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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第2章 国王陛下と我が栄光のチルちゃん軍

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第8話 頑張ってみようかな

翌朝になっても旦那様は帰ってこなかった。


しばらく王宮に留まるが心配しないで欲しいという、旦那様からの短い手紙だけが届いた。


ソファーに座り、しょんぼりと手紙を眺めていると、近づいてきた侍女のローズが言ったのだ。


「奥様。ピクニックに行きましょう」


「ピクニック?」しょんぼりしたままローズに目を向けたけれど、一緒にしょんぼりしていたはずのチルちゃん達は、たちまち「チルチルチル!」と色めき出した。


「はい。奥様。お庭でピクニックをいたしましょう。教師達が来るのは午後からです。午前ならピクニックに行けます。以前は毎日のようにピクニックに出かけていたではありませんか。ね。奥様。行きましょう、ピクニックに!バスケットを五つ用意いたします」


「バスケットを五つ・・・」

少し心が浮き立った。


「料理長にドーナッツを用意するように伝えます」

「ドーナッツ・・・!」

もっと心が浮き立った。


「たっぷりドーナッツを用意するように伝えます」

「たっぷりドーナッツ!!」

思わず立ち上がった私に、瞳を輝かせたローズが言ったのだ。


「行きましょう。ピクニックに!」

「行くわ!ピクニックに!」

力強く宣言すると、チルちゃん達も一斉に歓声を上げたのだ。

「チルチルチル!」


途端にローズが微笑んだ。

「奥様が元気になって良かったです。料理長に急いでバスケットの準備をするようにと申し付けて参ります」

可愛いローズは、嬉しそうな足取りで部屋を出ていった。


すると、壁際で頼りがいのある護衛の顔をして立っていたルイスが、ローズが完全に部屋を出たのを確認してから言ったのだ。


「奥様って、チョロいよな」


チョロくて結構!


だってドーナッツで、ピクニックなのだ。

おまけに、私が元気がないのを心配してくれた健気で可愛いローズなのだ。

いくらでもチョロくもなってみせる!

それがローズ派の一番としての正しい在り方だと思う。


しかし、ローズ派の三番という下っ端の立場で、ローズ派一番の私に向かって生意気な事を言うルイスには、一言いっておかなくてはいけない。


私はルイスの目の前で両腕を組むと、つんと顎を上げ、得意気に言ったのだ。


「ローズはあなたの事を、あれほど心配してくれるかしら?」


悔しげに顔を歪めるルイス。

ふふん、私の勝ちね、とルイスを眺めていたけれど、

「師匠」と呼ばれて、はっ、となった。

そうだ。私はルイスの恋の師匠でもあったのだ。


「ローズの好みの男がどんな奴なのか聞いてくれたのか?」


すっかり忘れていた。


「忘れてたんだな、師匠」


師匠という言葉が、重く突き刺さる。

そうだ。師匠として弟子の為に頑張らねば。


「今日のピクニックの時に、聞き出すわ」


ローズはあまり恋とか好きな男性について語りたがらない。私もそれほど強くは聞き出してない。だって、ローズが嫌がる事はしたくないし。


しかし、本気を出した私にとって、ローズの好みの男性を聞き出すなど、容易い事だった。


「師匠に任せておきなさい」


力強く言った私に、弟子は疑い深い目を向けてきたのだ。


 ☆


バスケットの準備が出来る前に、待ちきれずローズとルイスを連れて庭に出た。

私より先に、「チルチルチル!」とはしゃぎながら飛び出していったチルちゃん達は、緑色の芝生を背に立っていた人の前で立ち止まった。


チルちゃん達が嬉しそうに見上げるその人を、誰かしら?と良く見れば、銀色の髪を後ろで一つにまとめ、騎士服を着て、腰に細身の剣を下げたその女性は、ロザリー!

エルビスと小鳥ちゃんの娘ロザリーが、微笑みながら立っていたのだ。


「ロザリー!来ていたの?会えて嬉しいわ!でも小鳥ちゃんは、いえ、シルビアは一緒じゃないの?」


ロザリーに会えたのは本当に嬉しい。

でも、私は小鳥ちゃんに会いたいと、ずっと思っていたのだ。

だって、可愛いから。とってもとっても可愛いから。


ああ、小鳥ちゃん、小鳥ちゃん。可愛い可愛い小鳥ちゃん。私がどれほどあなたに会いたいと思っているのか、あなたはまだ知らないのね、小鳥ちゃん。


自然と心に詩が溢れ出すほど、私は小鳥ちゃんに会いたいのだ。

そしてまた桃色の魅了をかけられたい。

たとえ、その後、冷たい水を何杯も飲まされ、煽がれ、体が冷やされようとも、私は小鳥ちゃんに会いたいのだ。


でも、ロザリーは、申し訳なさそうに微笑むと、

「お久しぶりです、奥様。しかし今日は母と一緒ではないのです」と言ったのだ・・・・。


「そ、そう。シルビアに会えないのは残念だけれど、ロザリーと会えたから十分よ」

私は強がってみせた。

「それでロザリーは、今日はどのようなご用事で?」


ロザリーは、騎士のような仕草で胸に手を当て、軽く頭を下げると、

「本日より、私も奥様の護衛に加わる事となりました」と言ったのだ。


そういえば、ロザリーは騎士の訓練所に通っていたと言っていた。

うちで働いてくれるのね!


