第11話 乱舞
所用が重なり、なかなか小説を書く時間が取れず、遅れてしまいました!
ピクニックから帰ると、「少し疲れたから休むわ」と、部屋で一人きりになった。
私が一人きりということは、つまり、私とチルちゃん軍と光の玉だけになったということだ。
正確な数で言うと、私が一人で、チルちゃん軍が十人で、光の玉が一玉だ。
私の一人きりは、いっぱいいるのだ。
「協定を結びましょう」
私はピクニックから戻る間、ずっと考え続けていた事を提案した。
「チルチル?」
チルちゃん達は不思議そうに私を見上げ、光の玉はピカピカした。
「私はね、みんなと仲良く楽しく生きていきたいの。その為には、どうすればいいかを決めましょう」
チルちゃん達は、よく分からないながらも嬉しそうな顔をした。『仲良く楽しく』で嬉しくなったのだと思う。皆、頬が桃色に染まり、とてもかわいい。
光の玉もピカピカだ。
「まずは私ね。私はこの玉の存在を、受け入れるわ。もう邪魔に思うのもやめる。仲良くなる努力する。そうね、名前をつけるわ。・・・・玉ちゃんでどうかしら」
私の適当な名付けに、チルちゃん達は「チルチルチル!」と目を輝かせた。
玉ちゃんもピカピカしている。喜んでいるのだろうか。
チョロいのは良いことだ。
私は深く頷き、玉ちゃん付きの人差し指をビシリと立てたのだ。
そしてチョロい皆に語りかけた。
「それじゃあ、玉ちゃんで決まりね。私は玉ちゃんを大事にする事を約束する。だから、みんなも約束して欲しいの。大騒ぎしながら玉ちゃんを追いかけるのはやめて欲しいの。時々、玉ちゃんとの交流時間をとるから、その時に好きなだけ撫でてちょうだい。ね、これなら、みんな、心穏やかで楽しく生きられるでしょ。・・・・聞いてる?」
全然聞いてなかった。
チルちゃん達の目がずっと玉ちゃんを追いかけている。
全員口が開いている。
説得に力が入り、つい玉ちゃん付きの指を振ってしまったのが敗因か。
玉ちゃんごと腕をぐるぐる回してみせると、チルちゃん達が首をぐるぐる回しながら玉ちゃんを見続けていた。
・・・よし。
協定は諦めよう。
潔く決断した。
私の望みは、心穏やかな生活。協定など、望みを手に入れる為のただの方法で、方法など他にもあるのだ。
私はローズに用意させてあった箱を、そっと開け、「やっぱりこれね」と呟いた。
☆
「これは?」
手足の長い初老のダンス教師は、優雅な仕草で箱の中を覗き込んだ。
「羽根です」私は優雅に微笑んだ。
「ふむ。流行のものですね。踊る女性の髪に付けると美しい」
「はい。私も付けております」
白い十枚の羽根をひらひらと付けた頭を揺らすと、ダンス教師が「ほう」と言い、私の足元にびっしりといるチルちゃん軍が、羽根に向かって両手を差し出し「チルチルチル!」と叫んだのだ。
ふふふ。
チルちゃん軍は、羽根のひらひらの魅力に抗えないらしい。
もはや玉ちゃんどころではないのだ。
「先生の髪にも羽根を付けさせてください」
私は優雅にお願いした。
「私も、ですか?主に女性が付けるものだと伺っておりましたが」
初老のダンス教師は、戸惑ったように箱の中の羽根を見た。
全部派手な色に染められていた。
派手というか、ギラギラなのだ。
きっと、このシックな服を着たダンス教師の趣味には合わない。
でも、逃す気はなかった。
私はまた優雅に微笑んだ。
「流行に敏感な若い男性も付けているそうです。私もダンス中にどのように羽根が揺れるのかを研究したいと思っております。羽根の色の合わせ方も見たいのです。ダンスをしても落ちない羽根の付け方も試しております。先生。舞踏会の為です。協力してくださいますね」
ダンス教師は、ほんの少し黙り込んだ後、心の中を見せない優雅な笑みを浮かべ「もちろんです、奥様」と言った。
ふふふ。
言質は取った。
遠慮なくいかせてもらおう。
「では先生、その椅子にお座りください。ローズ、先生と助手の方に羽根を」
「はい。奥様」
大量の羽根を手にしたローズが、微笑みながらダンス教師の前に立った。
「そんなに付けるのですか?」
ダンス教師が後ずさる。
「はい。舞踏会の為です。ご協力をお願いいたします」と言ったローズの髪にも、羽根が十枚ついている。
「さ、先生。そちらの椅子へ」
ローズは更にダンス教師に迫っていった。
