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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第2章 国王陛下と我が栄光のチルちゃん軍

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第7話 国王陛下からの呼び出し

エルビスに導かれた部屋に入ると、掃き出し窓に向かい一人立つ、旦那様の整った横顔が見えた。


チルちゃん達は私の後ろから部屋に駆け込んでくると、珍しそうに部屋中を見渡した。

部屋の中には大勢の人達がいた。使用人や見慣れぬ商人達だ。皆、荷物を手に持ち、焦った様子で動き続けていた。


止まっているのは、旦那様だけだった。

騒がしい部屋の中で、旦那様のまわりだけが、違う世界のように静かに見えた。


今日もまた黒い服を着ている。でも、見慣れない豪華な服だ。

商人風の男女が、旦那様の後ろから何事か話しかけ、頷いた旦那様に手慣れた様子で黒いマントを着けた。

旦那様は、公爵様らしい冷たい表情をして立っていた。まるで見知らぬ人みたいに見えた。


でも不意に旦那様が私の方を向いたのだ。

そして氷が溶けるように微笑んだ。

「おいで。エルサ」

私に向かって腕を広げた。


小走りで旦那様の元へ行き、広げられた腕の中に収まると、「エルサ」と囁きながら、そっと抱きしめてくれた。

名前を呼ばれる度に嬉しくなった。

でも、旦那様の匂いがしない真新しい服に顔を寄せていると、別人に抱きついているような気がして、少し不安な気持ちになった。


「何かあったのですか?」

見上げると、旦那様が少し困った顔をして、微笑んでいた。


「ああ。まず、この部屋を出よう。ここは騒がし過ぎる」


旦那様は掃き出し窓を開け、テラスへ私と出ると、窓を閉めた。



テラスに置かれたソファーの上で、ぴったりと寄り添って座った。

それでも何か不安になり、旦那様の手を握った。


「エルサ。そんなに不安そうな顔をしなくてもいい。私が王宮に呼ばれただけだ。国王陛下がすぐに私に会いたいのだそうだ。何か話があるらしい」


「今すぐ行くのですか?」

「ああ。準備が整い次第、すぐ行く」


そんなに急に呼び出されるものなのだろうか。

自分の事なら、不安になったりしないのに、旦那様の事だと私は駄目になるみたいだ。

不安で、新しい服の匂いがする旦那様にしがみついた。この服から旦那様の匂いがしてくるまで、ずっとこうしていたかった。何処にも行って欲しくなかった。


「陛下と話をしたらすぐ帰れる。王宮はここから馬車で一時間ほどだ。この屋敷の外へ出るのは二十年ぶりだが」と言って、旦那様は苦笑した。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。王宮には生者に会いに行くのだ。話も出来ない死霊とは違う。呪われていた日々を考えれば、あれ以上の苦労も思い浮かばない。それに必要なものはエルビスがあらかじめ準備していてくれた。このマントも、急いで仕上げさせたのだ」


旦那様はそう言って、私の頬を撫でた。

「だから大丈夫だ。エルサ。そんな顔をしないでくれ」


「国王陛下のお話の内容は、まだ分からないのですね」

「ああ。何かが起こったのかもしれない。その相談だろう。陛下はこれまでも何かがあると手紙を寄越していた。私の呪いが消えたので、直接呼び出す事にしたのだろう。それに私も陛下にお聞きしたい事がある。私を呪ったオーフェリアの事だ」


