第30話 信頼に必要なもの
なんだか、すごく書き上げるのに時間がかかってしまったけれど、ここからはサクサクっと行きたい。という希望を皆様にお伝えする作者。
私の面接は勢いが良いのだ。
「あなたは右の列に並んでちょうだい。ええ、そうよ。右の列よ。はい、次の人。ふんふん。あなたは左の列に並んでちょうだい。はい、次の人。ふんふん。あなたも左だわ。はい、次の人」
私はシモーヌが連れてきた三十人の侍女たちの面接を、ぐいぐいと進めていった。
チルちゃん軍も面接が終わった侍女達の纏う闇と、ムチムチと戦っている。
丸い背中をこちらに向け、えいっと光の槍を刺すチルちゃん。ふっくらとした手で弓を構え、光の矢を飛ばすチル友ちゃん。みんな可愛い。あー可愛い。
チルちゃん達の可愛らしさの真価は、戦いの時に現れるのかもしれない。戦っている真剣な顔のチルちゃん達は、あー可愛い。
指先の玉ちゃんも、機嫌の良さそうな光をピカピカさせていた。もちろん、玉ちゃんも丸くて可愛い。丸こそ正義。あー可愛い。
可愛いチルちゃん達を愛でながら、ご機嫌に面接を続けていると、シモーヌが、綺麗に白粉を塗り込んだ眉間に薄っすらと皺を寄せ、尋ねてきた。
「これは何をしているのかしら?エルサ様」
私はにこやかに答えたのだ。
「もちろん、面接ですわシモーヌ様」
「・・・これが?ただ顔を見て、適当に左右の列に並ばせているだけではありませんか」
「まあ、シモーヌ様。適当に並ばせているわけではありませんわ。もちろん理由はありますのよ。厳正な面接の結果、屋敷に残る侍女を決めているのですわ。はい、次の人。ふんふん。左の列へ。はい、次の人。あなたも左の列へ」
「お待ちなさい」
シモーヌの眉間の皺が深くなった。
「どちらの列が屋敷に残す侍女の列なのですか」
「右ですわ」
私の即答に、シモーヌの眉間の皺が更に深くなった。
だから、私は微笑み言ったのだ。
「大丈夫ですわよシモーヌ様。今のところは右の列には、まだ五人しかいませんが、これからですわよシモーヌ様。きっと、もう少し増えますわ。
はい、次の人、前へ。ふんふん。あなたは左よ。はい、次の人。あら、あなたも左だわ。左の列へ」
「お待ちなさい!これのどこが面接なのですか?顔を見ているだけではありませんか!」
シモーヌが怒鳴り声を上げた。
最近私が出会う年配の女性は、短気な人が多いのだ。でも、私は短気な女性が嫌いではない。むしろ好きだ。
それで私はまたシモーヌに微笑んだのだ。
「見ているのは顔だけではありませんわ。はい、次の人」
次の侍女は、少し高慢そうな顔をした若い侍女だった。
「あなたは左よ。はい、次の人」
帰る方の列に仕分けられたその若い侍女は、なんとシモーヌをジロリと見た。
シモーヌは勢い良く立ち上がった。
きっと、シモーヌは不遜な態度の侍女を怒鳴りつけると思ったのに、何故かシモーヌは私を睨みつけ、私を怒鳴り付けたのだ。
「お待ちなさい!エルサ様。あなたは良い侍女の選び方が分かってないようですね。
まあ、エルサ様のお育ちを考えれば仕方のない事なのでしょうけれど。ええ。もちろん、私は全て知っておりますよ。あなたの父親の事も、あなたの父親の罪もです。・・・恥ずかしい!
あなたも田舎暮らしで、貴族としてのまともな教育など受けていないのでしょう?
いいでしょう。私が教えて差し上げますわ。甥と結婚してしまったのですもの、仕方がありません。
まずは良い侍女の選び方からです。
顔が気に入らないなどの馬鹿げた理由で選んではいけません。今、あなたが左の帰す列に入れようとした侍女は、大変優秀な侍女です。この屋敷に残すべきです。残しておきなさい。いいですね。
さあ、そこの侍女。右の列に行きなさい。そして、公爵家に尽くしなさい」
高慢そうな若い侍女は、ツンとした顔で一礼すると、右側の列に向かおうとした。
「あら、いけませんわ。あなたは右に行っては駄目よ。あなたは左の列だわ」
私は上品な公爵夫人らしい笑みを浮かべて見せた。
言われた侍女は探るような視線を私とシモーヌに向けた。優秀な侍女は、そんな視線を主人に向けたりしないのだ。本当に無礼な侍女だ。
それなのに、シモーヌは私の方をまた睨みつけたのだ。
「何故、私に逆らうのですか?公爵家の侍女の選び方など、あなたに分かるわけがないでしょう!?あなたなどに!
