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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第2章 国王陛下と我が栄光のチルちゃん軍

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第19話 三枚の手紙

「いつも通りで宜しいのですか?」


朝食の席についた私の耳元で料理長が囁く声は、緊張のあまりか少し掠れていた。


「もちろんよ」


私はテーブルを挟んだ向こう側に立つ、雷のカトリーヌを見つめながら答えたのだ。


お互いの弱み(仕事場に隠された酒、その酒を勝手にラッパ飲み)を握り合い、私としては仲間になったつもりだけれど、カトリーヌはまだ私に気を許すつもりはないらしかった。


つんと顎を上げ、威圧感に満ちた表情で私を見つめている。


私は平気だし、私の後ろに控えている護衛のロザリーや、朝食前に合流した侍女のローズは、ただ静かに立っているのだけれど、それ以外の使用人達が、皆カタカタと震えていた。

カトリーヌの威圧は怖いらしい。


チルちゃん軍なんて、とっくにテーブルの下に駆け込んで、私の足元で誰よりも早く震えている。


カタカタカタカタ


そこら中からそんな音が聞こえる中、私はずっと考え続けていたのだ。


カトリーヌはまだ私を見つめている。

この覇権争いみたいな見つめ合いを、雷のカトリーヌの娘である、嵐のクロディーヌともやった覚えがある。

これが彼女達のやり方で、そういう事をやる一族なのかもしれない。


ということは、カトリーヌの孫であり、クロディーヌの娘である侍女のローズも、あの可愛い顔で、いずれはこの無言の威圧による覇権争いを誰かに仕掛けるのだろうか。


・・・。うん。やる。ローズならきっとやる。

もしかしたら、すでにもう誰かにやってるかもしれない。ルイスとかに。

うん。やっているわ。見た事がある気がする。


あれ?


もしかしたら、私もやられてる?

・・・うん。やられてるわ!

本気で怒っているローズに、静かにじっと見つめられた記憶がある。それも割と頻繁に。

その度に、涙をポロリとしている!


あれ?でも、それはどうしてだろう。


私は、雷のカトリーヌや嵐のクロディーヌの怒りや威圧を何とも思わないのに、ローズの本気の怒りが怖いと思うのは何故?


私がローズには絶対に嫌われたくないと思ってるから?

でも、どうして私はローズに嫌われたくないのだろうか。

私は誰に嫌われても平気なのに。好かれても嫌われてもどちらでも同じ事だと思ってるのに。


うーん。少し考えてみよう。


カトリーヌには嫌われても構わない。嫌われたくはないけれど、私を好きか嫌いかなんて、カトリーヌの心の中の事なんだから、カトリーヌが好きに決めればいいと思っている。

他の皆に対しても同じように思っている。


護衛で友達で弟子のルイスに嫌われたって私は平気よね。うん。全然平気。嫌われても何とかなる気がするし。


でも、旦那様には・・・絶対に嫌われたくない・・・。

ローズにもやっぱり嫌われたくない。


この差は何だろう。

愛情の差?

うーん。うーん。


カトリーヌの威圧を受けながら、もはや全く別の事について深く考え続ける私の前に、腰の引けた料理長達が、カタカタと震えながら料理を運び続けたのだった。




料理はいつも通り素晴らしかった。


粉砂糖のかかったいつもの山盛りドーナッツ、塔のように高く積み上げられたパンケーキ、甘く煮たリンゴ、美味しそうな焦げ目のついたソーセージと冷たいハム、美しく切り分けられた果物達。


テーブルの上に料理が次々に並べられていくと、威圧感に溢れたカトリーヌの瞳が、ほんの少し狼狽していた。


私の朝食について、報告は受けていたと思うけれど、やはり実際に見ると迫力が違うのだ。


「美味しそうね。いただくわ」

私は微笑み、ナイフとフォークを手にしたのだ。

指先では玉ちゃんがピカピカと答えてくれた。


私が食事を始め、ドーナッツの山が低くなり、パンケーキの塔が消え去っていくと、カトリーヌの、つんと上がっていた顎が少しだけ下がっていった。


でも、カトリーヌが崩れたのは、その顎先だけ。

私が、ペロン、と全て食べ終えても、カトリーヌはあの不機嫌な顔を保ったまま、私を見つめ続けたのだ。


さすがカトリーヌ!

他の人なら、唖然とするか、震え出すか、ともかく衝撃を受けるのに、カトリーヌは崩れなかった。

それでこそ嵐のカトリーヌ!


