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第4話 連戦連勝の果て

屋敷の使用人達は、執事も含め、皆不機嫌で不親切だった。


冷たい目で私を睨み、ヒソヒソと物陰で話している。

お父様が来た時にドレスに着替えさせてくれた使用人達は、多少私の事を気遣ってくれたけれど、本当に多少だった。


でも仕方ない。

こんなに闇が濃い場所で暮らしていれば、そうなってしまうのだ。

私は気にしなかった。


屋敷の人たちは皆怒りっぽかったけれど、私の教育係のサマンサが一番怒りっぽかった。


「あなたには罰を与えなくてはいけません」

サマンサは、私が間違えるとすぐに物差しを振りかざし打とうとした。


でも街育ちの十歳児を甘くみちゃいけない。

サマンサが物差しを振り上げる度に待ち構え、振り下ろされた物差しをパシリと手でつかみ取ったのだ。


ふふん。どうよ、と得意げにサマンサを見ると、サマンサは更に怒りを爆発させた。


「離しなさい!悪い子は叩かれないといけないのよ!」

「いやよ。私は悪い子じゃないもの。マリーがいつもあなたは本当にいい子ね、って褒めてくれるわ」

「マリーみたいないい加減な女の言うことよりも、私の方が正しいのよ!」

「マリーはいい加減だけど、正しいわ」


サマンサ先生は必死になって物差しを引っ張るし、隙があれば引っ掻こうとしてくるけれど、そんなの街の悪ガキどもと毎日遊んでいた十歳児にとって別にどうってことないのだ。

急に物差しを離してサマンサ先生に尻餅をつかせたり、飛びかかってくるのをヒョイっと避けたりして、サマンサ先生がヘトヘトになるまで振り回した。


そのうち勉強時間の終わりを告げに来た執事に、「何をしているんですか!」と冷たい顔で怒られたが、私は悪くないので平気だった。


それにもう少しなのだ。


私とサマンサが怒られている最中も、チルちゃん軍は屋敷の中で戦っていたのだ。

頑張れ!チルちゃん軍!


ただ、戦っているのは私のいる勉強部屋ではなかった。


 ☆


最初、チルちゃんは、勉強部屋の闇と戦おうとしていたのだけれど、私が止めたのだ。


「勉強部屋は後でいいわ。サマンサ先生に怒られたってどうってことないから大丈夫よ。でも、食堂と調理場は早く味方につけたいの。ご飯をもらえないと、魔力がなくなった時に困るもの!」


チルちゃんは目を見開き、こくこくと頷いた。

そして私が勉強?している間に、チルちゃん軍は毎日確実に勝ち進め、やがて食堂と調理場を制圧したのだ。


勉強時間が終わって、食堂に飛び込んだ私は、穏やかな顔をした使用人達に、

「さあ、ご飯の時間だわ。今日はどんな美味しいものを食べさせてくれるの?」と飛びついた。


「あらあらお嬢様。そのような事を言ってはいけませんよ。礼儀作法のお勉強もするのでしょ?」

「するわ。でもここのご飯は美味しいから、とっても楽しみなんだもの」


私が、ご飯、ご飯、とせがんでいると、食堂から調理人達が直接大量の料理を運んでくれる。

「ははは。お嬢様は、本当にわしらの料理が好きですな」

「もちろんよ!だって美味しいんだもの!」

「嬉しい事を言ってくれる!さ、お嬢様、お座りください。しかし、毎日こんなに大量に食べるのに、なんでそんなに痩せていなさるのかねえ」

「体質なのよ」

「なるほど、体質ねえ」


そんな会話の間にも、戦いを終えた爽やかな顔のチルちゃん軍が私の元にやってきて、順番に魔力を吸っているのだ。

ご飯なんて、いくらあっても足りない!


