表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第1章 死神公爵と我が栄光のチルちゃん軍

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/91

第39話 私の勝ちよ

「お、おまえ。私に求婚の言葉を聞くの?」

「ええ。そうよ。教えてちょうだい」

「この私に、求婚の言葉を聞くというの?」

「ええ。そうよ。教えてちょうだい」

「本気で言っているの?」

「ええ。そうよ。教えてちょうだい」


口を開いたまま、ぽかんと私を見つめる老婆は、無垢な幼子の表情をしていた。

きっと子供の頃は、こんな顔をして、周りの大人を見上げ、まあ可愛いと言われていたのだ。ふふふ。


微笑ましい想像をして眺めていると、老婆は私を凝視した後、何度か瞬きをし「やめて!」と叫んだ。

そして私から逃げるように体を引くと、乙女のような仕草で首を振り「いやよ!」と叫んだ。


「変な想像をするのはやめてちょうだい。それに、何故、おまえなんかに求婚の言葉を教えないといけないのよ!冗談じゃないわ!あ、ああ、そうだわ。そうよ。ふふふ。私はおまえなんかに、求婚の言葉を教えないわ。ふふふ。おまえの三番目の望みはこれで叶わないわね。いい気味だわ。おほほほほ」


老婆は、おほほほほ、と高笑いを始めたけれど、私は「ああ」と気がつき、「そうね」と引いた。


「何が、そうね、よ。嫌な感じの言い方ね」

顔を顰める老婆に、私はあっさり謝った。


「いいえ。私が悪かったわ。ごめんなさい。気が付かなくて」

「どういう意味よ」


「自分の名前を覚えてない上に、どうして呪ってるのかも覚えてない人が、求婚の言葉だけを覚えてるわけがなかったわよね。ごめんなさい。気が付かなくて。覚えてない事を教えられるわけがないものね」


嫌がらせで言ったわけじゃない。真実、そう思って言ったのだ。心を読める老婆にだって、その事が分かっていたはずだ。

それなのに老婆は怒りの形相で、ゆらり、立ち上がった。


「覚えているわ」

老婆は断定した。


私は体を起こし「そうね、覚えているわよね」と、口では言ったのだけれど、心で他の事を思うのは止められないのだ。


絶対に覚えてないわ。強がってるとしか思えないわ。


「強がってなんかないわ!」

地団駄を踏む老婆。


「そんなに無理をしては駄目よ」

怒りながら消えるなんて、そんな事をさせたかったわけではないのだ。


「それじゃあ怒らせないでよ!私は求婚の言葉を覚えている!いいわね!それで!」

「もちろん、それでいいわよ」


私はにこやかに言ったのだ。

それなのに、老婆は私の心を読んで「まだ疑っているのね」と言った。


「勝手に心を読むのはやめて。覚えているでいいじゃない。私はそれでいいと思うわ」


そう言ったのに、老婆は悔しげに足を踏み鳴らす。

「本当に覚えているのよ!そう。求婚の言葉でしょ!求婚の言葉。求婚の言葉・・・」

萎んだ指を萎んだ唇に当て、老婆は考え続けた。


どうか無事に思い出してちょうだい、そして、彼女の心に平安を、と祈る私を睨みつけ、老婆は呟き続ける。

「求婚の言葉・・・求婚の言葉・・・」


そうしている間にも、老婆の存在が薄くなっている気がした。

きっと、もうすぐ消えるのだ。間に合わないかもしれない。


「うるさいわね。覚えているって言ったでしょ!」

「そうね。覚えているわよね。覚えているでいいわよ」

「覚えてるでいいって、何よ!」


駄目だ。少しも思い出せないみたいだ。でも私は何も出来ない。老婆の名前も知らないのだ。昔の求婚の事だって、何も知らない。

知らない?いいえ、そういえば。


「ねえ、あの銀細工は、求婚の相手にもらった物なのでしょ?」

「銀細工?」

老婆が不思議そうに問い返す。


「ええ。銀細工の花よ。私がさっき折っちゃったけれど、あれは求婚の時に贈られる物なのでしょ?エルビスが言っていたわ」

「銀細工の花・・・・」


考える老婆の手には、いつの間にか、あの銀細工の花があった。

折れてはいなかった。

元のままの姿だった。


老婆は銀細工の花をしばらく凝視し、

「この花は・・・」と、香りでも嗅ぐかのように、目を閉じ、顔を近づけた。

眉間に小さく皺が寄っている。

何かを思い出しかけているのだろうか。


私は老婆に語りかけた。

「あなたはその花を知っているの?私はその花を見たことがないのよ。今はもうない昔の花なのかしら。それとも何処か遠くの地で咲く花なのかしら。そんなに綺麗な花なのに、何色の花かも分からないなんて残念だわ」