私は、食事にもカトリーヌにも、すっかり満足して立ち上がったのだ。


「食後のお茶はカトリーヌと飲みたいわ。二人きりで話したいこともあるのよ。部屋を用意してもらえるかしら。今すぐに」


先程まで闇に塗れていた三枚の紙は、私のポケットに入れてある。

カトリーヌには聞きたい事がたくさんあるのだ。



 ⭐︎



用意されたのは、庭園へと向かう大きな窓がある、こじんまりとした部屋だった。

壁に造られた飾り棚の上に、優美な花が描かれた紅茶のカップが飾られていた。


窓を開ければ、気持ちの良い風が入って来るだろうけれど、窓はぴったりと閉じておいた。

話し合いを誰にも邪魔されたくなかったからだ。

侍女のローズには遠慮してもらったし、護衛のロザリーは閉じた扉の向こう側にいる。


窓の近くに置かれた小さめの丸テーブルの上には、二人分の紅茶と、山盛りのクッキーが用意されていた。


私は、にこやかに席に着いたのだ。


ふふふ。良かった。

朝食で作った魔力は、もうすでにチルちゃん軍に吸い取られていた。

チルちゃん軍は、怖くて震えながらも、魔力だけはきっちりと吸っていくのだ。


紅茶を飲み、クッキーを齧ると、魔力がじんわりと満ちてくるのを感じた。


お腹がいっぱいになったチルちゃん達は、すでに窓際でお昼寝を始めていた。

カトリーヌの威圧感が減ったせいで、寛ぐ気になったのだと思う。

でも、まだ少し怖いのか、カトリーヌの視線から遠い場所で、ぎゅっと固まって眠っていた。


雷のカトリーヌは大人しく席に着いたのだけれど、紅茶を一口飲んだだけで、後は私を見つめていた。

こうやって見つめるのが、カトリーヌの一族の戦い方なのかもしれない。


私が紅茶のカップを横に退け、ポケットから取り出した三枚の紙をテーブルに並べていくのを、カトリーヌは何も言わず見つめていた。


三枚の紙に書かれた文字を素早く読み取りながら、「それで?」と、カトリーヌに問いかけた。


多くを語らず、ボロは出さず、自ら何かを自白させる作戦だった。

雷に挑むのだから、私だってちゃんと作戦を立てるのだ。


「そちらの手紙の事で、ご相談するべきか迷っておりました。結局は些細な事だと思い、ご相談しなかったのですが」


カトリーヌは、少し固い声で言い訳をした。


「それで?」と、私は、また、なんでも知っている顔をして問いかけた。

こういうハッタリが私はとても上手いのだ。ふふふん。


「どれだけ考えても、私には分からなかったのです」と、カトリーヌはポツリと言った。


「そちらの手紙の内容におかしい事はありません。差出人も、私が昔から知る人達からです。何もおかしな事などないはずなのに、それを読んでいると不安な気持ちになったのです。それが何故なのか、何度読み返しても分からないのです」


ふんふん。それは、きっとこの手紙がたっぷりと闇に塗れていたからね。

闇に触れると、人は不機嫌にもなるし、不安にもなるのだ。


でもやはり謎はある。

この差出人達は、故意に闇付きの手紙を送りつけてきたのだろうか。それとも差出人の側に、闇がたっぷりあったせいで、手紙に偶然、闇が付いてしまっただけなのだろうか。

どっちだろう。


「一枚ずつ考えていきましょう」

私は最もらしい事を言いながら、右端の一枚を指差した。


「まず、これは?誰からの手紙かしら」


「以前、こちらで働いていた男からの問い合わせです。公爵様の呪いが消えたのを知り、それならば、またこちらで働きたいと言っております」


ふんふん。なるほど。


「では、これは?」

真ん中の一枚を指差した。


「そちらは、シモーヌ様からの手紙です。前公爵夫人のお姉様です。現在は侯爵家に嫁がれ、社交界にも詳しい方です。舞踏会の事など助言をいただきたいと、こちらから連絡を取ったところ、承諾のお返事下さりました」


ふむふむ。旦那様の叔母様が闇に塗れた手紙を送ってきたのね。


「最後のこちらは?」

左端の一枚を指差した。他の手紙に比べ、明らかに上質な紙だった。


「そちらは推薦状です。奥様の教師を募集したところ、この者が最適であると・・・・」


カトリーヌは何か言い淀んだ。


私は手紙を読んで微笑んだ。


推薦された教師の名は、すでに私の流行の教師として通っている、ジョルジュ・モロー子爵だった。


ふふふ。

闇に塗れた推薦状に名前が書かれるなんて、いかにも我が友ジョルジュらしい。


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