「私もですか」
ピアノの前に座った大人しげな若い女性が、小さな小さな声を上げた。
「もちろんよ」と、私が羽根を付けてあげた。
可愛い色の羽根ばかりを選んで付けた。
彼女は頬を赤く染め、小さな小さな声で「ありがとうございます」と言うと、微かに頭を振ってみせ、恥ずかしそうにポロンとピアノを鳴らしたのだ。
その後ろでチルちゃんが「チルチルチル!」と跳ねている。
護衛のロザリーにも十枚付けてある。
護衛のルイスには、三十枚付けてある。
我が敵、猫のパイにも一枚付けたのだけれど、全力で何処かへ走り去ってしまった。走り去った後に、羽根が一枚ひらひらと舞っていた。
チルちゃん達はすでに狂喜乱舞を初めており、全ての羽根を追いかけ、部屋中を走り回っていた。
楽しそうだ。
それに、かわいい。
それに、私はもう、大騒ぎをするチルちゃん達にびっしりと囲まれていないのだ。
これこそが私の望んだ心穏やかな生活だった。
玉ちゃん付きの指をピンと立て、
「これが分散というものよ」と語りかけると、玉ちゃんはピカピカと答えてくれた。
私達は上手くやっていけるかもしれない。
騒がしい部屋の中で、心穏やかに思ったのだ。
☆
もちろん、マナーの教師の髪にも付けた。
無表情なマナー教師の灰色のドレスに、濃い桃色に染めた羽根はよく合った。
「お似合いです」
「ありがとうございます」
マナー教師は表情を変えず、瞬きもせずにそう言った。
でも授業中、姿勢を確認する為に置かれた姿見をマナー教師が見る回数が、前回よりも、ほんの僅かに多かった。
私はそれに気づかないふりをした。
皆、好きに楽しめばいいのだ。
私もチルちゃん達も楽しんでいる。
貴族名鑑の暗記の間は、机の上にいるチルちゃん達に右手を差し出した。
チルちゃん達はきちんと順番に並び、一人づつ玉ちゃんを撫でながら、別の指から大人しく魔力を吸っていた。
チルちゃん達だって流石に騒ぎ疲れたのだ。
順番待ちの光の戦士達は、大人しく貴族名鑑を読んでいた。
でも、そんな落ち着いた時間は、流行の教師ジョルジュが来ると同時に終わったのだ。
☆
「まあ!エルサ様!素敵!早速、羽根を楽しんでいるのね!」
ジョルジュは、自分の髪が見えないほど大量に付けた羽根を、わさわさと揺らしながら、華やかに現れた。
チルちゃん軍が立ち上がった。
私はにこやかにジョルジュに言った。
「はい。今、色々と試しているのです」
「いいわあ。よくお似合いよ」
「ふふふ。ありがとうございます。ジョルジュも、今日は一段と華やかですね。羽根の使い方をよく見せてください。まあ、素晴らしいわ。ダンスを踊れば、皆の目が釘付けになるでしょうね。もしかして、本日はこの後、パーティーに出席されるのですか?」
「うふふ。違うのよ。こちらへ来る前に、お茶会にちょっと顔を出して来ただけよ」
「まあ。どちらのお茶会かお聞きしても?私もこれからお茶会に呼ばれる事もあると思うので、経験の少ない私に、どのようなものかお聞かせください。ジョルジュ先生」
「まあ。先生なんて、呼んでもらえるのね。嬉しいわ。でも、今日のお茶会は知り合いのお庭で開かれた、ささやかなものだったのよ」
嘘だ。
私は微笑みながら、そう思った。
チルちゃん軍は既に武器を取り出し、攻撃を始めている。
今日のジョルジュはたっぷりと闇を付けていたのだ。
濃く分厚い闇だった。
頭を飾る羽根の間にまでも闇が入り込んでいた。
きっと闇の濃い場所で、長く滞在したのだ。
前回はこんな闇を付けてこなかった。だからジョルジュは前回とは別の場所からここへ来たに違いない。
こんなに闇がある場所は何処なのだろう。
そして何故、その場所について私に秘密にするのだろうか。
私には言わない方がいいと判断したからか、ただの秘密主義者なのか。
それとも何か企んでいるのかしら?
「どうぞお座りになって」
私は微笑みながら、ジョルジュに言った。
「お話を聞かせてください」
お茶の用意がしてあるテーブルへと促すように右手を伸ばすと、右手の指先にいる玉ちゃんが警戒するようにピカピカと光った。
大丈夫よ、玉ちゃん。
闇はチルちゃん軍が消し去ってくれる。
私はマリー仕込みの話術で、ジョルジュから何処まで話を引き出せるのか、玉ちゃんにも見てもらわなくては。