「花の色?」老婆の眉間がぴくりと動いた。

静かに目を開け、銀細工の花をしばらく見つめた。

そして急に「白よ」と、驚いたように呟いた。


「白い花よ。そう。水辺に咲く可愛い花。お母様の好きな花。名前は・・・・オーフィリア!」


「オーフィリア」と私は繰り返した。「綺麗な名前ね。女性の名前みたいだわ」


老婆はハッとしたように私を見た。

そしてまたオーフィリアの銀細工を見た。


「そう。オーフィリア。私の名前。この花と同じ名前!お母様がつけてくださった名前!」


途端に、老婆がスッと背を伸ばした。


黒く萎びていた体が、伸びていき、ふっくらとした白く艶やかな肌へと変わっていく。

灰色に縮れ、カビのようにまだらに付いていた髪が、美しく波打つ豊かな金髪へと変わっていった。

薔薇色の頬。赤く瑞々しい唇。優美な眉。夢見るようなエメラルドの瞳。


唖然として見ていた私の前に現れたのは、若く美しく高貴な女性の姿だった。


古い絵画でしか見ないような大仰な形をした、緑色のドレスを着ていた。

美しい顔の前で、オーフィリアの花を優雅に揺らし、長いまつ毛を下ろし、目を閉じてその香りを味わっていた。

先ほどまで銀細工だった花は、たった今摘み取ったばかりのような、瑞々しい花へと変わっていた。


「オーフィリア。私の花。そう。あの方が、くれたのだわ。皆の前で跪いて、私にこれを差し出して求婚してくれたのよ」


目を閉じたまま、幸せそうに頬を染めたオーフィリアに、私は胸を躍らせた。求婚の言葉を思い出したのだ!


「求婚の言葉は?」


私はそっと聞いてみる。


「求婚の言葉は何だったの?」


ああ、昔の求婚の言葉が知れるなんて。こんな機会はもうないかもしれない。嬉しい。どんな言葉を使うのかしら。知りたい。求婚の言葉を!


期待する私の前で、オーフィリアはまるで深く心地良い眠りから覚めたかのように、目を開いた。

美しく澄んだエメラルドの瞳が、私を捉える。


「そう。求婚の言葉は」歌うようにオーフィリアが言う。


「求婚の言葉は?」うっとりと私も尋ねた。










「教えてあげない」











「え?」




何と言われたのか一瞬理解できずに、オーフィリアの美しい顔を見つめた。


教えてあげない?教えてあげない?教えてあげない?教えてあげない?


え?どういう事?教えてあげない?意味がよく分からないわ。どういう意味だったかしら。昔の言葉?古語だったかしら?どうしよう。理解できないわ。教えてあげないって、どいういう意味?


混乱する私に向かい、オーフェリアが淑やかに、また同じ事を言った。


「教えてあげない」


え?

また分からない言葉を言っているわ。どうしよう。やはり、昔の人とは話が出来ないという事なのかしら。


「教えてあげない、と言っているのよ」オーフェリアが、また言った。

「やはり古語?」

「エルサ。逃げるのはおやめなさい。分かっているはずよ。私は、あなたに、求婚の言葉を教えないって言っているのよ」


「求婚の言葉を教えない?」


じっくりその言葉について考えてみる。でも、やはり分からない。

だって、意味が分からないもの。求婚の言葉を教えない?どうして?


「どうして?」

唖然としてオーフィリアを見つめる。

すると、オーフィリアは嬉しそうに笑ったのだ。


「ふふふ。その顔!うふふ。おほほほほ!ああ、楽しいわ。嬉しいわ。いい気分だわ。幸せだわ。ええ。おまえには教えないわ」


オーフィリアは楽しげにそう言うと、白い花に頬を寄せた。


「だって、これは私のものだもの。誰にも教えてあげない。私だけのものよ」


切なげに目を閉じ、幸せそうに微笑むと、光の粒となり消えていった。


消え際に「私の勝ちよ」と高笑いを残して。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