プ
…フライドチキンってこんなに小さかったっけ?
弥生は、人差し指と親指でフライドチキンをつまむと、目の前に掲げてぶらぶらと揺らした。
こたつの上に並んでいるのは、フライドチキンが入った紙のパッケージと、フライドポテト。指までなめちゃうほど美味しいという謳い文句の大手チェーン店のものだ。
店内のクリスマスムードにすっかり押されて、一緒に買ってきたクリスマスっぽいデザートも一応並べてみた。これぞ王道のクリスマスディナー。これらをこれから、こたつに入ってぬくぬくしながら食べようと思ったのだ。
まあいいか。
弥生は、フライドチキンをパクリと一口かぶりついた。
うん、美味しい。昔から安定の美味しさだ。それにしてもなあ。小さい頃は両手で抱えきれないほど(さすがにそれは大げさだけど)大きかった気がするんだけど、こんなに小さかったっけ?
弥生が大人になったからか、それとも経済という名の大人の事情があちら側にあるのか。
どうせ1人だからいいんだけどさ。
テレビから流れてくるのは、明るいクリスマスソングと明るい芸人さんたちの声。クリスマスツリーが飾ってあるスタジオでは、クリスマスあるあるのエピソードを紹介しているようだ。
これ、収録したのは、きっと12月の初めとかなんだろうな。今頃この人たちはおうむのように『あけましておめでとうございます』って繰り返して、そろそろ南の島に旅立っているのだろうな。
…年末年始のハワイって、いくらするんだろう。
弥生は油でギトギトになった指をペーパーナプキンで拭くと、スマホで調べてみた。
「え?3泊5日で、この値段!」
給料が丸々飛ぶぐらいの話では済まない。現地では日本から買ってきたカップラーメンをすするくらいしかできないんじゃないだろうか。
あとは何だろう?栄養補助食品をスーツケースに詰める。それから、レトルトのご飯を持っていく?
ううんと唸った弥生は、はたと現実に戻った。
「ストップ。どうせ一緒に行く人だっていないんだし、何やってんだろうな」
弥生はため息をついた。
今日は世間様はクリスマスイブだ。とはいえ、弥生にとってはただの日曜日の夜。明日も仕事はあるし、仕事納めの前だから忙しいったらありゃしない。ああ、仕事に行きたくない。でも若い子でもあるまいし、クリスマスなんで仕事休みますので言えるわけがない。そもそも、特にクリスマスらしいこともしていないわけだし。
別に今日だって外出する気なんてなかったのだ。どうせどこに行ったってイルミネーションを見に来るカップルばかりだろうし、キラキラのデパートはクリスマス感が半端ないだろうし。
でも夕方にフライドチキンのコマーシャルを見て、どうしても、どうしても食べたくなってしまったのだ。
弥生は渋々と着替えて、わざわざ電車に乗って、5駅先のフライドチキン屋さんに行った。
田舎はね、チェーン店のお店だって電車に乗らないと行き着かないのですよ。
店の中には、作り置きされたバケツサイズのパックがテーブル席に所狭しと置いてあった。香ばしい匂いが店の中に充満している。弥生の腹がぐうっと鳴った。
あ、しまった。今日は予約しないと買えない日だった。
なんたって今日は1年の中で1番チキンのステータスが上がる日だ。こういうイベントに縁のない生活を送ってきたから、すっかり忘れていた。
…所帯持ちだったら、こういうこともしっかり頭に入っているんだろうなぁ。
後ろ向きな考えが頭の中をよぎった。蛍光灯に明るく照らされた店の中で一気に落ち込む。
「いらっしゃいませ」
若いアルバイトの店員が、弥生に笑いかけた。
「すいません、予約とかしてないんですけど、買えます…か?」
弥生は遠慮がちに聞いた。つい声を潜めてしまう。
アルバイトの女の子は、一瞬『買えるわけねだろうが、この忙しいの見ろよ』という顔をしてから、すぐに笑顔に戻り、「大変申し訳ございません。本日はご予約のみでして…」と眉を下げた。
いたたまれなくなった弥生は、
「そうですよねすいません」
ときびすを返そうとしたが、奥から店長らしき人が、
「3ピースのセットだったらご用意できますよ!」と声をかけてくれた。
若い店員さんとのやり取りですっかり胃が痛くなった弥生は、もう既にフライドチキンなんて食べれる気がしなかったけど、断るのも申し訳ないと思ってチキンを買ってきたのだ。
そして今に至る。
「切ない…」
ポツリと漏らした言葉が、1人の部屋に妙に響いた。
でもいいのだ。このスイーツはサンタさんへの貢ぎ物にしよう。
人に言ったことはないが、弥生は毎年サンタさんに手紙を書いている。そしてお菓子を貢ぎ物としてこたつに置いてから寝るようにしている。
小さい頃に読んだ外国の絵本で、サンタさんにお酒とクッキーを差し出している物語があったのだ。それが何とも外国っぽくてかっこいいと思った。物語のサンタさんも喜んでいたし。サンタさんだって、寒い中、世界中の子供たちにプレゼントを配って回っているのだ。そりゃあ一息つきたくもなるというものだろう。