実は、屋敷で毎日、朝と昼とオヤツと早めの夕食を沢山食べた後、マリーの家でも晩御飯を沢山食べているのだけれど、それはみんなには内緒だよ。


 ☆


そんな充実した日々を過ごし、屋敷の闇も少しずつ消え去り、チルちゃん軍も二人増えた頃、この屋敷の最後の闇、勉強部屋の戦いへとチルちゃん軍は取り掛かった。


その日、私はサマンサ先生の授業を受けながら、横目でチルちゃん軍の戦いを見ていたのだ。


チルちゃん軍は、次々と闇を倒していった。

いつの間にか、驚くほど強くなっていた。


そしてチルちゃん達は、時々私の方を見て、私が見ているのを確認すると、キリッと闇の方へ向き直った。


私に見られているのが嬉しいのかしら。

丸々とした後ろ姿は、可愛らしく、頼もしかった。


チルちゃん軍は、一日で勉強部屋の戦いを終えてしまった。

少し明るくなった部屋の中で、サマンサ先生は毒気が抜かれた顔をして、

「それでは今日の授業を終えます」と呟いた。


その授業の間中、サマンサ先生は一度も怒らなかったし、一度も私を打とうとしなかった。


サマンサ先生の怒りっぽさは、闇にかなり影響されていたのかもしれない。

それなら勉強部屋を一番最後にしたりせず、早く闇を消してあげればよかった。

私はマリーを悪く言うサマンサ先生に少し怒っていたので、意地悪な気分になっていたのだ。

それも闇の影響だろうか。


「サマンサ先生」

授業を終え、肩を落とし部屋を出ようとしていたサマンサ先生に声をかけた。


「・・・どうしました?」

「今から一緒にお茶を飲みませんか?」

「お茶を?」

「ええ。食堂でお茶の準備をしてもらっているんです。美味しい焼き菓子もあります。一緒にお茶を飲みましょう」


サマンサ先生は、戸惑った顔で「いいの?」と言った。

気の弱い、小さな子供みたいな言い方だった。


「ええ。私、サマンサ先生ともっとお話がしたかったんです」


サマンサ先生とのお茶は楽しかった。

サマンサ先生は、大量のお菓子を食べ続ける私に驚きながらも、色々な質問をしてきた。


「それでは、近所の人に勉強を教わっていたのね?」

「はい。マリーはおしゃべり好きだから、いろんな人の家に行っておしゃべりをするんです。マリーの家があるのは街中で、あの辺りは大きな商店が多いでしょ。だから本を読めたり、計算の仕方を知ってる人も多いんです。マリーと一緒に行って、足をぶらぶらさせてたら、暇な人が何かと教えてくれました」

「ふふふ。マリーとあなたらしい話だわ」


サマンサ先生と仲良くなった私は、勉強と称してサマンサ先生と一緒に領内の様々な場所に出かけた。

行く先々で、サマンサ先生は、色々な事を教えてくれた。

チルちゃん軍も様々な場所で戦いをし、勝っていった。


領内が明るくなり、収穫も増え、人も増えた。


マリーは家の近所で小さなパン屋を開いた。

パン屋で働いていた年下の無口な亭主が独立したのだ。

美味しいパンと、マリーの明るい接客のおかげで、店は繁盛した。

マリーの一番上の子の結婚も決まった。


チルちゃん軍も総勢十名となり、連戦連勝負け知らずだ。

私は十六歳になっていた。


そういえば、十六歳になったら、金持ちの商人の後妻にされるのだったっけ?


そろそろチルちゃん軍を連れて逃げようかな、と思っていた頃、すっかり好々爺となっていた執事が真っ青になって私に告げたのだ。


「旦那様が逃げ出されたそうです!」


 ☆


私のせいと言えば、私のせいなのかもしれない。


私が領地内をうろうろし、チルちゃん軍が闇を倒していったせいで、領内は明るくなり、収穫量も増え、人も増えたのだ。

すると、もちろん領内は潤っていく。

領主様にもお金がたっぷり入るのだ。

お金持ちになってきたお父様は調子に乗ってしまったのだ。


「エルサ様の妹君が」「私の妹?」

執事の説明に思わず疑問を挟む。

妹?


「ご存ではなかったのですか?」

戸惑ったように言う執事。

「てっきり、マリーが話していると思っておりましたが。エルサ様のお母上がお亡くなりになられた後、旦那様は再婚したのです。エルサ様には一つ年下の妹君がおられます」

「初めて聞いたわ」

多分、マリーはあまり興味がなくて忘れていたのだと思う。

マリーはそういう人だから・・・


執事は申し訳なさそうに眉を下げながら説明を続ける。

「そ、それで最近領地が豊かになってきましたので、その、旦那様も奥様も贅沢三昧をされていたようで、変な野望も持ってしまわれたのか、妹君は王族に嫁がせようと、その、色々と小細工などをされたようでして。

それが国王陛下の怒りをかい、処分が下される直前に、一家で、いえあの、エルサお嬢様は別ですが、旦那様ご夫婦と妹君のお三方が、その、有り金と多くの貴族と商人から騙し取った大金を持って、お逃げに・・・」


一度しか会っていないお父様だけど、まさかそんな事に。


口をぽかんと開けて固まっていると、執事はさらに申し訳なさそうに告げたのだ。


「そ、それで国王陛下がエルサお嬢様と、テスラー公爵閣下との結婚をお命じになられました」


誰それ。

なんで?



五話では終われそうもないことに今気がつきました。

は、八話ぐらい?

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