第17話 共謀者
今日は少し短めです
私は困り果てていた。
空腹感に気を失いそうだ。
飴玉を持ってくればよかった。
玉ちゃん、初めてだからって、魔力を一気に使いすぎ!
やめて、チルちゃん軍!私の前に並ばないで!
並んでも、あげる魔力がもうないの。
どうしよう。
早く魔力を作らなければ。
ここには何もないの?
角砂糖でもいいから、何か?
「お、奥様?」
雷のカトリーヌが崩れ落ちそうな私の体を支えてくれようとしている。
でも、カトリーヌの華奢な腕では、私を支えきれない。
必死になって机を掴むと、机が大きく揺れたのだ。
その時、何か甘い匂いを感じた気がした。
何かある!
甘い物!
最後の気力を振り絞り、そちらの方へと手を伸ばす。
「奥様!?」
机のすぐ向こう側の棚。雑に置かれた紙で覆われたその奥。
手を伸ばし、紙を散らし、更にその奥に手を入れると、冷たい物が手に触れた。
迷わずそれを握りしめ、引き出した。
「奥様!それは!」
瓶だ。リキュール?とても甘い匂いがする。ああ、美味しそうな匂い。たまらない。
蓋を開け、そのまま口へと。
「奥様!!!!!!」
カトリーヌの細い腕が、私を静止しようとしているけれど、そんな事は構わない。私の方が強いのだ。
甘い。
瓶の中から流れ落ちる液体は、喉に絡まるような、ねっとりとした果実の味。
うっとりと飲み干すと、燃えるようにお腹が熱い。
すぐに、全身に強い酔いを感じたけれど、それも一瞬の事で、全て魔力に変換された。
助かった。
空腹感がおさまったし、崩れ落ちそうな感じもない。
魔力が完全に満ちたわけではないけれど、倒れない程度には満たされた。
良かった、良かった。
めでたし、めでたし。
結果に満足した私は、にこやかに酒瓶を机に置き、隣を見たのだ。
そこには、信じられないほど大きく目を見開いて私を凝視する、雷のカトリーヌがいた。
・・・・あ。
と思った。
酒瓶からそのまま一気に飲み干してしまった。
はしたない?
怒られる?
しかしカトリーヌは怒りもせず、私を凝視しているだけなのだ。
カトリーヌの顔には恐怖があった。
どうして?
考えて、やっと気がついた。
この巧妙に隠されていたお酒の持ち主は、もしかして?
厳格なカトリーヌがまさか?
私達はお互いの弱みを握り合いながら、息を詰めて見つめ合った。
しかし、その時、扉を叩く音がしたのだ。
コンコン
カトリーヌが飛び上がった。
コンコン
私達は扉を見た。
扉は閉じられていたが、その扉の向こうから、エルビスの不安げな声がした。
「あの、奥様?カトリーヌ。何かありましたか?大丈夫ですか?隣の部屋にいたのですが、何やら大きな物音と悲鳴が聞こえた気がしたのですが」
「あ」とカトリーヌが掠れた声を上げた後、机に置かれたお酒の瓶を見た。
「開けますよ」と、遠慮がちなエルビスの声が聞こえ、扉がゆっくりと開いていく。
カトリーヌは悲痛な表情で酒瓶を見ている。
きっとエルビスに見られたくないのだ。
私だって、この酒瓶に口をつけて一気飲みしたことを秘密にしたい。
私は扉が開き切る前に、素早く背中の後ろに、酒瓶を隠したのだ。
カトリーヌが息を飲む気配がした。
「あの、大丈夫ですか?」
開いた扉の向こうから、不安げなエルビスが顔を覗かせた。
私はにこやかに言ったのだ。
「大丈夫よ、エルビス。私が椅子に躓いちゃったの。テーブルが倒れそうになってびっくりしたわ。ちょっと散らかっちゃったけど、カトリーヌが片付けてくれるから大丈夫よ。ね、カトリーヌ」
カトリーヌは驚いたように大きく息を吸ったが、すぐさま厳格なカトリーヌの顔になった。
「ええ。大丈夫です、ちょうど探したい資料もあったので、私が片付けます」
動揺を感じさせない声でそう言い切ると、酒瓶を完全に隠す為なのか、私の隣にピタリと並んだ。
「そ、そうですか。わかりました。しかし、短い時間で、随分、仲良くなったのですね」
後ろが見えないように、ピッタリと寄り添う私達を、エルビスは戸惑い見つめてきた。
「ええ。話しているうちに、仲良くなったのよ。私達、少し似てるところがあるのよ。ね、カトリーヌ」
「はい。奥様のおっしゃる通りでございます」
そして私達は微笑みあった。
私達は共謀者になったのだ。
つまりは仲間になったのだ。
エルビスが立ち去った後、カトリーヌが思い詰めた様子で私に言った。
「あの、奥様。お話したい事があります」
きっと、秘密を話してくれるのだ。
絶対に聞かなくてはいけない重要な話に違いない。
でも私は、にこやかに言ったのだ。
「話は聞かせてもらうわ。でも朝食の後でいいかしら」
「朝食の、後、で、ございますか?」
カトリーヌは唖然とした顔をして私を見るけれど、絶対に譲れない条件なのだ。
私の前にはチルちゃん軍が列を作って並んでいる。
すでに一人目に魔力をあげている。
ぐんぐん魔力が吸い取られている。
部屋中に私のお腹が鳴る音が響き渡っている。
だから早く、私に朝食を!
たっぷりと。
以前から憧れていた短編を書いてみました。
『可愛い女の子を誑かすだけのお話』
兄が妹を親友にたぶらかさせるだけの簡単なお話です。
良かったら読んでみてください。
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