだ。


「うーん。どうしよう…」

近所に引っ越してきた人のご挨拶なのかもしれない。今度会ったらお礼をしよう。

それにしても、綺麗なお花。

「もしかして、本当にサンタさんが愛をくれたのかも、なんて」


嬉しくなった弥生は、キッチンのシンクから数度しか使ったことのない花瓶を取り出して、お花を生けた。

それをこたつの上に置く。何となく部屋の中が温かくなったような気がした。

「ふふ。サンタさんからの贈り物」

弥生は鼻歌を歌いながら夕食の鍋をかき混ぜた。



「…してパトリックよ。なんで花束にピンクのバラを加えたんじゃ?赤と緑だったら、クリスマスカラーじゃったのに」

クリスマスの大仕事を終えて自宅のアームチェアで寛いでいたサンタさんがパトリックに問いかけた。

忙しなく後片付けをしていたパトリックは、サンタさんの発言にびっくりしてガラスのオーナメントを落としてしまった。

ガシャンと割れる音が響いた。

「ああ!なっなんでサンタさんがそのことを知って…!!」

「ふぉっふぉっふぉっ。何でもお見通しじゃって」

「ちゃんとにぴんぽんしました!いっいつもはサンタさんが食べちゃうすいーつの代わりを置いていくのに、今年はバタバタしてすっかり忘れてたから!その代わりです!!」

「うむうむ。あの子と言葉を交わしたかったのじゃな。良きことじゃ」

「違います!貰いっぱなしはサンタの流儀に反するからです!ピンクを入れたのは、女の子はみんなピンクが好きだからです。あの子の部屋だって、ピンクのものがたくさんあるし!」

「すとーかーっぷりは健在じゃのう。」

「違いますって、事前リサーチです」

「開き直ったの。この調子じゃ、お前さん、あの子の寿命が尽きたら、魂ことを攫っていきそうじゃな」

「 そんなことは…」

パトリックは、ダラダラと汗をかき出した。

「盗みはいかんぞ、サンタの信用に関わるからな」

「もちろんです!」

「だが伴侶にするなら許してやろう。ワシの奥さんも、それはそれはかわいい少女であった。懐かしいな」

「サンタさん、今でもラブラブですからね」

「ちゃんとに相手の了承を得るのじゃぞ。それまでにお前さんは大人になれる努力をしなさい」

「…はい」


窓の外は粉雪が舞っている。雪の妖精たちが楽しそうに囁く。

メリークリスマス、メリークリスマス

あなたに愛が届きますように


ピンクと赤と緑のバラは、冬の間じゅうずっと枯れることがなく、弥生の心をほっこりと温めてくれた。

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