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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第1章 死神公爵と我が栄光のチルちゃん軍

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第38話 三番目の望み

ここに私を閉じ込めた老婆が、シクシクと泣き続けているので、他に何もする事がない私は立ち上がり、辺りを歩きまわってみた。

けれど、何処にも行けなかった。


前に進むと、いつの間にか後ろに戻っている。右に行っても左に行っても同じだった。

地面は硬い。空には手が届かない。

どうやればここから出られるのか、全然分からない。

出る方法はないのだろうか。


「ないわよ」

やっと泣き止んだ老婆が、自分の周りに残る闇をかき集めながらポツリと言った。

「だから、怯えなさい。絶望しなさい。取り乱しなさい」

そして、私を見て、ニヤッと笑った。「もうおまえは何処にも行けないのだから、泣き喚きなさい」

でも、


泣いたのは、あなたの方よね。


「うるさいわね!本当に嫌な女!」

老婆が私を睨んだ。「その老婆って言うのもやめてちょうだい」


じゃあ、名前を教えて。


「・・・名前なんて忘れたわ」


本当に?


「本当よ!どれだけ長くここにいたと思ってるのよ!もう全部忘れたわ!」


じゃあ何を呪ってたの?


尋ねると、老婆は更に顔を険しく歪め、

「あの男は呪ってやらなくてはいけないわ。あの男と、その子供達。ずっと呪わなければ」と呟いた。


あの男って誰なの?何をされたの?何があったの?


「そんなの忘れたわよ!ともかく呪わなくてはいけないのよ!」


ふうん。


「なに、その言い方。嫌な言い方。あなたも嫌な奴よね」


そうね、時々言われるわ。嫌な奴って。と、私はまた老婆の隣に腰を下ろした。


「ねえ!近くに来ないでよ!もっとあっちに行って!」

老婆は顔を顰めるけれど、


あっちに行こうとすると、こっちに来ちゃうのよ。あなたの世界、狭いわよね。


「前はもっと広かったわよ!これだけしか残ってないんだから、仕方ないでしょ!」


老婆が萎びた手のひらに載せて差し出す闇を見て、私は頷いた。

そうね、それっぽっちじゃ仕方ないわね。


「そんな言い方しないで。嫌な言い方!」


怒らないで。あなたずっと怒ってばっかり。何か最後にやりたい事はないの?


喚いてばかりの老婆が、少し気の毒になり聞いてみたけれど、

「おまえを呪い殺したい」

暗く光る目で、上目遣いに睨め付けられた。

私は、老婆の掌の上にある、ささやかな闇に目をやった。


それっぽっちしか残ってないけど、出来るの?


