表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第2章 国王陛下と我が栄光のチルちゃん軍

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/91

第29話 架空の花

先ほどまでの荒んだ空気は消え去り、心霊現象のような怪奇音もしなくなると、壁際の侍女達が、ほっとした顔をして動き出した。


素早くお茶の準備が進められた。


シモーヌはやっとソファーに座り、私は低いテーブルを挟んだ向かい側のソファーへ座った。

カトリーヌは影のように私の斜め後ろに立ったのだ。


給仕用のワゴンが部屋へと次々に運び込まれ、嬉しそうなエルビスと共にやってきた料理長が、畏まった挨拶をした後、言ったのだ。


「本日は特別な菓子を用意しております」


料理長が背後を見ると、侍女がワゴンを押して来た。


「こちらは食べられる芸術でございます」


料理長自らが慎重にワゴンから下ろしテーブルの上へと置いたものは、瑠璃色をした長方形の平たい植木鉢だった。鉢の上には緑の葉がこんもりと茂り、白いレースのような花弁を幾重にも重ねた小さな花が、ポツリポツリと咲いていた。


「まあ、どういう事?」


不機嫌だったシモーヌも、不思議そうに身を乗り出してきた。


紅茶が、そっと置かれていった。


「こちらは全て食べられる材料で作った菓子でございます。しかし、食べていただきたいのは花の部分なのです」


私はそっと手を伸ばし、植木鉢から白い花を掴み取ると、口の中に入れてみた。

繊細な砂糖菓子だった。

何層にも重なった花弁が、口の中でほろりと崩れ、爽やかな甘みを広げ、(はかな)く消えていった。


「美味しい」

驚き、口元を押さえたまま、料理長を見た。


「ご満足いただけて良かったです。以前、奥様と考案した菓子でございます」

料理長は意味深な目配せと共に言ったのだ。


私と考案した菓子?

どれの事かしら。

料理長とは、新しい菓子や料理の考案を大量にしているので、どれの事だったのか分からない。

それにほとんどは新作のドーナッツについてだった。

こんな繊細な砂糖菓子、考案したかしら?



好奇心を抑えられなかったのか、シモーヌも花をとり、口に入れた。

「あら、本当に美味しいわ」

口元を押さえて、目を見開いた。


「それに、とても綺麗ね。でも、見たことがない花だわ。なんという花なの?」


シモーヌがさらに一つ花を取り聞いてくる。


「『精霊王の花』と呼ばれている架空の花でございます。物語や芝居に時折登場しますが、実際はどのような花なのか、本当に実在するのかさえ、誰も知らない花でございます。

こちらは古い絵本の『精霊王と姫君』に描かれていた挿絵を参考にお造りいたしました」


おお!なんだか壮大ね。

でも、そんな菓子、私、考えたかしら?


首を傾げていると、植木鉢の影に、料理長が素早く皿を置いた。

皿の上には一口大の丸いドーナッツが山のように乗っている。

薄く粉砂糖がかかった、カリッとしたやつだ。


「菓子は他にもご用意しております。お楽しみくださいませ」


得意げな顔を私に向けた料理長が後ろへ下がると共に、侍女達が一口(ひとくち)大のタルトとケーキを美しく、けれどちんまりと乗せた皿を、私とシモーヌの前にそれぞれ置いたのだ。


でも、ドーナッツの山は私の方にしか置かれていない。

植木鉢に隠れるように置かれたドーナッツは、きっとシモーヌからは見えていない。


それで、やっと思い出した。

随分前に、料理長に言われたのだ。


「これから貴族の客が増え、この屋敷で食事やお茶をする機会が増えると思います。しかし、いつものように、テーブルの上いっぱいに料理やドーナッツの皿を乗せるのは、その、あまり見栄えが良くないかと」

「でも、私には沢山必要だわ」

「そうですよねえ。どうしましょうか」

「手品みたいに出せないかしら」

「今から給仕の者に手品を習わせて間に合いますか?」

「間に合わないかしら。では、テーブルの上に大きな花瓶を置いて、その影にドーナツを置くって言うのはどう?」

「なるほど。しかし、無意味に大きな花瓶を置いても、不審に思われるのでは?」

「理由が必要かしらね。特別珍しい花だと説明するのはどうかしら。壮大な伝説がついた花なら、なお良いわ」

「壮大な伝説?」

「ええ。壮大な方が、人は不審に思わないものなのよ。嘘も壮大な方がバレないでしょ?」

「奥様はいつも、そのように嘘をついているのですか?」

「そうよ」


そんな会話をした気がする。

なるほど。あれから料理長は『精霊王の花』なんて壮大な伝説がついていそうなものを探し出し、お菓子の花を作り出したのね。


素晴らしいわ!料理長!


すっかり感心した私は、山盛りのドーナッツをペロリと食べたのだ。

私はとても素早く食べる事が出来るので、『精霊王の花』に気を取られたシモーヌには全く気づかれなかった。


すぐさまワゴンの横にいた侍女が、紅茶のポットを移動させるようなフリをして、空になった皿を、隠し持っていた別のドーナッツが山盛りになった皿と取り替えた。


素晴らしいわ!手品の訓練もやったのかしら?

みんな、なんて有能なの!


今度のドーナッツは、やはり一口大で、黄色いチョコレートが掛けられたものだった。

口に入れると、レモンの爽やかな味がした。


すぐさまペロリと食べきると、慌てて別の侍女が近づいてきて、また素早く別の皿とすり替えた。


今度もまたドーナッツだ。中に、甘酸っぱいラズベリージャムが詰まっている。食べると、ぷちっとジャムが口の中に広がるのだ。美味しい!

ペロリと食べた。


でも、流石に侍女の移動が多すぎたのか、不快に思ったらしいシモーヌが眉間に皺を寄せて公爵家の侍女達を見ている。

次のドーナッツの皿を隠し持っているだろう侍女が、こちらに来られず焦っていた。


もちろん私は健気な侍女に協力をする。


「では、シモーヌ様が連れきた侍女の面接をしましょう。誰か。一人づつ連れてきてしょうだい」

「今ですの?」


シモーヌは嫌そうな顔をしたけれど、私は押し切った。


「先に面接を済ませてしまえば、その後はシモーヌ様とゆっくりお話が出来ますもの。私、シモーヌ様に教えていただきたい事が沢山ありますのよ」


頼りにできる年長者を慕う無邪気な奥様風の擬態(ぎたい)の前に、シモーヌは無力だった。


「そ、そう。エルサ様がそうおっしゃるのでしたら」

「ふふふ。シモーヌ様のお許しもでたわ。さあ、最初の方を連れて来てちょうだい」


私の依頼を受けて、侍女達の動きが激しくなった。

その隙に次のドーナッツを隠し持った侍女が、さりげなく近づいてきて皿を交換して行った。


今度のドーナッツには、とろりとしたピーナッツクリームが詰まっていた。

ステキ!


さあ、次を、と私は微笑み、侍女達を促した。


シモーヌ達の恐怖から立ち直ったチルちゃん軍は、すでに光の武器を取り出し闇を消しにかかっているのだ。

シモーヌの闇は消したけれど、壁際に立っていたシモーヌの侍女達は、まだ闇がたっぷりついていた。

これから、更に三十人来るのだ。

私にはまだドーナッツが必要だった。


コルセットでお腹をキリキリ締め付けられているけれど、私はチルちゃん軍の為に、魔力を作る必要があるのだ。

頑張らなくては。

次のドーナッツは何が入っているのかなー。ふふふん♪


斜め後ろにいるカトリーヌの事がふと気になり、さりげなく見上げてみると、呆れた目をして見下ろしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