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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第2章 国王陛下と我が栄光のチルちゃん軍

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第10話 ドーナッツと私の間に

光の玉を見つめていると、幼い頃の苛立ちの日々を思い出す。

あの頃にも付いていた、私以外には見えないし触れない光る玉。


邪魔だった。


どうにかしてこれを取りたいと、幼いながらに頭を悩ませていた。


そっと触ると柔らかいのに、引っ張っると途端に固くなる謎の玉。

それでも、「ふんっ!」「ふんっ!」と引っ張り続けた幼い私。

育ての親マリーの子供達に、「ねえねえ、エルサちゃんはどうしていつも指を引っ張ってるの?」と尋ねられた、あの日々。


全然楽しくない思い出だ。


幼い私は、光の玉を取るために、他にも色々やってみたのだ。

木の枝で叩いてみても、指が痛くなっただけだった。

水にしばらく漬けてみると、キラキラと光って綺麗だった。

お湯にもつけてみたら、火傷をして、育ての親マリーに怒られた。

マリーに怒られたのは、後にも先にもあの時だけだ。光の玉のせいなのだ。


炙ってみようともしたら、マリーの夫に見つかった。

いつも穏やかに微笑み、滅多に口を開く事のないマリーの夫は、慌てて私の手を掴むと、「がっ!」と叫んだのだ。

『が』?

『ば』なら馬鹿だし、『だ』なら駄目と言おうとしたのだ。

でも、『が』?

『が』って何?何を言おうとしたの?

幼い私の心を悩ます、解けない謎を増やしただけだった。


そして今、光の玉を見つめていると、忘れていたはずのあの頃の怒りがふつふつと蘇ってくる。


でも、チルちゃん達は歓喜の表情で光の玉に手を伸ばし、「チルチルチル!」「チルチルチル!」と、叫んでいた。

光の玉を差し出せば、うっとりした顔で撫でまわし、愛しげに頬を擦り付け、優しげな声で「チルチルー?」と何事か話しかけている。

チルちゃん達には見えるし触れるらしい。


光の玉に群がるチルちゃん達は可愛いかった。けれど何か腹立たしい。


そういえば、以前の光の玉は、チルちゃんだったのだ。

私が一歳にもならない頃に、光の泉で私の指先にしがみついてきて、私が五歳になった頃に、花が咲くように開き、チルちゃんとなったのだ。

すると、この光の玉からも似たようなのが出てくるのだろうか。

光の戦士が?

五年後に?

えー。

また、五年もこれを付けなくちゃいけないの・・・・?

えー!


思わず光の玉をチルちゃん達から引き剥がし、元の泉に漬けた。

そしてまたぐるぐる回した。


きっとこの呪われていた泉は、チルちゃんの出身地と同じ、光の泉だったのだ。

オーフェリアは光の泉から神秘の力か何かを吸い上げて、長々と公爵家を呪っていたのだろう。

そして呪いが消えた今、泉は光の玉を産み出したに違いない。


なるほど、光の泉の復活も、光の玉の出現も喜ばしい事だ。

お祝いを言おう。

おめでとう。

本当におめでとう。

でも、うちにはもう十人も光の戦士がいるから。

これ以上はもういいから。

さあ、元いた場所にお帰りなさい。

さあ!

帰りなさいって!


「お、おい、奥様。急に何やってんだよ」

「チルチルチル!」


戸惑う弟子ルイスの声も、泣き叫ぶチルちゃん達の声も無視して、水飛沫を上げながら泉をかき回していると、光の玉がぎゅっと固くなり、私の指に固くしがみ付いてくるのを感じた。

くーっ!帰らない気ね!


