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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第2章 国王陛下と我が栄光のチルちゃん軍

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第35話 犯人はお前だ!

二階にある寝室の窓の外側、ほんのわずかにある出っ張りに器用に座った猫のパイ。

何だか私を睨んでいる。


最初に出会った時は汚れた野良猫だったのに、侍女のローズに甘やかされて、今では白いふわふわの高価そうな毛皮になった。


ローズは「奥様の飼い猫です」とみんなに言っているけれど、猫のパイは絶対にローズの飼い猫のつもりに違いない。

私の事は、なんか邪魔な奴、と思っている節がある。生意気だ。


毎晩ローズの部屋に行き、ローズのベッドで眠っているのも、ローズ派の二番のくせに生意気だ。

久しぶりに会ったのに、何か私に怒っているところも本当に生意気だ。


でも、私こそがローズ派の一番。二番なんかに舐められるわけにはいかない。

私は腕を組み、威厳を持って窓の向こう側にいる猫のパイと対峙したのだ。


「久しぶりね。パイ。こんな真夜中に何の用かしら」

「にゃーーーーーー!」

タン!タン!タン!

伸ばした片手で窓を叩く猫のパイ。


「ふん。所詮、猫ね。何を言っているのか全く分からないわ」

「にゃーーーーーー!」

タン!タン!タン!


窓越しに睨み合う私たちの前に、チルちゃん達が恐々と入ってきた。

窓ガラスにぴたりと手をつけ、心配そうにパイを見るチルちゃん。

猫のパイは鳴くのをやめて、ガラス越しにチルちゃんの手の平を鼻先でつん、と付いた。


見つめ合う猫のパイとチルちゃん。心の交流をしている。私の指先の玉ちゃんまでが、心配そうに瞬いている。

そんな事をされると窓を開けない私が、ただの悪者みたいだ。


仕方ない。

窓を開けて「何よ」と猫のパイに声をかけた。


「ふんにゃーーーーーーー!!」

途端に態度が悪くなる猫のパイ。

「何よ!!」


「奥様。どうしました?」

寝室の扉の向こうから、護衛が声をかけてくる。

ロザリーじゃない。交代した別の護衛の男だ。屋敷の中に人が増えてから、夜、寝室の前にも護衛が置かれるようになったのだ。今日の当番は誰だったかしら。

「奥様?」

ああ、この声はケビンだ。彼が恋する相手に贈った求婚の言葉は「結婚して欲しい」でも振られてしまったらしい。その後、どうなっただろうか。今度聞いてみなければ。


「大丈夫よ。猫が騒ぐものだから、少し叱っただけよ」

「ああ。パイですか」安心した声がした。「毎晩、屋敷を歩き回っていますよ。パイ。奥様のお休みの邪魔をしてはダメだ」


猫のパイは、プイッと後ろを向くと、屋敷の壁を駆け降りた。

意外と器用だ。

感心して眺めていると、猫のパイはこちらを見上げ、怒った声で「にゃーーーーー!」と鳴いた。


「何よ」

月明かりの下、苛立たしげにブルンと振られる猫のパイのふわふわした尻尾。それをチルちゃん達としばらく眺めた。

あの猫は、何をあんなに怒っているの?


「・・・もしかして、こっちに来いと言ってるのかしら?何か見せたい物があるの?」


ふと思いついて呟くと、チルちゃん達が、ハッとした顔をして私を見上げ、うんうんと頷き始めた。

猫のパイも「にゃーーーーーーー!」と鳴いた。


「えー。でも、今から?」

真夜中なのだ。猫のパイがいるのは外なのだ。

でも、猫のパイは怒っているし、チルちゃん達はキリリとやる気に満ちている。


仕方ない。


私はガウンを羽織ると、チルちゃん達を引き連れ寝室の扉を開けた。


「奥様?」


扉の外に置かれた椅子に座っていた護衛のケビンが、のっそりと立ち上がった。

ケビンは体が大きく、眉毛が太く、小さい目に長いまつ毛をした善良な二十一歳だ。


「猫が逃げたの。探してくるわ」

「今から?」

「今からよ」


ケビンは長いまつ毛で二回(まばた)きをした後、「分かりました」とついてきた。


 ⭐︎


外に出る気で階下に降り他のだけれど、階段近くの窓の外に、すでに猫のパイが張り付き、「にゃーーーーー!」と叫んでいた。


「パイは中に入りたいのでしょう。窓を開けますか?」

先に進み出たケビンが聞いてきた。

「お願いするわ」


ケビンが開けた窓から、猫のパイはすぐに飛び込んできた。そしてまた「にゃーーーーー!」と怒りながら廊下を駆け、随分遠くで振り返ると、また「にゃーーーーー!」と叫ぶのだ。

「何よ!」

わざわざ階下まで降りてきて窓を開けてあげたんだから、お礼くらい言いなさいよ!


