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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第1章 死神公爵と我が栄光のチルちゃん軍

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第44話 あなたは私の光です

全部話した。

あの夜に起こった事を全てだ。


私の話を聞くうちに、愛しげに私を眺めていたはずの旦那様の表情が、段々と苦々しいものに変わっていった。


エルビスは、目も口も大きく開けて私を凝視し続けていた。


ルイスも、最初こそは、ぽかんと私を見つめていたのだけれど、途中から話についていけなくなったのか目が泳ぎ始め、急に思い立ったように信頼できる護衛風の顔をし始めた辺りからは、もはや私の話など聞くのをやめたようで、視線も遠くに合わせていた。

どこか幸せそうな雰囲気を醸し出していたから、ローズの事を考えていたのだと思う。好きにすればいいと思う。


チルちゃん軍に至っては、私がオーフィリアお婆ちゃんに闇の世界に連れて行かれてからの話が、よほど衝撃的だったのか、テーブルの上に立ち上がり「チルチルチル!」と口々に喋り出し、最後には総勢十名のチルちゃん軍が、何についてなのかは分からないが、八対二で言い争い出し、あまりにも煩いのでテーブルの上を指先でトントンと叩き、「静かに」と注意しなければいけないほどになった。


でも、私の注意に「すいません」と謝ったのは、「まさか」「なんて事を」「ああ奥様」と私の話の合間に呟いていただけのエルビスだったのだけれど。


チルちゃん軍は私の顔をチラチラ見ながら黙り込んだが、やがてまた小声で「チルチル」言い始め、そのうちまた「チルチルチル!」と声が大きくなり、結局また私に指先でトントンと注意された。

そしてまたエルビスが「すいません」と謝るのだ。

エルビスも「なんて事を」と呟くのを止められなかったみたいだ。



  ☆



「エルサ。おまえは自分がどれだけ危ない道を進んだのか、気がついているのか?」


全てを話し終わった後、旦那様が険しい顔をして言った。


「おまえが足元も見ず気まぐれに進んだ道は、曲がりくねった剣の刃の上だ。一歩でも踏み外せばそのまま死が待っていたはずだ」

「そうですね」


今になって思い返してみたらその通りだ。でもあの時は、ただ進める道を進んでいただけなのだ。

旦那様は深いため息をついた。


「随分軽い返事だが、本当にわかっているのだろうか。オーフィリアの世界に引き摺り込まれた時点で、普通ならもう出られる手段もなく、終わりだったのだ。求婚の言葉を教えろと意表をついた要求をしてオーフェリアを戸惑わせ、更に弱ったオーフィリアがむきになるほど煽り立て、消える間際に求婚の言葉を思い出したオーフィリアに勝ちだと思わせ、満足させた」


旦那様はまた、ため息をつき、苦しい表情で私の髪をそっと撫でた。


「何故、閉じられていたオーフィリアの世界が開いたのかは分からない。オーフィリアは、もはや自ら作り出した世界を開く事が出来なくなるほど、弱りきり消えかけていたのだ。しかし、完全に消える前にかつての幸せな記憶を取り戻し、更に、おまえに勝利した事に満足し、呪いを終えたのだろうか。呪いを終えた事で、呪いで作り上げたオーフィリアの世界も綻びたのだろうか。分からない。どちらにしてもおまえが出てこれたのは、偶然であり、奇跡だったのだ」


「まさに奇跡です!」

エルビスが興奮気味に叫び声をあげた。


「自分を呪い殺そうとしている死霊を煽り立て、求婚の言葉を聞こうとするなど、奥様以外に誰がそのような事を思いつき、実行できたでしょうか!さすがでございます!さすが奥様でございます!」


旦那様は深いため息をつき、首を振った。


「さすがと言えば、さすがなのだろう。心を読まれながら、それをやり遂げたのだからな。意図せず進んだからこそ、出来たのだろう。奇跡というべきか、信じられないほどの幸運というべきか。そしてエルサ、おまえの幸運は、オーフィリアが消えた後も続いたのだ」


「オーフィリアが消えた後に現れた人達の事ですか?」

「そうだ。オーフィリアの呪いで捉えていた魂なのだろうか。しかし、おそらく、私の先祖と両親なのだろうな」


エルビスが息をのむ。

「やはり最後に現れたのは、先代の奥様と、先代の公爵様なののでしょうか」


「おそらく、としか言えないが、おそらくそうなのだろうな。魔力量の多い母を取り込みオーフィリアは力を増したのか。父はあの泉の前に跪き、彼女のいない人生にはもう堪えられない、自分も呪って妻のところへ連れて行ってくれと願ったのか」

「それは仲の良いご夫婦でしたから」


旦那様とエルビスはしんみりと言った。


「旦那様のお母様が、私を連れ出してくれたのですね」

「そうだな。母はオーフィリアの世界からエルサを連れ出したのだろうが、父と二人で向かっていたのは、死者の世界なのだろう。エルサ、ここでもおまえは偶然と幸運によって、生者の世界へ戻ってこれたのだ」


旦那様が気遣わしげに私の頬を撫でる。


「求婚の言葉が鍵だったのでしょうか?」

エルビスが不思議そうに呟いた。


「あなたは私の光です、か。そうなのだろうな。母は、エルサが求婚の言葉を欲しがっていたから与えたのだろうが、何故、その言葉でエルサが戻ってこれたのかは、分からない」