「ロザリーが一緒にいてくれるなんて、心強いわ」

「奥様が王宮に行かれる時も、女の私でしたら、常に側にいて護衛が出来ます。必ず奥様をお守りしてみせます」


ロザリーは頼もしく言ったのだ。


 ☆


それからは、バスケット五つを運ぶ為の馬が二頭用意され、その馬を引いて歩く者も呼び寄せられた。


私が、あの呪われていた泉の近くでピクニックがしたいと言ったからだ。

「あそこまでバスケット持って行くなら馬に乗せて行った方がいい」と、経験で学んだルイスが主張したのだ。

呪いが消えた泉の辺りは、草も生え、ピクニックに最適な、気持ちの良い広場になっているらしい。


私はローズに「準備が終わるまでこちらでお待ちください」と日陰に置かれた椅子に座らされた。

ロザリーは「今後の為に」と、ローズを手伝いながら、色々と質問しているようだった。

チルちゃん達は馬を見物しに行ってしまった。


私は護衛として残ったルイスに話しかけたのだ。


「ねえ、ねえ、ルイス。ロザリーも私の護衛をしてくれるなら、これからはルイスとロザリーが二人で私の護衛をしてくれるの?」


ルイスは何故か面白くなさそうに眉間に皺を寄せた。


「当分はな。でも、この先、もっと護衛を増やしていく予定なんだ。今までは公爵様も奥様も公爵邸の中でいたけど、これからは王宮とか出かける事も多くなるだろ。護衛はもっと数が必要だ。エルビスは公爵家の騎士団を復活させるって言ってた」


「復活?公爵家には以前は騎士団があったの?」


「ああ、あったらしいよ。でも、公爵様が呪われてからは呪いに耐性のない騎士がどんどん抜けていって、最後には解体したんだってさ。でも、呪いも消えたし、前みたいな騎士団を結成するって言ってた。まずは領内から騎士を募集しているらしいけど、今いる護衛も鍛え直して騎士にするって言ってた」


「え?それじゃあ、ルイスも騎士になるの?」


ルイスはため息をついた。

「ああ。なるみたいだな。ロザリーも来たし、交代で奥様の護衛と訓練をやるんだ。めちゃめちゃキツい訓練だって言ってた」


「言ってたって、誰が?」


「ミシェルだよ。エルビスの娘のロザリーと婚約してる奴だよ。元騎士で銀色の眼鏡かけて綺麗な顔した、ガタイのいいあいつ。あいつが騎士団長になるんだ。あいつが一番強くて、一番頭いいしな。他所の騎士団にいても、あいつはいずれ騎士団長になってた男だってエルビスが言ってた」


「なるほどー」


呪いへの耐性が強い者を基準に集められたらしい公爵家の護衛は、寄せ集め感があったけれど、騎士の家系に生まれ、王宮騎士団にも籍を置いていた事のあるミシェルだけは、正統派騎士の風情があった。

ミシェルが騎士団長なら、納得だ。


何より、ミシェルは求婚の言葉が『この花のように美しいあなたと、この後の人生を共にしたいと思っております。どうか、私の願いを叶えてくれませんか』なのだ!


そんな素敵な求婚の言葉を持つ人が、騎士団長となって公爵家を守ってくれるなんて、心から嬉しい。


「ミシェルは今、ニコラスと一緒に公爵様の護衛で、王宮に行ってんだよ。他にも何人か付いていってる」


ニコラスは、以前四日間だけ護衛をしてくれた事がある。

可愛い三人の子供がいて、奥さんが作ってくれる豆スープが好きな人だ。

求婚の言葉は「絶対に幸せにする。だから結婚してください」

求婚の言葉と同じ、真っ直ぐな人柄の二十歳だった。


「ミシェルとニコラス達が護衛をしてくれているなら、旦那様も安心ね」


「まあな。でも全然護衛の数が足らないんだ。もっと強い奴が必要なんだ。だから騎士団は作る必要がある。分かるんだけどさ」


ルイスはまたため息をつき、黙り込んだ。


何をさっきから、そんなにため息を付いているんだろう。


「分かるんだけど、何?」と尋ねると、ルイスは向こうの方で忙しく働くローズに目をやり、私に小声で言ったのだ。


「訓練だりーーーー!」


なるほど!


「ミシェルが王宮から帰ってきたら、本格的な訓練を始めるって言われたんだ。本格的な訓練ってなんだよ。俺、そんな訓練受けた事ないし。騎士学校も途中でやめたし。本格的訓練、マジだりーし。俺、騎士とか目指してねーし。もう逃げようかなって、一瞬思ったんだけどさ」


「ふんふん。思ったんだけど、何?」


「思ったんだけど、ローズがさ。珍しく俺に話しかけてくれてさ。『ルイスも騎士になるのね』って可愛い顔で言うからさ。嬉しそうに言うからさ。それでさ。俺さ」


ほーほー!

「チルチル!」


チルチル?

遠くで馬の見物をしていたはずのチルちゃん軍が、光の妖精が持つ未知の能力で恋バナの気配を感じたのか、気がつけば私とルイスは、チルちゃん軍にびっしりと取り囲まれていた。

いつの間に!?


私の戸惑いなど、目に入っていない恋する男ルイスは、ローズの姿を見ながら照れくさそうに言ったのだ。


「俺、頑張ってみようかなって、思ってさ」


「チルチルチル!」

もはや私を取り残し、盛り上がるチルちゃん軍。

やはりチルちゃん軍見習い隊員であるルイスの恋は応援するつもりらしい。


私も弟子であるルイスの為に頑張らねば。

「分かったわ。ルイスの為に、必ずローズの好みの男性を聞き出してみせるから!」

「チルチルチル!」


私達は盛り上がったのだ。




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