「奥様?どうしましたか?濡れているではありませんか。おやめください奥様!」


侍女ローズに止められ、渋々やめた。


慌てて私の濡れた袖を乾いた布で拭くローズ。

その濡れた袖の先にある私の手には、まだ光の玉が付いているのだ。


「ねえ、ローズ。私の指に何か付いている?」

「奥様の指にですか?何も付いていませんが」

ローズは光の玉を通り越し、私の指にそっと触れた。

見えていないし、触れないのだ。


その光の玉に、またチルちゃん達が「チルチルー?」と群がっていた。

ローズの指は、チルちゃん達も通り越し、ただ私の指だけを触っていた。


 ☆


楽しいピクニック。

眉間に皺を寄せながら、ドーナッツを食べた。


「奥様、どうなさったのですか?今日のドーナッツがあまり美味しくないのですか?」

「そんな事ないわ、ローズ。ドーナッツは今日も最高に美味しいわ」


本当に美味しかったのだ。

今日のドーナッツは穴の空いていない柔らかいドーナッツで、中には、料理長お手製のイチゴジャムがたっぷり入っていた。

ごろりとしたイチゴの粒がまだ残っているイチゴのジャムだ。

一口食べれば、とろりと甘いイチゴジャムが口の中いっぱいに広がって、幸せに包まれる。

間違いなく、最高のドーナッツだった。

ありがとう料理長!


でも、私はその最高のドーナッツを、眉間に皺を寄せ食べたのだ。


だって、この素晴らしいドーナッツを手に取り、いつものように、うっとりと見つめようとしても、まず最初に目に入ってくるのは、私の右手の人差し指に輝く光の玉なのだ。

私はドーナッツを見つめたいのに、光の玉は、まるで見られている事を意識したようにキラキラと輝くのだ。


すごく邪魔だ。


左手だけで食べようとすると、視界から外すように下ろした右手に、チルちゃん軍総勢十名が群がり「チルチルー?」「チルチルチル!」と騒ぐのだ。


やっぱり邪魔だ。


では、ドーナッツの味に集中しようと目を閉じて、右手に持ったドーナッツを齧ろうとすると、邪魔な位置に飛び出ている光の玉まで齧りかけてしまうのだ。

その度に、私を取り囲んだチルちゃん軍が、「チルチルチル!」と抗議の声を上げ始めるのだ。


本当に邪魔だ。


この邪魔な光の玉は、深い愛情と堅い絆で結ばれた私とドーナッツの間に、これからもずっと入り込んでくる気だろうか。



「指先がどうかしたのですか?奥様?」


心配げに声をかけてくるローズの方を見もせずに、指先を睨みつけ、「大丈夫よ。なんでもないわ」と言う私。


でもその時、私の横で、何かが「にゃ」と鳴いたのだ。

何かがって、もちろん我が敵、猫のパイだ。

その辺で好きに遊んでいたはずなのに、いつの間にか私の横に立ち、神妙な顔つきで私の指先を見つめている。


あなたにも見えるのね!我が敵、いいえ、チルちゃん軍自由隊員、猫のパイ!


チルちゃん達が、何事かを説明するように、自由隊員に向かって「チルチルー」「チルチルチル」と語りかけている。

でも自由隊員はチルちゃん達など見ようともせず、私に前足をかけ、光の玉を覗き込んだ。

そしてクンクンと熱心に匂いを嗅ぎ始めた。

光の玉の輪郭に沿って、自由隊員の鼻が動いていく。


「どうしたの、パイちゃん。汚れた足で奥様のお洋服を踏んではダメよ」


ローズが慌てて猫のパイを退けようとしたけれど、「いいのよ、ローズ」と私は寛大な奥様の微笑みでローズを止めたのだ。


猫のパイは時間をかけ、念入りに匂いを嗅いだ後、ゆっくりと前足を下ろし、私の横に座った。


猫のパイがこんなに私の近くで座ったのは初めてだった。

訝しげに光の玉を見つめ続けている。


シャー!を繰り出さないのだから、きっと、この光の玉は、猫のパイにとっても敵ではないのだ。

やはり新しい光の戦士?


「奥様・・・・。どうされたのですか?」


考えていると、また心配げにローズが声をかけてきた。


「なんでもないわ。ちょっと指先が痛んだだけ」

「まあ!ではすぐ手当いたしましょう!」

「もう大丈夫よ。それよりナイフとフォークを出してちょうだい。ドーナッツを食べるから」


光の玉付きの右手でナイフを持ち、怒りと共にドーナッツを切り分け、左手に持ったフォークで、穏やかにドーナッツを口に運んだ。


料理長のドーナッツは、いつだって美味しい。


でも、何か違う。

ドーナッツは手に持って食べたいのだ。


私の憤りに気づかないローズは、

「ドーナッツもそのようにして食べれば、美しいですね」と、満足そうに微笑んだ。


慣れなくては。


1話分、約3000字を使って、延々と光の玉に対する文句を言い続けた主人公エルサ。

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