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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第1章 死神公爵と我が栄光のチルちゃん軍

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第43話 噂話はコソコソやるやるもの

翌日、朝の支度が終わった頃に、私の部屋へエルビスが訪れた。


「公爵様からのご伝言でございます。もし奥様の体調がよろしければ、あの時、何が起こったのかを、公爵様の塔で詳しく教えて欲しい、との事です」


「いいわよ。行くわ。でも旦那様はまだ塔で暮らしているの?呪いは消えたのに?」

「はい。こちらの屋敷には、公爵様の部屋がまだ整っていないのです」


なるほど。

六歳の頃から、塔で暮らしているのだ。

この屋敷には公爵様のものなど、何もなかったのかもしれない。


「公爵様に相応しい最高の部屋を整えるつもりでおります」というエルビスに、

「エルビスに任せておけば安心ね」と、私は気軽に言ったのだ。


しかし何故かエルビスは、ぴたり、と私の顔を見つめてきた。


「何?」

「奥様の部屋も整えております」


そうなの?


「私の部屋って、この部屋の事?ここをもっと整えるの?でも、今のままで十分よ」

私はこの部屋がとても気に入っているのだ。


しかし、エルビスは首を振った。

「ここは北棟にある客間でございます。奥様の部屋ではありません。奥様の部屋はご夫婦の部屋の隣へ整えております」

「ご夫婦の部屋?」

「はい。公爵様と奥様の部屋でございます」

「私と旦那様の部屋?」

「その通りです」


頷くエルビスを見つめながら、その部屋について考えてみた。


「その部屋は、毎日、旦那様を眺められる部屋なの?」

「その通りでございます」

「毎日、旦那様の声が聞ける部屋なの?」

「好きなだけお聞きください」

「毎日、旦那様に触ってもいい部屋なの?」

「・・・・お好きになさってください」


私はエルビスの顔をマジマジと見て、

「そんな素敵な部屋、本当に、いいの?」と尋ねた。


「奥様・・・」

エルビスは何故か痛ましげに私を見つめて言った。

「ご夫婦なのですから、当然なのですよ。これまでが、少し、おかしかっただけです」


そうなの?


「でも、もう旦那様の呪いはなくなったのよ。私、まだここにいていいの?旦那様は公爵家に相応しいご令嬢を新しくお迎えするのだと思っていたわ」


そんな気軽なつもりでここに来たのだ。

呪いをちょっと見て、やれるだけやって、駄目なら逃げ出す計画だったのだ。

上手く呪いは消せたし、旦那様の事は好きになった。旦那様にも少しは私の事を好きになってもらえたと思うけれど、結局のところ、旦那様と私は、王国を支える公爵様と詐欺師の娘なのだ。

私はいつだって現実を見ている。

このまま婚姻関係を続けられるのだろうか?


エルビスは真っ直ぐとした目をして、しばらく私を見つめた後、

「公爵様のお気持ちは、公爵様に直接お聞きください。私は一生、公爵様と奥様にお仕えするつもりです」

と、深く頭を下げた。


 ☆



エルビスとルイス、そしてもちろんチルちゃん軍を連れて、旦那様の塔へ向かい歩いて行くと、塔の扉が開き、旦那様がこちらに向かって歩いてきた。


旦那様は相変わらず黒い服を着てる。

こちらに向かってゆっくりと歩いている。

旦那様はもう自由にあの塔を出てこられるのだ。


旦那様の足元には闇はない。明るい色をした緑が広がり、晴れた空はどこまでも青い。

良い風が吹いていて、旦那様の綺麗な黒い髪を揺らしている。

旦那様の顔はもう闇に覆われていない。

口元が少し微笑んでいる。


なんて良い光景なんだろう。


私は立ち止まり、その光景を眺めた。


なんて幸せな光景なんだろう。

私は、いいえ、我がチルちゃん軍は、この光景のために頑張ったのだ。


ね。と、辺りを眺めると、私の足元にいたはずのチルちゃん軍は、皆、嬉しそうにタタタと旦那様に向かって走っていた。

そして、旦那様の顔を見上げ、指差しながら、私の方を振り返り「チルチルチル!」と叫んでいた。

私達は頑張ったのだ。


「エルサ」

近づいてきた旦那様に名前を呼ばれ、私は微笑んだ。


「相変わらず、名前を呼べば笑うのだな」と言って微笑む旦那様の顔面が美しすぎて、思わず顔を背け、「もちろんです」と答えた。


「まだ慣れないのか」

「まだ慣れません」

「私もだ」


私も?どういう意味?と、思わず旦那様の顔を見上げると、旦那様は苦い顔をして笑っていた。


「呪いはなくなったのだから大丈夫だと分かっていても、こうしてまだ皆が起きている時間に、こんなに明るい場所を歩いていると、こんな事をしても良いのだろうかと思うのだ。私から流れ落ちた呪いが、皆を殺してしまうかもしれない、早く塔へ帰らなければと思うのだ。この罪悪感なく、日の光の下を歩ける日は来るのだろうか」


