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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第1章 死神公爵と我が栄光のチルちゃん軍

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第40話 見ます!

光が消えた暗闇を見つめていた。

頭の中が、痺れたように、ひどくぼんやりとしている。


消えてしまった。

だからもうオーフェリアの求婚の言葉を聞くことは出来ない。

永遠に。


涙が、ぽろりと溢れ落ちる。

体の中にぽっかりと暗い空洞が出来たみたいだ。


これが、絶望というものなのだろうか。




ふいに後ろから、誰かが私の側を通りすぎた。

驚き見ると、身なりの良い男が一人、急ぎ足で私の前へと進んでいく。


誰?と思う間もなく、また一人、後ろから男が前へと進んでいった。


そしてまた、立て続けに二人の男が私の側を通り過ぎる。

皆、急ぎ足で、振り返る事もなく、進んでいる。


痺れたように動かなかった私の頭が、少しづつ動いていく。

あの男達は誰だろう。

老婆は・・・オーフェリアは、ここはオーフェリアの世界で、存在しているのは私とオーフェリアだけだと言っていた。

それなら、あれは誰なのだろう。何処に向かって、あんなに急いでいるのだろうか。


あれ?それにこの世界は、そんなに遠くまでなかったはずだ。進むと後ろに戻されるのだ。でも、あの男達はもっと先へと進んでいる。

先へ行けるようになったのだろうか。


歩き出そうとした時、また誰かが私の横を通り過ぎた。


今度は白いドレスを着た女性だった。美しい黒髪の華奢な女性だ。ドレスは銀糸で刺繍されており、彼女が進むごとに揺れ、刺繍の花が煌めいた。


あの刺繍に見覚えがある。あれは、私が着たドレスだ。旦那様のお母様のドレスだ!


そう思った時、ドレスの女性が振り返った。

優しげな曲線をした黒い眉と、落ち着いた黒い瞳の、美しい女性だった。

そして、確かに、私は彼女と目があったのだ。


その時、また誰かが私の隣を通り過ぎた。

今度は男だ。

先へ進むドレスの女性の元へ、急ぎ足で進んでいくと、そっと彼女の腰に手を回し、そのまま二人で進んで行った。


ドレスの女性は男を見上げ、くすりと笑った後、また私を振り返った。


あなたは行かないの?


と、言われている気がした。

私は慌てて前へ進み、二人の後を追いかけた。


 ☆


後ろに戻される事はなかった。

私は、二人を追いかけていく。

でも、少しづつ引き離されていった。


二人とも、それほど早足で進んでいるようには見えなかったのに、私が全力で走っても追いつけないのだ。

どうなっているんだろう。


荒い息で走りながら、何が起こっているのか考えてみたけれど、よく分からなかった。

ただ分かっているのは、あの二人を追いかけなくてはいけない気がする事と、オーフェリアの求婚の言葉を聞けなかった事だけだった。


その事を思い出すと、また涙がポロリと溢れてきた。

もう求婚の言葉は手に入らないのだ。


ふいに、白いドレスの女性が振り返った。

また私達は目が合い、また見つめ合った。

その間、私が心の中いっぱいに思っていた事は、求婚の言葉を教えてもらえなかった!という悲しみだった。


すると、私の頭に、誰かの声が響き渡ったのだ。


(あなたは私の光です)


