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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第2章 国王陛下と我が栄光のチルちゃん軍

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第2話 グイグイと

旦那様の塔に行くと、苦り切った顔をした旦那様に、「見せたいものがある」と、二階に通された。


二階のテーブルの上には、細い銀色の筒が置かれていた。筒の表面には、丸い複雑な模様がいくつか描かれている。いかにも、意味ありげな筒だった。

チルちゃん軍も、皆、テーブルをよじ登り、興味深げにその筒を眺めていた。筒の模様を指差して「チルチルチル」と何事かを話し合っている。


「それは何ですか?」

「国王陛下からの手紙だ」


旦那様はため息のように答えると、筒の端をくるくる回した。そこが蓋になっていたらしい。蓋を外すと中から、くるりと丸められた一枚の紙を取り出した。


「この筒は魔道具だ。国王陛下も同じ物を持ってる。あちらの筒に手紙を入れ、魔力を流せば、こちらの筒に直接手紙が届く。こちらからも同じように手紙が送れる。私が呪われるとすぐ、王宮の魔導士に依頼して造らせたらしい。手軽で便利だからだろうが、頻繁に手紙が送られてくる。いつもは相談や愚痴や日記のようなものが送られてくるのだが」


「今回は違うのですか?」


尋ねると手紙を渡された。


「読んでもいいのですか?」

「もちろんだ。エルサに関する内容でもある」

「私に関する?」

「ああ。私とエルサの結婚は、国王陛下の命令で行われたのだ。私たちが結婚した事も、その後、おまえが私の呪いを消してくれた事も、国王陛下には、この魔道具を通じて手紙でご報告させていただいた」

「なるほど。では、これは、その報告に対する返信なのですか?」

「ある意味そうだ。読んでみるといい」


読んでみた。


「・・・・旦那様」

「アレクシスだ」

「アレクシス。ここに舞踏会と書かれている気がするのですが」

「気のせいではない。書かれている。王家主催の舞踏会だ」


「もしかして、公爵夫妻を招待するとも書かれているのも気のせいではないのですか?」

「気のせいではない」

「・・・舞踏会というのは知識としてしか知らないのですが、もしかしてダンスをするあれですか?」

「それだ」

「一度も出席したことがありませんが」

「私も同じだ」

「ダンスは領地にいた頃に、サマンサ先生と少し踊った程度ですが」

「私は六歳で呪われて以来、一度も踊った事がない」

「キラキラとしたドレスを用意するのでしょうか?」

「私は何を着ればいいのかすら分からない」


私達は大きなため息をついた。


「何故国王陛下は、世間知らずの私達に、いきなりこのような難問を?」

「呪いが消えたのだから、久しぶりに会いたいのだそうだ。呪われる前は、仲が良かったからな。どうせ会うのならば、近々行われる王家主催の舞踏会で我々のお披露目をしたいという国王陛下のご好意だ」

「ご好意?」

「ご好意だ」

「嫌がらせではなく?」

「そのようなものではないない。貴族の集まる舞踏会で、我々を国王陛下自ら紹介し、皆に認めさせるつもりなのだろう。有り難いご好意だ。他にも思惑はあるのだろうが、大体のところはご好意だ」


「では、走った方がいいですか?」

「走ろう」


私達は塔から飛び出し、屋敷まで走った。

チルちゃん軍も、丸いほっぺを赤くして、一生懸命走って付いてくる。


急いで準備を始めなくては、絶対に間に合わない!


 ☆


「いつですか!?」

エルビスは悲鳴のような声をあげた。


「二ヶ月後と書かれている」

旦那様がエルビスに手紙を差し出した。


「二ヶ月!時間がありませんね。まずは、奥様と旦那様の衣装を揃えましょう。しかし、どの仕立て屋を呼べばいいのか。ああ!我々に必要なのは知識です。何が必要なのか知る者を探さなくては」


焦るエルビスの元に、ローズがいつになく慌てた様子で駆け寄った。


「家に帰る許可をください。母と祖母を呼んできます。二人とも、以前こちらで侍女長をしておりました。先代の公爵様と、先先代の公爵様のいらっしゃった頃の事を知っています」


エルビスは途端に顔を輝かせ、天に向かって両手を差し出し叫んだ。


「嵐のクロディーヌ!(いかずち)のカトリーヌ!」


「その二つ名を母と祖母の前で呼べば、どうなるのかお忘れですか」


低い声でローズに言われ、エルビスは途端に両手を胸の前に下ろし、祈るように組み合わせた。


「二人には言わないでくれ。お願いだ。二度と言わないから忘れてくれ。しかしすぐ呼んできてくれ。馬車を使っていい。丁重にお二人をお迎えしてくれ。助けが必要だと伝えてくれ。頼むローズ」


「はい!」


あの行儀作法に厳しいローズが廊下を走っていった!

