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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第2章 国王陛下と我が栄光のチルちゃん軍

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第20話 もう一つの公爵家

ジョルジュの推薦状は、随分上質な便箋に書かれていた。薄っすらと透かしまで入っている。

光にかざしてみると、見覚えのある紋章が浮かび上がった。


この紋章は最近、貴族名鑑で見たものだ。確か・・・


「もう一つの公爵家である、バルバトル公爵家からの正式な推薦状です」


思い出すより先に、カトリーヌが言ってくれた。


バルバトル公爵家の紋章は、優美な二本の剣と吠える狼。

ハスラー公爵家の紋章は、無骨な一本の剣と一輪の花。


二つの紋章は、相反しているようで、似てもいる。


「奥様もご存知の通り、バルバトル公爵家は王国に二家のみある公爵家のうちの一つであり、ハスラー公爵家と対をなす公爵家です。アレクシス・ハスラー公爵様が呪われ屋敷から出られない間、バルバトル公爵家は貴族の先頭に立ち、王国の為に尽くしておられました。王家からの信頼も厚いと聞いております」


ふんふん。なるほど。

では、王家からの信頼が厚いバルバトル公爵家が、闇に塗れた推薦状を送りつけてきたのね。

喧嘩を売っているのかしら?買うわ。売ってるなら。全力で。


「カトリーヌはこの推薦状を読んで不安にはなったけれど、信頼できる公爵家から送られたものだから、ジョルジュ・モロー子爵を私の教師に選んだのね?」


尋ねてみると、カトリーヌはぎゅっと眉間に皺を寄せ、忌々しげに「はい」と答えた。


何だろう。その顔は。


「嫌々選んだの?」


「そうでは、ありません!先ほどお伝えしたように、バルバトル公爵家は王家の信頼も厚く、他の貴族からの信頼も厚いのです。推薦状も信頼できます。推薦されたモロー子爵を奥様の教師に選んだのは、正しい選択だったと今も思っております。しかし!」


雷のカトリーヌの怒気が急激に上昇し、私を見つめる視線も鋭くなった。まるでカトリーヌの頭の上で、雷雲がゴロゴロと鳴り出したみたいだ。


どうしたのかしら、突然。

疑問に思いながらも、「しかし?」と先を促してみた。


「しかし、あの男は信用できません」

「あの男というと・・・」

「ジョルジュ・モロー子爵です!」


ああ、なるほど、と納得した。

どう考えても二人は合わなそうだものねー。厳しく正しく生きたいカトリーヌとチャラチャラと生きたいジョルジュ。うんうん。合わない。無理無理無理。


納得する私の前で、カトリーヌの雷雲は、ぐんぐんと膨れ上がった気がした。


「あの男の屋敷で、一年ほど働いたのです。一年が限界でした。あの男の趣味に関しては何も申すつもりはございません。ええ、あの男の悪趣味な服装や、化粧や、言葉使いは、私には理解出来ませんが、貴族の中には、おかしな趣味を持つ方々も沢山おります。あの男は少々度が過ぎるとは思いますが、ええ、私は何も申しませんとも!しかし、どうしても受け入れられないものがあるのです!」


何、そのワクワクするものは!


「それは、何なの?」

目を輝かせて尋ねたのだ。


カトリーヌは、つんと顎をあげて、吐き捨てるように言った。

「口先でございますよ」


「口先?」

何それ?


「あの男の手口はいつも同じです。まずは、悪趣味な服装と化粧と喋り方で相手を混乱させた後、あの良く回る口先で翻弄するのです。口先で適当な事を言い、信用させ、振り回すのですよ。そして秘密を話させ、金儲けに利用するのです。あの男の上滑りな言葉に、真心など何処にもありません!誠実さなど持ち合わせていない男です。良いですか、奥様!あの男を信用してはいけません!」


えーーー、と思った。


「推薦されたとはいえ、どうしてそんな男を私の教師にしたの?」


少し呆れた顔で聞いた私に、ハッと息を呑んだカトリーヌは、急速に雷雲を消滅させていった。そして少し、しょんぼりしたのだ。


「奥様ならば、大丈夫ではないかと思ったのです」


何、その私への信頼は。


「私の事を知ったのは、つい最近なのでしょ?私の事は何も知らないのに、どうしてそう思ったの?」


カトリーヌは伏し目がちに私を見て、小さい声で言ったのだ。

「エルビスに話を聞きましたから」


エルビスかー!死霊かー!異世界の私かー!


「死霊にも惑わされず対抗できる意志をお持ちの奥様でしたら、あの男にも惑わされる事はないと思ったのです」


エルビスが話す異世界の私は、すごいものね。

しかし、エルビスはカトリーヌに、どれほど力強く語ったのだろうか。

最近、私の行く先々で、異世界の私が立ちはだかっている気がするのだけれど、これは、いつまで続くのだろうか・・・。


今後の事を考え、肩を落とした私を見たカトリーヌは、何かを勘違いしたのか慌てたように言い訳を始めた。


「大丈夫です、奥様。あの男を信用出来ないと言いましたが、教師としてはとても優秀なのです。私も昔の知り合いを通じて調べてみましたが、教えを受けた貴族達の間での評判は素晴らしいものでした」


ふんふん。チャラチャラ生きる為に真面目にも姑息にも働き続けるジョルジュの評判はさておき、カトリーヌの昔の知り合い捜査網は気になるところだ。


「カトリーヌの昔の知り合いは、バルバトル公爵家についてはどう言っているの?カトリーヌならもう調べたのでしょ?」


カトリーヌは迷うように目を揺らした。


「貴族の中での評判は良いのです。公爵夫妻は厳しくも信頼できる方々のようです。しかし、屋敷の中の事が、よく分からないのです。幾人かの知り合いを通じて、情報を集めてみたのですが、屋敷内の情報がほとんど漏れてこないのです。普通でしたら、元使用人やその家族から、愚痴や噂話が漏れ出すものなのですが、バルバトル公爵家は、そういったものが、ほぼないのです」


「それはどういう事なの?」


「・・・使用人達が主人を慕い、現状に満足していれば、悪い噂は流れません」


「それなら、バルバトル公爵家の方達は使用人達から慕われているという事なの?」


カトリーヌは困ったように私を見た。


「主人が厳しく、使用人達を監視し、酷い罰を与えるような場合も、怯えた使用人達から悪い噂は流れ辛くなるのです」


正反対じゃないの。


「バルバトル公爵家はどっちなの?」


「・・・分かりません」


うーん。なるほど。


「分かったわ。私も情報を集めてみるわ」


「誰から?どうやってですか?」

カトリーヌが驚いたように聞いてきた。


うふふ。口先が上手いのは、ジョルジュだけではないのだ。


「そうね。まずはバルバトル公爵家から送り込まれた人を見つけてみようかしら。きっとジョルジュだけじゃないはずよ」


机の上に並べた三枚の紙を眺めて、私は微笑んだのだ。



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