「オーフェリアの事?」

泉の中から公爵家を呪い続けていたオーフェリア。

オーフェリアと言われると、最初見た老婆の姿よりも、夢見るような緑色の瞳をした美しい女性の姿が頭の中に浮かんできた。


「ああ。あれから我が家に残された記録を調べたのだ。はっきりとした事は分からないが、もしかすると王家も関係しているかもしれない。それについて陛下にもお聞きしたい」

「王家とオーフェリア?どのような関係が?」

「まだ不確かな事だ。陛下にお聞きしてから、おまえにも話そう。今は時間がない」


旦那様はそう言って、何か思いついたような悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

「もうすぐエルビスが呼びに来る。そうすれば私は行かなくてはいけない。それまで、おまえとこうして過ごしたい」


そして、旦那様がゆっくりと顔を近づけてきたところで「公爵様!準備が整いました!どちらにいらっしゃいますか!?」と叫ぶエルビスの声が聞こえた。


旦那様は苦笑した。

「間の悪い奴め。しかし、あれは大切にしなければいけない男だ。大人しく行くとしよう」


旦那様はそう言って離れかけた。

でも、キスが無かったと、がっかりとした私の顔を見て、ふと微笑むと、強く抱きしめ長いキスをしてくれた。


「公爵様!」

エルビスの叫び声が二回聞こえた後、やっと私を離すと「では行くとしよう」と、どこか満足げに言ったのだ。


立ち上がった旦那様に差し出された手を握り、立ち上がると、チルちゃん達が、窓のう向こう側にびっしりと張り付き、頬を染めながらこちらを見ていた。


うっ。と思った。


 ☆


旦那様が行ってしまった。

もう何もやる気が起きない。

でも、ドレスの採寸が待っていた。


舞踏会は二ヶ月後なのだ。

旦那様は先ほど急いで採寸を終えたのだそうだ。


「お会いできて嬉しいですわ。奥様。では早速採寸を始めましょう」


大金を積んで依頼したという、王都で一番人気の仕立て屋『イレーヌ』の店主イレーヌは、動きやすそうな洒落たデザインのドレスを着て、結い上げた髪には鮮やかな色の羽根をつけていた。

連れてきている助手の女性たちも、皆、髪に羽根がついている。

流行教師の怪しいジョルジュの言った通り、本当に羽根は流行っているらしい。


助手の女性達が、採寸しながら立ったり座ったりすると、頭の羽根がひらひら揺れて綺麗だった。

なるほど。これは流行る。


「奥様なら、どのようなドレスでもお似合いになりますわ。でも、流行を抑えるのは大切な事です」

イレーヌが意味ありげに言った。

つまり私も羽根をつけろと言うことなのね。


「舞踏会では、つけてもいいわ」

普段からあんなひらひらしたものを付けたら、チルちゃん達がずっと私の頭を見つめて大騒ぎしてしまう。

今だって「チルチル!」と騒々しく叫びながら、皆の頭についた羽根に向かって手を伸ばして追いかけまわしているのだ。

毎日あんな目に遭いたくない。羽根の普段使いは断固としてお断りだ。


「承知いたしました。しかし、舞踏会には必ず付けていかれた方が良いと思います。この羽根飾りは王妃様が現在お気に入りだそうですので、付けていかなければ王家に対する叛意(はんい)を疑われるかもしれません」


「分かったわ。王家に対する叛意などありませんもの。舞踏会には羽根を付けて行きましょう」


私はにこやかにそう答えながらも、旦那様を急に呼び出したり、羽根をつけろと言ったりしている王家に、密かな叛意を抱いたのだった。マジで。



ドレスのデザインはイレーヌに任せてしまった。

どうせ詳しい事はよく分からないのだ。


イレーヌは「承知いたしました。奥様の信頼は裏切りませんわ」と、感極まったように言った後、鋭い目つきで私を隅々まで見つめると頷いた。


「決めましたわ。奥様の可憐さを全面に押し出していくデザインにいたしましょう」


イレーヌは目を閉じ、胸に両手を当て、語り出した。


「奥様のドレスには、奥様に相応しい可憐なレースを重ねて。美しく光沢のある絹で奥様の胸元を覆って。素敵。公爵様はもちろん、黒。高貴な黒。そしてそこに公爵様に相応しい金糸の刺繍を。ああ、美しく逞しい公爵様と美しく可憐な奥様。素晴らしわ。王宮に立つお二人の姿を想像しただけで、天上の音楽が聞こえてきそうで、私、もう!」


瞳を閉じ、感激のあまり清らかな涙を流しながら、天に向かって両手を上げたイレーヌの頭の羽根が、ひらひらと激しく揺れるので、チルちゃん達が大喜びで走り回っていた。


やっぱり羽根の普段使いは嫌だ。


 ☆


仕立て屋のイレーヌ達も帰り、私はぐったりとソファーに座り込んだ。

王宮から、旦那様が今夜は王宮で泊まるとの連絡があった。


すぐ帰ってくると言ったのに。


しょんぼりとした気持ちと、何かがあったのだろうかという不安でいっぱいになった。


「奥様。マッサージの準備が整いました」


マッサージ上手の侍女ニコルが迎えに来たけれど、私はとてもそんな気持ちになれず「今日はやめておくわ」と力なく言ったのだ。


「まあ奥様」


ニコルはソバカスの浮いた幼なげな顔を心配げに顰め、私の元へ駆け寄った。


「今のような気分の時こそ、マッサージが一番良いのです」


ニコルは私の手を取ると、もう片方の手で私の手の甲をさすった。

ムチムチとしたニコルの手で触られると、昨日の至高のマッサージを思い出した。

あれは気持ち良かった。


「さ、行きましょう」とニコルに手を引かれ、私は大人しくついて行った。


ニコルは今日も凄かった。

また今日もローズ派からニコル派に寝返りかけるくらいに凄かった。


そしてその夜は、旦那様の夢を見ながら、ぐっすりと眠ったのだ。





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