本当に何故だろう。と考えていて、気がついた。

「もしかすると、あの求婚の言葉を言った時、私は旦那様の事を思っていたのかもしれません」


「私の事を?」

「ええ。だって、私が求婚する相手は旦那様でしょう?」


エルビスは戸惑ったように「奥様はもう公爵様とご結婚されているのですよ」と言った。

そういえば、そうだった。


「でも、私が求婚の言葉を言うなら、相手は旦那様しかいないでしょう。だからあの求婚の言葉を言った時、旦那様の事をどこかで思っていた気がします。言った後に旦那様が抱きしめてくれて、目を開けると、光があって、それは旦那様の顔だった」


あの時の事を思い出しながら、最後は呟くように言った。


「おまえは・・・・私に求婚したのか?」


旦那様を見ると、綺麗な瞳が驚いたように大きく開かれ、頬はほんのり赤く染まっている。

美しい人を照れさせてしまった。

そして美しい人が照れると、その美しさは増すらしい。


その破壊力に私の方が赤くなり、慌てて目を逸らした。


「そ、そういう事になりますね。あなたは私の光です。私はこれまで沢山の求婚の言葉を集めましたが、その中でも一番好きな求婚の言葉なのです」


「私も妻に同じ言葉で求婚しました」

エルビスが感慨深げに言った。


「昔流行った芝居に出てくる求婚の言葉なのでしょう?私の家庭教師をしてくれたサマンサ先生も、この言葉で旦那様に求婚したそうです。そういえば、私が求婚の言葉を集め始めたのは、サマンサ先生の求婚の言葉が切っ掛けでした。公爵家に来る旅の途中の馬車の中で、この言葉を教えてもらったんです。あの時のサマンサ先生が、恥ずかしそうで、幸せそうで、とてもいいなと、思ったんです」


思い出して私は、ふふふ、と笑ったのだ。


「でも、旦那様のお母様が教えて下さった求婚の言葉は、誰の求婚の言葉なのかしら?」


私は首を傾げた。

戻ってきてから、ずっと疑問に思っていたのだ。


「あの時、オーフィリアに求婚の言葉を教えてもらえなかった事が悲しくて、旦那様のお父様とお母様を追いかけながら、ずっとその事ばかり考えていました。旦那様のお母様が振り返って教えてくれたのは、旦那様のご両親の求婚の言葉だったのかしら?それともオーフィリアの求婚の言葉?それとも私の中にあった求婚の言葉なのかしら」


ずっと考えていたけれど、それが分からないのだ。

エルビスが思いついたように口を開く。


「あの求婚の言葉を流行らせた芝居は、それほど古い芝居ではありません。ちょうど先代の公爵様ご夫婦が若い頃に初演されたはずです」


「では、旦那様のご両親の求婚の言葉を教えてくれたのかしら」

「そう、かもしれませんが、芝居というものは、元になる物語があるものです。それが死霊めの生きていた時代からあった物語ならば、もしかすると死霊めの求婚の言葉なのかもしれません」


結局分からないままなのだ。


「オーフィリアについて調べてみよう。昔の記録が公爵家に残されているはずだ。オーフィリアの着ていたドレスからも、時代が分かるかもしれない」と、旦那様が言った。


「しかし、ともかくおまえはここに戻ってきてくれた」


旦那様が私を引き寄せ、抱きしめた。

嬉しい。


でも、できれば抱きしめる角度を変えて欲しかった。

この角度で抱きしめられると、エルビスが頬を染め目を逸らすのが見えたし、遠くを見ていたはずのルイスが目を輝かせながらこちらをガン見し始めたのが見えるのだ。

もちろん、チルちゃんが「チルチルチル!」と私を指さしているのも見える。


ぎゅっと目を閉じ、旦那様の心臓の音だけを聞こうとしていると、

「エルサ、おまえに二人きりで話したい事がある。この後、あの泉に私と行ってくれるかい?」と優しく尋ねられた。


「私が行くと、光の戦士が十名ほどついてくるので、二人きりではないのですがいいですか?それとも、光の戦士はここに置いていきましょうか?」


「チルチルチル!」と抗議の声が上がる。


「光の戦士達は常におまえと共にいるのだな。今、ここにもいるのか?」

「もちろんいます」

「私は光の戦士達を立たせていたのか。椅子も用意せず申し訳ない事をした」


そっと目を開けると、チルちゃん軍が慌ててテーブルに座るのが見えた。

そして「チルチルチル」と旦那様に語りかけている。


「座っているから大丈夫だそうです」

「座っている?何処に?床にか?」

「いいえ、テーブルの上です」


「デーブルに!?」

旦那様とエルビス、ルイスが、一斉にテーブルから体を離す。

そして三人が見上げた先に、光の戦士の顔はない。

光の戦士達は、もっと下の方から三人を不思議そうに見ている。


旦那様の手が私から離れていたので、私は身振り手振りで皆に説明をする。


「光の戦士達の顔はこの辺りにあります。光の戦士達の大きさはこれくらいです」

「そうなのか。あの絵本の戦士とは随分違うのだな」


旦那様の言葉に、チルちゃん軍が「チルチルチル!」とまた抗議を始めた。


「そういえばオーフィリアは光の戦士達の事を、幼い光の妖精、と言っていたのだったな」


旦那様の言葉に私は頷いた。

「光の泉と言われるところでチルちゃんは生まれたはずです。泉の近くの村の人は、その泉には妖精がいると言っていたそうです」


「そうか。では光の妖精達。常にエルサと共にある偉大なる光の戦士たち。もちろんあなた方にも私の話を聞いていただこう。あの泉までエルサと共に来ていただけるだろうか」


チルちゃん軍は大喜びで「チルチルチル!」と叫んだのだ。


次のタイトルは「終わりと始まり」

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