私は怒っているのに、チルちゃん達は一斉に駆け寄っていき、心配げに猫のパイを囲み、「チルチル?」「チルチル?」と何事か話し掛け、ふんふん頷いた後、みんなでこっちを見てくる。

「何よ・・・!」

私もこっちに来なさいって言うの?生意気な猫のパイに睨まれながら?嫌よ。


猫のパイと睨み合う私に、「俺が捕まえてきましょうか?」とケビンが遠慮がちに聞いてきた。


大きなケビンを見上げると、長いまつ毛に囲まれた小さな善良そうな瞳が、心配げに私を見下ろしていた。


「・・・私が行くわ。私を呼んでいるみたいだし」

善人ケビンに無駄な心配をさせるほどの事でもないのだ。

私がトボトボと歩き出すと、ケビンは安心したように言ったのだ。


「ああ、きっと、パイは奥様に甘えているんですね。奥様に来て欲しいんだ。やっぱり奥様の猫だから、奥様の事が一番好きなんだ」


善良すぎるケビンの言葉に、それは絶対に違うわ!と思いながら進んだのだ。


 ⭐︎


結局、五カ所で怒られた。猫のパイにだ。


「にゃーーーーーー!」

一ヶ所目は玄関ホール。

壁に前足をつけ、立ち上がった猫のパイは、腹立たしげにタン!タン!タン!と壁を叩いた。


「何よ」

私はチルちゃん達やケビンと並んで、猫のパイが叩いた壁を眺めた。


「何でしょうね」

善人ケビンが、善良な声で言った。


うーん。本当に何かしら。普通の壁だけれど。でも・・・・ん?


猫のパイが叩いた壁の、私の頭の上くらいの高さの場所に、銀色の線で丸い模様が描かれていた。大きさは、ワインの瓶の底くらい。丸の中には、細かな図形も描かれている。

前から、こんな模様あったかしら?それに、この模様、どこかで見たような気がする。


近づいてよく見ていると、「どうしましたか?奥様?」とケビンに聞かれた。


「これ何かしら・・・」

「何か虫でもいましたか?」

「これよ」

「よく見えませんが小さな虫ですか?」


不思議そうに私が指差す模様を見つめるケビンを見て、ふと気がついた。

もしかしてこの模様が見えてない?

でも、銀色の模様は、薄っすらと光っているのだ。こんな派手な模様、無視できるはずがない。


チルちゃん達を見下ろすと、銀色の模様に向かって指を差し、私に向かって「チルチル」と頷いている。

チルちゃん達には見えているのだ。


うーん。チルちゃん達や私には見えて、ケビンには見えないもの。闇と同じ性質のものなのかしら?それは何?

それにこんな模様、絶対に先日までなかったのに。これは何?


考えていると、猫のパイは壁を離れ、また「にゃーーーーー!」と鳴いて歩き出した。

私とチルちゃん達と善人ケビンは、仕方なくついて行った。


その後、四ヶ所を回らされたのだ。


玄関ホールの正面扉の外の壁。警備の部屋の前の壁、使用人達の休憩室の中の壁。雷のカトリーヌの執務室の前の壁。

全部の場所にあの丸い模様があった。

全部の場所で猫のパイに怒られた。

「にゃーーーーーーーーー!」


これはあれかしら。やっぱり、この丸い模様の事で私は怒られているのかしら。これは私の責任だと言われているのかしら。この屋敷の奥様である私に、監督不行届きだ何してんだよお前、と言っているのかしら。お前それでもローズ派の一番なのか?はあ?ローズのいる屋敷に、こんな目障りな模様描かれて、それでもお前はローズ派の一番なのか?と言われているのかしら!ローズ派二番の猫のパイなんかに!


誰よ。誰が描いたのよ、この模様!


だんだん怒りが込み上げてきたところに、コツコツと足音が聞こえたのだ。


「奥様・・・?ですか?どうされましたか?こんな場所で・・・」


狭い廊下を歩いてきたのは、窓から差し込む月明かりに照らされた、麗しいイブだった。

まるで待ち構えてみたいに、出てきたのだ。


この胡散臭い男が来てから、この丸い模様が現れたのだ。

絶対に何か関係がある。

いいえ、むしろ犯人かもしれない。


犯人はお前だ!と、私は八つ当たり気味に思ったのだ。

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