これは本当の非常事態だ。

私は何をすればいいのだろう。


「お二人の教師もすぐに手配しましょう。ダンスと、作法と、教養と、ともかく必要なもの全てです」


「二ヶ月しかないのよ。そんなに一度に覚えられるかしら?」


エルビスの勢いに不安になり問いかけると、間髪入れず「覚えるのです」と言われた。

あまりの素早い返答に、瞬きをしてエルビスを見ると、「覚えるのです」と、瞬きもしない血走った目で繰り返された。


「ともかく、すぐに手配を。以前の執事や侍従長にも連絡をとります。誰か。連絡先を知る者を呼んでくれ。紙とペンも。書き留めておかなければ。協力してもらえる方には協力してもらい。それから、それから」


ぶつぶつと呟き始めたエルビスを置いて、私と旦那様は部屋を出た。


「大変な事になりそうですね」

「ああ」


旦那様が私を抱きしめた。


「こうしてエルサを抱きしめながら静かに暮らしたいと思っていたが、しばらくは無理のようだな」

「忙しくなりそうですものね」


私も旦那様をぎゅっと抱きしめ、目を閉じた。


「チルチルチル!」と騒がしい声が移動している。

またちょうど良い場所から見物するつもりなのだ。

チルちゃん軍には、見物場所を探す時には静かに移動するように言わなくては。


「時間がなくても、毎日、こうしましょう」

「そうだな」


優しげな声音に顔を上げると、微笑んでいた旦那様が、秘密でも告げるような小さな声で言ったのだ。


「では、今のうちにエルサに口付けておこう」


旦那様の綺麗な顔が、ゆっくりと近づいてくる。

幸せに目を閉じようとすると、バタンと扉が開き、エルビスが飛び出してきた。


「公爵様!シモーヌ様に助力を願いましょう」


「チルチルチル!」と邪魔されたチルちゃん軍の抗議の声がする。

でも、エルビスの目は、先程よりも血走っている。


「あ、ああ。叔母上か。私を心配して度々手紙をくださっていた。確かに、叔母上なら助けてくれるかもしれない」

「はい。それにシモーヌ様は、侯爵家に嫁がれ、現在の社交界も良くご存じのはずです。我々には情報が必要です。すぐ手紙を書いてください。すぐに」

「・・・分かった」


エルビスの勢いに押されるように離れて行こうとする旦那様の顔を、名残惜しく見上げていると、気がついたように旦那様の視線が落ちてきて、ふと笑い、頬を撫でられ、素早いキスをされた。


「また後で」


立ち去る旦那様の黒い後ろ姿を眺めていると、「奥様」と後ろから声をかけられた。

振り返れば、見覚えのある侍女たちが数人、緊張した面持ちで立っていた。


「先程、ローズから頼まれたのです。舞踏会まであと二ヶ月。すぐに準備を始めるようにと」

「そうね。でも、何をするの?」

「磨き上げましょう」


一人のふっくらとした侍女が、一歩前に進んできた。


ええと、この侍女の名前は確かニコル。三日ほど護衛をしてくれたダンの奥さんだ。確か、求婚の言葉は「あの月が沈むまで、何度だって言うよ。君を愛してる。結婚してくれ」


ニコルは、ソバカスのある少し幼なげな顔を、緊張の為か強張らせていた。


「公爵家には、長くご婦人がいらっしゃいませんでしたから、私達も初めてやらせていただくのですが、やり方は教わって知っております。精一杯、やらせていただきます。今、湯の用意をしております。磨き上げましょう」


ニコル達の気迫に押されるように、私が一歩下がると、ニコル達は二歩進んできた。


「今からやるの?」

「はい。これから毎日やらせていただきますが、明日からは仕立て屋や教師などが来て、奥様も忙しくなるでしょうから、明日以降は、ゆっくりとした時間は取れないかもしれません。ですから今日はたっぷりと、隅々までやらせていただきます」


「隅々まで?」

「はい」


後ずさっていないのに、ニコル達は三歩進んできた。

そして素早く取り囲まれた。


ニコルは、小さな子供にでもするように、私の手をとり、私に頷きかけながら手の甲を優しく叩いた。

もう片方の手も、別の侍女にとられた。また別の次女が私の背中に手を置いた。


「大丈夫です。お任せください。行きましょう」


ニコルは、力強く手を引いた。もう片方の手も別の侍女に引かれた。背中も押された。

グイグイと、グイグイと!


こうして私は否応なく、舞踏会の準備へと押し出されたのだった。



うーむ。今、気がついたんだけど、この調子で書いていくと、なかなか王様に会えない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 2章突入、嬉しい限りです。1章、幕間を通じて初期メン達に物凄く愛着がわきました。そして新たな登場人物への期待感。王様の登場は果たして、等々楽しみです。まわり道全肯定ですよ!
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