優しげな女性の声だった。

白いドレスの女性はまだ私を見ている。

彼女の声なのだろうか。


私は呪文のようなその言葉を、苦しい息で繰り返した。


「あなたは、私の、光、です」



突然、誰かに抱きしめられ、くらりと目を閉じ、また開いたその目の前に、光があった。

瞬きをしてよく見ると、美しい男の顔があった。


「エルサ!」


その美しい男は、良い声で、私の名前を叫んでいた。

びしょ濡れの黒い髪から、水が滴り落ちてきた。

たくましい黒い眉と、繊細な黒い瞳をしていた。

あの白いドレスの女性に何処か似ていた。


「エルサ!」


どうして、そんなに必死な顔をして、私の名前を叫んでいるのだろう。

でも、その美しい男に名前を呼ばれていると、胸に喜びが湧いてきた。

だから、にっこりと笑ったのだ。


「ああ、エルサ!おまえは、こんな時でも、名前を呼ばれれば、嬉しそうに笑うのか」


泣いているのか笑っているのか分からない顔をして、震えながらそう言う美しい男の顔を見ていたけれど、またくらりと眩暈がして目を閉じた。


「エルサ!」と良い声が叫んでいる。私は、この声が大好きなのだ。

必死に叫んでいるこの声に何かをしてあげたいと、私は微笑みながら、あの呪文を口にした。


「あなたは、私の、光、です」


「なんだ。エルサ?何を言っているんだ?」良い声が聞いてくる。


私が言ったのは、何か。

意識が消える前に、教えてあげた。


「求婚の、言葉」と。



 ☆


眠っていると、「チルチルチル!」と騒々しい声がする。

目を開けると、涙目のチルちゃん達が、視界いっぱいに押し寄せていた。可愛い。

ここは私の寝室らしい。チルちゃん達の隙間から見える天井を見てそう思った。

カーテンの隙間から、明るい日差しが差していた。


「どうしたの?」

尋ねると、皆、ぽろぽろと涙をこぼした。


「はい、はい。泣かない、泣かない。どうしたの?どうしてそんなに泣いているの?」

尋ねながら、皆を撫でた。


ムチムチした手が、私の顔をペタペタ触る。

チルちゃん達の涙が、私の顔に落ちてくる。可愛い。


「ふふふ。そんなにみんなで泣いたら、私がびしょ濡れになっちゃうわ。泣かないで。みんな。泣かないで」


みんなが私の顔や体にムチムチした顔を擦り付け「チルチルチル!」と泣き続ける。くすぐったい。可愛い。


「お腹が空いたの?魔力を吸う?」

そして、みんなを押し退け、体を起こそうとしたのだけれど、くらりと眩暈がした。


倒れ込む前に、誰かの逞しい腕に抱きしめられた。

「大丈夫か?エルサ?」


旦那様だ!

私はすかさず、目の前にある旦那様の胸に頬を擦り付ける。旦那様の匂いがする。


「大丈夫です。旦那様」

「そうか。良かった。しかし、無理はするな」


旦那様がそっと私をまた横たえる。

それで、旦那様の顔が見えたのだ。


・・・・・・・誰?


いつもあった闇がない。

黒髪の美しい男が、心配そうに眉を顰め、宝石みたいに美しい黒い瞳で私を見下ろしている。


え?誰?


「どうしたのだ?エルサ?」


唖然として見上げていると、良い声が訪ねてくる。これは確かに旦那様の声だ。


「旦那様?ですか?」

「何を言っているのだ?もしかして、目が見えないのか?」


美しい男が私の頬をそっと撫でる。けれど、私はビクッと旦那様の手から顔を離した。


「み、見えます。見えています」

「では、どうしたのだ?何故いつものように私を見ない?」


美しい男が旦那様の声で悲しげに言うけれど、私の頭は完全に混乱していたのだ。


美形すぎる。これが旦那様なの?ルイスが旦那様の事をいい男だって言ってたけど、いい男どころじゃないじゃない。ええ?どうしよう。目を合わせられないくらいの綺麗な顔が目の前にある。無理よ。私には無理。目を合わせるとか無理無理!


でも、どうして急に顔が見えるようになったのだろうか。もしかして!

「呪いが、消えたのですか?」


「あ、ああ。おそらくそうだ。今まで私の額にあった、重いものが消えている。体が驚くほど軽い。他の者が私に近づいても、以前のような恐怖や苦しさを感じないらしい。おそらく、呪いは消えたのだ。エルサ。おまえのおかげなのだろう?」


「本当に?良かった!」と、旦那様の顔を見てしまい、また慌てて目を逸らす。


旦那様が温かい手で私の頬を撫でる。あの見慣れない美形に撫でられているのだと思うと、ビクッと体が揺れてしまう。


「・・・あの泉に落ちたおまえを救い上げた後、おまえはしばらく意識を失っていた。あのまま死んでしまうのかと怖かった。何度も名前を呼んだのだ。目を開けてくれた時、どれほど嬉しかったか。しかし、またおまえは意識を失い、三日間眠り続けた。やっとまた目を覚ましてくれたが。もう、私を見たくも、触られたくもないのか。そうだな。私の呪いにおまえを巻き込み、命まで落としかけたのだ。私の事など見たくなくなっても当然か」


悲しげに目を伏せる美形の旦那様の手を、慌てて掴んだ。

「ち、違います!」

そんな誤解をさせたくはないのだ。


旦那様の手を掴んだまま、顔は見ないまま、全て話した。

これまで黙っていたけれど、今まで呪いで顔が見えなかった事。

呪いが消えたら、見知らぬ男の顔が現れた事。

その顔が美形すぎて、とても目を合わせていられない事。

でも旦那様は好きな事。

悲しい顔はさせたくない事。

全部話した。


「では、エルサ、おまえは私の顔を、今、初めて見たのか?」

「い、いえ。おそらく、あの泉で助けられた時に見たのが初めてです。ですから、今日は二回目かと」

「そうか。それなら、エルサにとって、私はまだ見知らぬ顔の男なのだな」


旦那様はそういうと「では、見慣れれば良いということか」と呟いた。


「い、いえ。あの、旦那様のように美しい方を見たのも初めてなので、そう簡単に見慣れはしないと思うのです」

「大丈夫だ。エルサ」


旦那様はそう言うと、背けていた私の顔を、そっと自分の方へ向けた。


「さあ、こちらを見て。エルサ」

「いえ、あの。無理です」

「やはり、私の事が嫌いになったのか・・・」

「そんな事は!」

「では見ておくれ。私の事が嫌いではないのなら」

「嫌いではないです!見ます!」

「目を合わせて。私の目を見て」

「それは、まだ」

「やはり、私の事が」

「見ます!見ます!好きです!大好きです!」


旦那様が明るい声で笑っている。

チルちゃん達が楽しげに「チルチルチル!」と話し合う声がする。


旦那様の顔は当分見慣れそうにない。でも、私は確かに幸せだった。

私は、いいえ、私だけじゃない、我がチルちゃん軍はやったのだ!

ついに旦那様の呪いを消し去ったのだ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白いです。 絶望するのはそこかーと思わず突っ込んでしまいました。 戻れてよかったです。 チルチル言ってるチルちゃん達に癒されました。
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