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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第2章 国王陛下と我が栄光のチルちゃん軍

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第25話 ジョルジュの好みの女性

長文が多かったので、読み辛いかなと、書き直してみました。

マナーの授業の次は、流行の授業だった。


私が部屋に入ると、ジョルジュがソファーの上でゆったりと座り、気取った手つきで紅茶を飲んでいた。


今日も大量の羽根で髪を飾り立て、本当は男臭い顔に薄っすらと化粧をし、最高にチャラチャラした服を着ていた。


つまりいつも通りのジョルジュだった。

いえ、少し不機嫌かしら?


部屋に入った私を見ると、紅茶のカップを素早く置いて、騒々しく苦情を言い始めたのだから。


「ごきげんよう、エルサ様。聞いてちょうだい。今朝、私、ふわっふわのベッドで素敵な夢を見ていたの。これまでで一番素敵な夢よ。でも、エルサ様のところから使者が来て、『今日はいつもより早く授業を始めて欲しい』なんて騒ぐから、夢の途中で叩き起こされちゃって、どんな素敵な夢だったのか全然覚えてないのよ。酷いでしょ。ええ。私、苦情を言っているのよ、エルサ様に!ねえ、あら?ちょっと待ってちょうだい。良く見せてちょうだい」


騒々しい喋りの途中で、私が耳の後ろに一枚ずつ飾った真紅の羽根を見つけると、興味津々で立ち上がった。


そして私をジロジロ見つめながら、私の周りをぐるりと回った。


私の後ろに付き従う護衛のロザリーが警戒するように近づいてき、ジロジロとジョルジュを見たが、ジョルジュは気にした様子もなく、たっぷり私を観察してから言ったのだ。


「正解よ。エルサ様。今は羽根をたくさん付けるのが流行っているけれど、次は必ず少ない羽根を印象的に飾るのが流行り始めるわ。今から先の流行に備えておくのは、正解よ」

「チルチルチル!」


ジョルジュの足元では、チルちゃん達が羽根に向かって一斉に手を伸ばしている。ジョルジュはちっとも気が付かないけど。


少ない羽根が流行ってしまうと、チルちゃん達が嘆きそうだと考えていると、

「あら、ちょっと待ってちょうだい」

と、ジョルジュが言った。

そして、大きな宝石が煌めく指輪をつけた人差し指を、自らの顎に当て、訝しげに私を見つめたのだ。


「エルサ様、何か変わったわね」

「まあ。何かしら。私はいつも通りよ」

「ふふん。私の目は誤魔化せないわよ。確かに何か変わったわ。ええ。そうね。より、貴族らしく、なったのかしら」


ジョルジュは首を傾げたのだ。

私は貴族らしく微笑んでみせた。


「先ほどまでマナーの授業を受けていたせいかしら。マーガレット先生の授業は、いつも素晴らしいのだけれど、今日の授業には特に感銘を受けましたのよ」


もちろん擬態(ぎたい)をしているのだ。

目の前にいるのは、まだ求婚の言葉を教えてもらってない獲物ジョルジュ。

狩るつもりだ。


「あら、嫌ね。何だか怖いわ」

勘の良いジョルジュは少し体を引き、うふふと笑った。


「エルサ様のマナーの教師は優秀なのね。マーガレット・ハディ伯爵夫人でしょ?社交界に出ていく前の、マナーのなってない小娘どもの救世主。

ふふふ。もちろんエルサ様は、そんな小娘どもと違って、ちゃんとマナーは出来ているわよ。でも、今日は特に、良くなっているわ。

どうしてかしら。

ふうん。

そうね」


おそらくジョルジュは、私が何かを仕掛けようとしている事に気づいたのだ。


一瞬、ジョルジュの素である、男臭いジョルジュが面白そうに私を見つめた。


でも、それは本当に一瞬だけで、すぐにいつもの女性らしい仕草とお喋りで覆い隠された。


「エルサ様はハディ夫人のご主人の事はご存知なのでしょう?

北方騎士団の騎士団長。北にある魔の森から王国を守り続ける王国の盾。王国の守り人。王国中の武人達の憧れの人。

ふふふ。ハディ伯爵は、岩のような体をしていてね。顔もまるで岩のようなの。少しも笑わないし、驚きもしない。

でもね、そのハディ伯爵がちょうど騎士団長に就任した二十年前に、泣きそうな顔をして夫人に求婚したのは、有名な話よ。

花と貴族で溢れた公園の真ん中で求婚したんだから、そりゃ有名になるわよね。

私、その時、まだ子供だったけれど、ばあやに連れられて公園に遊びに行ってたから、ハディ伯爵の求婚を見ていたのよ。最前列でね。ふふふ。

どう?その時の話を聞きたいかしら?エルサ様」


「聞きたいわ!」


ジョルジュが、何か仕掛けようとしている私の気を逸らすために、私好みの話を持ち出しているのは気づいていた。

気づいていたけど、ど真ん中に私好みの話なのだ!