ああ、いけない。

そんな罪悪感に囚われる必要なんてないのだ。

私はすぐに旦那様に近寄り、旦那様の両手をとった。

そして旦那様の顔を見上げ、宝石のような瞳となんとか目を合わせたのだ。


「大丈夫です、旦那様。私もまだ旦那様のお顔に慣れません。つい目を逸らしてしまいます。でも、私達はまだ新しい事を始めたばかりなんです。始めたばかりで慣れないのは当たり前です。当たり前の事が起こっているだけなのに、悲しむ必要なんてありません。時間さえ経てば、きっと私達は慣れてしまいます。大丈夫です旦那様。一緒に慣れていきましょう」


「一緒にいてくれるのか?」

旦那様が、静かに尋ねるので、

「もちろんです!」と言ってしまった。


言った後で、あれ?私は一緒にいていいのかしら?と思った時には、もう抱きしめられていた。

旦那様の匂いがする。私はこの匂いが大好きなのだ。すかさず頬を擦り付ける。いつだって好機は逃さないのが私のやり方なのだ。

旦那様の心臓の音がする。速く、大きな音がする。


「エルビス、ルイス」と旦那様は何故か二人に声をかけた。

「はい!」「は、はい!」

二人の声は動揺している。


「後で、陛下に手紙を書く。手紙を送る手配をしてくれ。エルサを私の所へ送って下さった陛下に心からの感謝を伝えたいのだ」

旦那様はそう言うと、少し体を離し、私の額にキスをした。

「私は妻と共に幸せに暮らしているともお伝えしよう」


間近で宝石のような瞳に見つめられながら言われたので、思わず目を逸らしてしまった。

しまった。


「まだお互いに慣れぬ事も多いが、大丈夫だとお伝えしよう」と、旦那様は苦笑した。


「では、エルサ。私の塔へ来てくれ。おまえが以前、嬉しそうに使っていた、あの大きなカップに紅茶を入れよう。角砂糖も好きなだけ入れるといい。そして何があったのか話してくれ。エルビス、ルイス。おまえ達も来るといい。おまえ達も私の為にエルサと戦ってくれたのだ。何が起こったのか聞きたいだろう」


そして、私達は塔へと向かったのだ。



  ☆


約束通り、旦那様が大きなカップ入れてくれた紅茶には、以前よりも大きな砂糖壺が添えられた。


「さあ」と、旦那様が嬉しそうに急かしてくるので、角砂糖を入れていく。


しかし、なんだろう。この緊張感は。

以前と同じ事をしているはずなのに、以前とは同じではないのだ。


今、旦那様は私の隣に座り、テーブルに肘をついた手で自分の頬を支えながら、楽しげに私を眺めている。もう片方の手は私の髪をしきりに撫でている。

旦那様とはこんな甘々な方だったのだろうか。

思いきってチラリと見てみた旦那様が、あまりにも美しい顔で、愛しげに私を見つめているので、私の心臓が鳴りすぎて、痛いくらいになっている。


しかも、私はこんな甘々の光景を、テーブルの向こう側に座るエルビスとルイスに見られているのだ。

長い話になるのだからと旦那様に言われ、二人とも大人しく席についたのだ。

そしてこの甘々を眺めさせられている。


恐々と二人の方を眺めると、壮年の男エルビスは、ほんのり頬を赤く染め、行儀良く目を逸らしていてくれたのだが、ルイスはマジかよすげえやるじゃん奥様マジすげえといった顔でガン見している。

ああ、いけない。ガン見なんて心の中でも使っていると、いつかきっとローズにバレて怒られる事になるのだ。


そして何より、チルちゃん軍だ。

いつもは部屋のあちこちに散らばり、話が終わるのを待っているチルちゃん軍が、今日は全員テーブルの上に登っているのだ。

そして頬を染め、身を乗り出して私達を見ている。

髪を撫でている旦那様の手を指差しては「チルチルチル!」と話し合い、愛しげに私を見ている旦那様を指差しては「チルチルチル!」と話し合い、いたたまれない思いでカップを眺める私を指差しては「チルチルチル!」と語り合っているのだ。


噂話というのは、陰でコソコソやるものだと教えた方がいいのだろうか。


「では、エルサ。紅茶を飲んで落ち着いてからでいい。おまえの話を聞かせてくれ」


旦那様は優しく言うし、私は全く落ち着いてはいないのだけれど、

「今すぐお話いたします!」と逃げるように言ったのだ。




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