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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第1章 死神公爵と我が栄光のチルちゃん軍

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第45話 終わりと始まり

私は今、塔の扉の内側にいる。


以前は、外から「開けてください」と叫んでも開けてもらえなかった塔の内側に、旦那様と並んで立っている。


「では、行こう」と良い声で言い微笑んだ旦那様が扉を開けるのを、隣に立って眺めている。うふ。


初めての事ばかりなのだ。

何もかもが新鮮で嬉しい。


開いた扉の向こうからは、木々の香りがする風と、明るい日差しが入ってきた。

今日は本当に良い天気なのだ。


「チルチルチル!」「チルチルチル!」


チルちゃん軍が、後ろから踊り出て、先に駆けて行った。


私も歩き出そうとすると、旦那様が手を差し出してきた。

繋いでくれるのだろうか。

ドキドキしながら手を重ねると、旦那様も照れたように、ふっと笑った。


初めての事ばかりをしながら、私達はあの泉へ向かったのだ。


 ☆


「呪いが消えると、世界が美しく見えるのだな。この道も何度も通ったはずなのに、全てが美しい」


手を繋ぎ、私の隣で歩いていた旦那様が、辺りを見渡し呟いた。


訓練場になっているあの広場でも「ここも、こんなに美しい場所だっただろうか」と呟いていた。


辺りがこんなに美しいのは、もちろん我がチルちゃん軍のおかげだ。

オーフィリアの呪いがなくなったせいか、辺りに闇はほとんどなかったけれど、わずかに残っていた薄い闇も、先に走って行ったチルちゃん軍が消して回ったのだ。

栄光の我がチルちゃん軍に抜かりはないのだ。ふふん。

旦那様が見つめる景色に、闇はもうない。


「陛下から、また婚約者を送った、と手紙が来た時には、余計な事をと思ったものだが、今となっては感謝しかない」

泉の方へ向かう道を歩きながら、旦那様が言った。


「以前から陛下とは交流があったのですか?」


不思議に思って聞いてみた。


「呪われる以前には、何度もお会いしていたのだ。その頃、陛下はまだ王太子殿下で、私より五つ年上だった。会う度に、皆の目を盗み、二人で王宮中を走り回ったものだ。父には怒られたが、楽しかった。最後にお会いした時も、『また遊ぼう。約束だぞ』と、言われた。私は呪われ、約束は守れないままだが。手紙での交流は続いていたのだ」


「仲良しなのですね」


「ふふ。仲良しか。そうだな。そうなのかもしれない。しかし、怯えた娘たちを、婚約者にしろと次々に送り込んでくるのには、閉口した。何人かとは会ってみたが、皆、震えて泣いてた。混乱して『近づくな死神公爵め』と叫ぶ娘もいた。自殺未遂までする娘もいた。あの娘達には可哀想な事をした。娘達に非のない形をとり、帰したが」


そんな辛い思いをしても、まだ送られてきた令嬢達の事を思い遣っているのだ。

もっと早く呪いを消してあげたかった。


「もう私に婚約者を送らないでくれと陛下に手紙を書いたが、これで最後だ、この娘なら大丈夫だ、マリーが育てた娘だからと、送られてきたのが、エルサ、おまえだった」


「国王陛下が、マリーの事を知っていたのですか!?」

「昔の友人だそうだ」


マリーが国王陛下と友人!?と、一瞬驚きかけたけれど、よく考えてみれば、そう驚くことでもない気がした。

マリーがいつものように迂闊(うかつ)な行動をして、迂闊(うかつ)に国王陛下と出会い、迂闊(うかつ)に友達になったのだろう。

マリーなら、ありえる。


「納得しました。何故、陛下は旦那様の婚約相手に私を選んだのか、不思議だったのですが、マリーが関係していたのですね」

「納得するのか。マリーとは興味深い人物なのだな」

「はい。マリーのような人は、マリーしか知りません」

「いずれ会いたいものだ」

「落ち着いたら招待する約束をしています」


逃げ出したら招待はできないと思っていたけれど、私は逃げ出さず今もここにいる。

それならマリーを招待したい。


「歓迎しよう。おまえをおまえらしく育て上げたのは、マリーなのだろう。マリーにも心からの感謝を告げたい」


旦那様は、握っていた私の手を持ち上げ、手の甲にキスをすると、動揺する私の顔を見ながら、幸せそうに微笑んだ。


「陛下に婚約を持ちかけられた時、私はおまえの事を気の毒に、と思っていた。親の罪を責め立てられ、私との婚約を承知させられたのだろうと。どれほど憔悴した娘が送られてくるのだと思っていたのだが、おまえは少しも憔悴していなかった」