擬態(ぎたい)なんかは、一気に解けた。


「さあ、今すぐ聞かせてちょうだい!詳しく。全部。何もかもよ!」


私は目を輝かせ、ジョルジュに迫ったのだ。チルちゃん達も玉ちゃんもジョルジュに「チルチル」ピカピカ迫ったのだ。


「ふふふ。もちろん話してあげるわ。ハディ伯爵の求婚で有名になったその公園が、今では求婚の聖地になって、大勢の貴族達の求婚の場所として選ばれている話も聞きたいわよね」


「もちろんよ!」


「では、座りましょう。これも流行の授業になるわ。貴族達との会話にも、良く出てくるのよ。知っておいて損はないわ」


こんな風に、私はジョルジュの手のひらの上で踊ったのだ。


⭐︎


「それで、エルサ様は、何を企んでいたの?」


たっぷりと楽しい話で盛り上がった後、ジョルジュが可笑しそうな顔をして私に聞いた。


「ジョルジュの求婚の言葉を聞きたかったのよ」


私は正直に言ったのだ。


「求婚の言葉?どうして、そんなものを聞きたいの?」

「集めているからよ。趣味なの。誰かの求婚の言葉を聞くのが」

「ふうん。エルサ様らしい趣味よね」


ジョルジュは少し呆れたように言うと、紅茶を飲んだ。


「でも、私、エルサ様には言わないわよ。まだ求婚する相手に言ってないもの。求婚の言葉は、求婚する相手に言う言葉だものね」


私の流行の教師、ジョルジュ・モロー子爵はまだ独身なのだ。

歳は二十八らしい。知った時には、もっと歳をとっていると思っていたので驚いた。

私の旦那様アレクシスよりも二つ上。呪いもないのに、すでに子爵家の当主で、二十八で、まだ婚約者がいないのは、珍しい。


「婚約者はまだいないのでしょう?求婚したい人はいるの?」


私の問いに、ジョルジュは謎めいた微笑みを浮かべてみせ、

「ふふん。秘密よ。言わないわよ」と言ったのだ。


ジョルジュは秘密主義なのだ。

でも、そういうのを崩していくのも、また楽しいのだ。


私は無邪気な顔をして、

「それじゃあ、どんな人が好みなのかしら?」と聞いてみせた。


「ふふふ。なかなか粘るわね。そうね。私の好みは、重量がある女性よ」


ほーほー。

好みの人を聞いて、重さで答えてきた人は初めてだった。


「体重の重い人が好きなのね」

「ええ。そうよ。こう、抱きしめるとこぼれるくらいの大きさで、ずっしりとして、みっしりしている女性が理想よ」


ジョルジュは両手を広げて見せると、うっとりとした顔で言ったのだ。


ふむふむ。

私が旦那様のアレクシスに抱きしめられた時に感じる、あのずっしりとしてみっしりとした感じと通ずるものがあるのかしら。

私もアレクシスに抱きしめられるのは大好きだ。

それと同じ感じなのかしら。


考えていると、ジョルジュが楽しげに付け加えた。


「重さがあれば、内面も、顔も、どうでもいいわ」


「え?そうなの?」

驚いて聞き返すと、ジョルジュは当然のような顔をして「そうよ」と頷いた。


「だって、内面なんて一緒に暮らしてみないと分からないじゃない。知性なんて、どうにでもなるわ。顔だって、化粧で随分変わるでしょ。そんな不確かなものは、どうでもいいのよ。

確かなものは、重量だけよ。ずっしりとした体。それこそが全てだわ」


ふんふん。

ジョルジュらしい考え方なのかもしれない。


「目当ての人はいるのね?」

「ふふふ。秘密よ」

「求婚したら教えてくれるんでしょ?」

「もちろんよ。お友達」


「お友達」と私に言った時だけ、ジョルジュは男臭い顔をした。


「約束よ」と私は私のお友達に微笑んだ。


仲良く微笑みあっていると、窓の外が騒々しくなった。

馬車の音だ。

それも何台もの馬車の音だ。


「お客様が来たようね。今日の授業はこれで終わりよ」

ジョルジュは私から目を逸らして言った。


私達は二人で窓辺に立ち、何台もの馬車が屋敷の前に停まるのを眺めた。


一番豪華な馬車から、黒髪の女性が降りた。


「シモーヌ様ね」と、囁くようにジョルジュが言った。


「シモーヌ様をご存知なの?」


「もちろんよ。ハスラー公爵のお母様のお姉様。シモーヌ・アールストーム侯爵夫人。彼女はね、信用できる人よ」


信用なんて、ジョルジュから一番遠い場所にある言葉だ。


ジョルジュもシモーヌも、バルバトル公爵家から我がハスラー公爵家に送られた、闇に塗れた三枚の手紙に関わる人たちだ。

二人とも、ハスラー公爵家の敵、なのだろうか。

秘密の多いジョルジュは、何をしようとしているのだろう。


私はジョルジュの秘密を狙い、慎重に擬態(ぎたい)をして、聞いたのだ。

「シモーヌ様は信用できる方なのね?」


ジョルジュは女性らしい仕草で、私を見下ろすと、

「ええ。信用していいわ。必ずエルサ様の味方になってくれるはずよ」と言った。


嘘つきがいる。


ことさら女性らしく振る舞う時のジョルジュは、平気で嘘をつく。

でも嘘つきを見上げる私は、獲物を狙う強者のように擬態(ぎたい)をしているのだ。


「ジョルジュがそう言うなら、もちろん私はシモーヌ様を信用しますわ」

私は貴族らしい表情で嘘をついた。


ジョルジュの表情が、不意に男臭くなり、面白そうに私を見つめた。

そして小声で言ったのだ。


「俺の将来の夢を覚えているかい?お友達」

「チャラチャラ生きる事かしら」

私も小声で返事した。


「それとあともう一つだ。チャラチャラと長生きして、チャラチャラとお茶をしたい。俺のお友達とだ」


そういえば、そんな事も言っていた。


ジョルジュは男臭い顔のまま、ニヤリと笑うと更に言った。

「生き残れ、俺のお友達。そして歳をとったら、俺のお茶にチャラチャラ付き合え」


私はジョルジュの顔をしばらく眺め、

「もちろんよ」と、私らしくニヤリと笑った。


それから二人で黙ったまま、窓の外を見下ろしたのだ。


ほ、ほら!シモーヌ様、チラッと登場したでしょ。

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