ああ、忌々しい。甥が罪人の娘と結婚したと聞かされた時、私は気を失いそうになりました。
偉大なる陛下の深い思慮は、私のような者には理解出来ませんが、結婚する前に知っていれば、どんな手を使っても反対したものを!
ええ。今となっては、もう、遅いですわね。
ですから、私が今から、少しは恥ずかしくない程度にしてあげようと言っているのです。
あなた!さっさと右の列に並びなさい!」
シモーヌはどうしてもその不遜な侍女を、この屋敷に入れなくてはいけないらしい。
怒れるシモーヌに指差された侍女は、ツンとした顔をして、また右の列へ行こうとした。
でも、私は再度言ったのだ。
「いけませんわ。あなたは左の列よ」
シモーヌから怒りと共に魔力が漏れ出し、部屋がまた軋み出した。
高慢だった若い侍女も青ざめ立ち尽くしていた。
他の侍女達だって青ざめ、立ち尽くしているのだ。
私はドーナッツのおかわりが欲しかったのだけれども、今は誰も持ってきてくれそうになかった。
でもチルちゃん軍だって部屋の隅に駆け込み、エルビスと一緒に震えていたから、急いで魔力を作る必要はないのかもしれない。
一人だけ血気盛んな雷のカトリーヌが、私の後ろから進み出て来ようとしたけれど、私は手で制した。
私はシモーヌと喧嘩がしたいわけではないのだ。
「シモーヌ様。今回、私が侍女を選ぶ基準は、シモーヌ様が信頼している侍女か、否か。ただ、それだけですわ。私はシモーヌ様が信頼している侍女をここに残したいのです」
シモーヌの魔力がまた膨らんだ。本当に短気な人なのだ。
「何をふざけた事を!今日初めて会ったあなたに、私がどの侍女を信頼しているかなど、分かるはずがないではないですか!」
「分かりますわ」
私はまた微笑んだ。
「選ばれた侍女をご覧ください。ええ。右側の列に並ぶ侍女たちです」
シモーヌが血走った目で、右側の列を見た。
よく見た。
シモーヌの魔力が揺らぎ、部屋中に膨らんでいた魔力がすっと消えていった。
「・・・エルサ様。あなたは何を?」
何をって、私は本当にただシモーヌが信頼している侍女を右の列に並ばせただけなのだ。
「私は、信頼には時間が必要だと知っているだけですわ。初対面の相手を深く信頼するなど、難しいですものね」
そう。私は、シモーヌと同じような闇を同じだけ付けている侍女を、右の列に並ばせているだけなのだ。
きっと、彼女達は、シモーヌが自らの屋敷から連れて来た侍女達なのだ。
左の列の侍女達は、皆、深く濃い闇をたっぷり付けていた。シモーヌとは違う、異質の闇だ。この闇は、私の流行の教師、ジョルジュが先日纏っていた闇に似ていた。
濃い闇がたっぷりある大貴族の屋敷から、この侍女達は来たのだ。
シモーヌを通して、侍女達を送り込んできた大貴族様は、侍女達に何をさせるつもりなのかしら。うふふ。
でも私にこの侍女達を受け取るつもりはないのだ。面倒だから。
シモーヌが恐ろしいものを見る目をして私を見るので、爽やかに微笑んで見せたのだ。
「面接を続けましょう。でも、面接などしなくとも、どの侍女が残されるのか、シモーヌ様には分かるはずですわ。さ、そこのあなた。立ち止まってはいけません。左の列に行きなさい。今すぐ。では、次の人、前へ」
そこからは誰にも妨害される事もなく、面接を終えたのだ。
右側の残る列に並んだのは、全部で六人の侍女だった。
「クロディーヌを呼んでちょうだい」
侍女長である嵐のクロディーヌは、キビキビと部屋に入ってきた。
「左側の侍女達には帰りの準備をさせてちょうだい。右側の侍女達は、シモーヌ様からお借りした侍女達なの。今日から彼女達の事、お願いするわね」
「おまかせくださいませ、奥様」
クロディーヌは覇気のある声で答えた。
軍隊のように使用人達を率いるクロディーヌに任せておけば、全ては上手くいくのだ。
「では、あなた達、ついてきなさい」
クロディーヌは心細げな侍女達を、たちまち連れて行ったのだ。