旦那様は、くすりと笑った。


「おまえが屋敷に着いた後、逃げ出す様子もなく、使用人達と楽しく暮らしていると報告が入った時には驚いた。初めて会った時も、真っ直ぐ私を見つめてきた」


「結婚式の時ですか?」


「そうだ。おまえは最初から不思議だった。引き返せと何度言っても、引き返さず進んできた。儀式とはいえ、口付けするのは可哀想だと、終わらせようとすると、省略するなと怒り出した。ふふふ。混乱したよ。私の呪いが消えてしまったのかと考えたほどだ」


「儀式でキスがあると聞いて、楽しみにしていたのです」

「呪われた私が相手なのにか?エルサ。おまえは、いつだって不思議だ」


頭に何か温かいものが落ちてきた。

顔を上げると、旦那様の顔が遠ざかっていくのが見えた。

私の頭にキスしたのだろうか。


今日の旦那様は甘々なのだ。

おかげで、私の心臓がうるさくて痛い。

無事に今日を終えられるだろうか。


「あの日、おまえは母の白いドレスを着ていた。あのドレスの話を母から聞いた記憶がある。銀糸で花の刺繍がされたドレスで、光が当たれば輝くのだと。花々の生命が刺繍されたような輝かしいドレスなのだと言っていた。あの日、その生命のドレスを着て、真っ直ぐ私を見たエルサは輝くように美しかった。もちろん、今も変わらず美しい」


美しい人に、美しいと褒められた。

心臓がうるさい。そして痛い。

今日の旦那様は、甘々な上に饒舌なのだ。


もしかすると、旦那様は浮かれているのかもしれない。

だって、旦那様と手を繋ぎ、旦那様の話を聞いている私も浮かれているのだ。

私たちの周りを走り回っているチルちゃん軍も浮かれている。


皆で浮かれながら進んでいくと、枯れ果てた地面の向こうに、あの泉が見えてきた。


  ☆


チルちゃん軍が先に泉に到着し、泉の中を覗き込んでいたが、しきりに首を傾げていた。

きっと、前回来た時と、全く違うのだ。


泉に向かって歩いていると、旦那様が足元を見て立ち止まった。


「草の芽が出てきている」


確かに、赤茶けた地面に、小さな緑が見える。


「ここは全てが枯れていく場所だったのだ」

「呪いが終わったからでしょうか」

「ああ。もうすぐここにも草木が生えてくるのかもしれない。新しい命が始まっているのだな」


泉に着き、二人で水面を覗き込んでみた。

呪いの消えた泉は、何という事もないごく普通の小さな泉だった。


泉に映った二人の顔を眺めていると、

「オーフィリアに望みを聞いたのは何故だ」と、突然聞かれた。


「何故?と言われても、閉じ込められて、他にやる事がなかったからですし、元々私は誰かの話を聞くのが好きなのです。オーフィリアが消えれば私は一人きりになって、もう誰にも話を聞けないというのなら、オーフィリアの話を聞きたいと思うのは当然でしょう?それも昔の人ですよ!昔の話をしてくれるかもしれない。聞きます。当然です」


「おまえの当然はよく分からない」


旦那様が困ったように言った。


「ふふふ。そうですか?でも、呪いだけを持って消えかけていたオーフィリアが、少し気の毒にも思えたのです。どうせ消えるのなら、最後くらい、何か一つ望みを叶えた方がいいでしょう。酷い望みしか言いませんでしたが」


「おまえを呪い殺す事と、おまえを絶望させる事、だったか。どちらも嫌な望みだ」


「本当にその通りです。それに、オーフィリアは私を絶望させて、その嫌な望みを一つ叶えたのですよ!頭に来ます!」


今になってみれば、絶望より怒りの方が大きいのだ。

意地悪なオーフィリア。

求婚の言葉を教えてくれたってよかったのに。


ぷんぷん怒っているうちに、私を楽しげに見つめる旦那様に気がついて、気恥ずかしくなってきた。

そして、思いついたのだ。


「旦那様の望みは何ですか?言ってください。オーフィリアの望みを叶えた私が、旦那様の望みも叶えてあげましょう」

次のタイトルは「望みを叶えよう」

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