老婆は恥じ入るように、残った闇をたちまち自分の後ろに隠してしまった。そして俯いたまま、もうこちらを見ない。


私は、彼女を虐めたいわけではないのだ。

もうすぐ消えてしまうのなら、今よりも、もう少し良い状態にしてあげたい気持ちもあった。

私は基本的に親切なのだ。

閉じ込められて他にやる事がないから・・・・というだけではないのだ。

暇だから・・・・と言うだけでもないのだ。


「閉じ込められて暇だからって、私に話しかけないで!静かにして!もうすぐ私は消えるのよ!おまえなんか、ここに連れて来なければ良かったわ」

老婆はこちらを見ず、苛立たしげに言った。


それなら、ここから私を出してよ。


もしかして出られるかもと、期待したけれど、

「嫌よ。出すものですか」

と歯を剥いていう彼女が、最初見た時よりも、もっと小さくなっている気がした。

それで、分かったのだ。


なるほど。あなたはもう、私を外に追い出す力も残ってないのね。


何も言い返さず俯いているのが、答えになった。

私はここから出るのを諦めた方が良いらしい。

分かったわ。

でも、それはそれとして、あなたの二番目の望みを言ってみてよ。私を呪い殺すのはもう無理そうなんだから、二番目から考えていきましょうよ。


「おまえを絶望させたい」


絶望かあ。


絶望について考えてみた。

正直、よく分からない。


絶望をした事がなかった。

何かが起こっても、すぐに次にやる事を考えていた。

止まっている暇もなかった。絶望してる暇がなかったのだ。

貴族の父に遠ざけられた娘で、十六歳になれば後妻に出されると言い渡され、闇を倒したがる謎のチルちゃん軍がいて、謎の行動を起こすマリーに育てられたのだ。


幸せだったけれど、目の前で起こる出来事や、起こりそうな出来事をどうすればいいのか、判断を迫られる日々だった。

周りの人達は親切だったけれど、私が考えなければ、何も解決しなかった。

私を救うのは私で、誰かを救うのも私だった。


一番良い方法など考えるのはやめようと思ったのは、いつだったのか。

そんなもの考えたって、仕方がないのだ。一番良かった方法は、後になってみれば、それほど良くはない方法へとなっていく。

だから一番良い方法なんて、考える必要はないのだ。どの方法を選んだってかまわない。それで、どうにかしていくだけなのだ。

後悔する必要もない。出来ない事を嘆く必要もない。全てを望んだって無理なのだ。私の手には限りがある。手が届かない事は、他の誰かの領分なのだ。


私が一番に考えるべきなのは、チルちゃん達の事で、それ以外の事はキッパリ諦めようと決意したのは、いつだったのか。


「おまえはもう、二度と、そのチルちゃん達とやらにも会えないのよ。その事で絶望しなさい」


絶望ねえ。

でも、チルちゃん達と二度と会えなくなるかもしれないと予想はしていたのだ。こんな形で会えなくなるとは思っていなかったけれど。ちゃんと、置き手紙を書いて、チルちゃん達の事を旦那様にお願いしてある。

今、私の胸にあるのは、やる事はやったと言う満足感だ。あとは、まあ、なるようになるわ。私はいないのだから、考えるのは、チルちゃん達や旦那様の番なのだ。もう私の手は離れている。仕方がない。だから、みんなに任せるわ。大丈夫。みんななら上手くやれる。頑張れ。


老婆が不満そうに鼻を鳴らした。

「おまえの旦那様とやらにも、二度と会えないのよ」


そうね。でも、旦那様にも置き手紙を書いてきたわ。それに旦那様の呪いは解けるのでしょ?ふふふ。良かった。私の勝ちね。後の事は旦那様が考える事よ。もう私の手は離れたのだ。旦那様、頑張れ。

そして私の胸にあるのは、やはり満足感だけだった。


老婆は苛立たしげに

「ふん!きっと、その男はおまえがいなくなったのを嘆き、幸せにはなれないわ。嘆き続けるだけの人生になるのよ。ふふふ。いい気味ね。嘆け!悲しめ!そうだわ、以前にも、そんな男がいたわね。私に跪き、彼女の所へ連れて行ってくれと願った男がいたわ。あれはいつだったかしら」


老婆は顔を上げ、何かを思い出そうとするように遠くをみた。


「彼女がいない人生はもう耐えられない、私も呪って彼女の元へ連れていってくれと願った男がいたはずよ。だから強く呪ってあげたわ。ふふふ。いつだったかしら。ふん。まあ、いいわ。おまえの男もいずれ、そうなるもの。哀れな顔をして、泉の前で跪くのよ。ふふふ。ああ、良い気分になってきたわ。楽しいわ。うふふ」


老婆はそう言って、ゆっくりと横たわり、楽しげな笑みを浮かべた。


でも、あなたはもう消えるのなら、私の旦那様が泉の前に跪いても、あなたはもういないのでしょ。旦那様は二度と呪われないわ。


楽しげな笑みを消した老婆が、じろりと私を睨む。

「おまえが絶望しないのなら、おまえの男の絶望を想像して、楽しみながら消え行く事にするわ」


ふうん。


私は老婆の隣に横たわった。

もうすぐ彼女は消えるのだろう。

一番の望みも、二番の望みも叶えてあげられないけれど、彼女がそれでいいのなら、それでもいいのだ。


「ねえ!」と、老婆が苛立たしげに声を上げた。

「一番とか二番とか、あなた、うるさいわ。それなら、あなたの一番の望みは何なのよ。笑ってあげるから言ってみなさいよ」


一番?そうね、やっぱり一番は旦那様の呪いが解ける事よ。もうすぐ願いは叶うわ。うふふ。


横たわっていた老婆が、勢いよく起きた。


「じゃあ、二番は何よ!?」


二番は、そうねえ、やっぱりチルちゃん達をムチムチに育てて、好きなだけ闇を消させて上げる事かしらね。あら、これも、もう叶ってるわね。うふふ。これからも、チルちゃん達なら立派にやっていくと思うわ。次の魔力提供者を探してもらえるように旦那様に頼んでおいたし、まあ何とかなるわよ。うふふ。


「それじゃあ三番目を言ってみなさいよ!」


三番目ねえ。何かしらねえ。そうねえ。もっと求婚の言葉を集めたかったわね。


「求婚の言葉?何故、そんなものを集めるの?」

意外な答えだったのか、老婆が不思議そうに首を傾げる。


何故って、集めたいからよ。そうねえ。趣味?なのかしらね。


「趣味ぃ?」


老婆が困惑した顔で私を見ている。

「そうだわ」と声に出した私は体を起こし、老婆に言った。


「あなたの求婚の言葉を教えてちょうだい」


「はぁああああ?」

老婆は、目と口を大きく開いて固まった。


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