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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第1章 死神公爵と我が栄光のチルちゃん軍

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第37話 だって、あなたが言ったから

折れた銀細工の花から、一気に吹き出してきたのは、あの、濃いクリーム状の闇だった。


闇は私に降り注ぐ。でも私の心には、恐怖も絶望も湧いてこなかった。

だって、これは最後の闇だ。いずれ止まる。ほら、止まった。これで終わり。これ以上は闇がないのだ。


私は闇に埋もれながらチルちゃん軍に言ったのだ。

「さあ、これで最後よ。栄光のチルちゃん軍!最強の光の戦士達!この闇を倒せば終わりよ。やれるわね!」

チルちゃん達は頷いて、一斉に闇を攻撃し始める。可愛い。


「何をするのよ!酷いわ!全部台無しじゃない!折角作った私の闇よ!どれだけ時間をかけて作り出したと思っているのよ!あの男をもっと苦しめるのよ!」


闇にまみれた女の細い腕が、背中から私にしがみつき、私の体を締め付けた。

苦しいけれど、怖くはなかった。私の心はまだ可愛いで満たされている。だから、笑って言ったのだ。


「仕方がないわ。諦めなさい。可愛いが勝ったのよ」

「何を言ってるのよ!わけがわからないわ!」


女は締め付ける私の体に尖った指を食い込ませる。指が私の体の中に沈み込んでいく。痛い。苦しい。でも、それが、どうしたと言うのだろう。恐怖はない。だってもうすぐ私たちが勝つのだ。

私はチルちゃん軍の戦いを見つめ微笑んでみせた。頑張れ。可愛い。


「許さない。おまえを呪ってやる」

女は私の耳元で囁いた。


「私を呪っても、この闇を片付けたら、きっと旦那様は呪いから解き放たれるのでしょ?ふふん。それなら私達の勝ちね。あなたは我が栄光のチルちゃん軍にひれ伏せばいいわ」

「生意気な女め、許さない。許さない」


女の手が私の中に沈み込む。痛い。でも、私は一歩も引かなかった。

「許さないのは私の方よ。旦那様に辛い思いをさせてきたあなたを、私だって許さないわ」

何故、公爵家を呪っているのかは知らないけれど、私だってあなたに怒っているのだ。とても。とても!


吹き出した闇が少しずつ消えていく。

チルちゃん軍の何人かが、魔力を欲しそうに私を見る。でも来ない。

気遣いが出来るチルちゃん軍は、きっと私の後ろが気になって、魔力をもらいに行ってっも良いものなのか、悩んでいるのだ。


私は女にしがみつかれたまま、にこやかに指を差し出した。

「私はここから動けないけど、大丈夫よ。こっちに来て。後ろの人は気にしないで。さあ、並んでちょうだい。好きなだけ魔力をあげるわ」

チルちゃん達は、女をチラチラ気にしながらも、私の指から魔力を吸った。

その間も言い争う私と後ろの女。


「許さない!許さない!」

「許さないのは私の方よ」

「呪ってやる!呪ってやる!」

「私だってあなたを呪ってやるわ」

「おまえを呪い殺してやる」

「あら。私が呪い殺されたら、あなたと同じ死者になるわね。最後はどっちが勝つかしら。言っておくけれど、殺されたって私はあなたを許さないわよ。私があなたを呪ってやるわ。そして必ず私が勝つわ」


私は女に言い渡した。

本気だった。必ず勝ってみせる。


エルビスが、ガタガタ震えながら、「奥様、奥様、どうぞ、落ち着いて、死霊と口喧嘩をするなど、おやめください」と懇願していた。

ルイスはまだ固まったままだ。


私の後ろの女は「呪ってやる。このままじゃすまさない」などと言い続けていたが、闇が消えていくごとに、女の力は弱くなっていく。声も小さくなっていく。もう少しだ。最後に勝つのは生者なのだ。


しかし、私の魔力も少なくなっていく。お腹が鳴った。チルちゃん軍は、まだ並んでいる。

飴はまだあったかしら。ルイスは頼めば持ってきてくれるかしら?


「おまえ、魔力が少なくなっているわね」と、女が意地悪そうに呟いた。

「そうかしら。お腹は空いてきたわね。飴を食べるわ。ルイス!そこにある飴を持ってきてよ」

でも、ルイスは、えー何言ってんのと言った顔をして、私にしがみついた女の方をチラリと見た。


「彼女のことは気にしないで。ただの恥ずかしがり屋よ。私の後ろが好きなんですって。そっとしてあげてちょうだい。だから、早く飴を持ってきて」

女の指が苛立たしげに私の体に食い込んでいく。ルイスはまだ動けない。


なるほど。それでは、あの魔法を出すしかないわね。

私は憂いを帯びた顔をして、握りしめていた銀細工から右手を離し、ルイスの方に手をかざした。


「ルイス」と鋭く名前を呼びかける。ルイスの体が、ビクッと動く。

「あなたは私の護衛よ」

ルイスの顔が一瞬、はっとなる。

「護衛は私の側でいるものでしょ」

「・・・ああ。そうだ」

ルイスの体がゆっくり動き出す。

よし。ルイス。そして、よし。私の魔法。


「あ、でも、飴は持ってきてね。そこに置いてあるカバンに入ってるでしょ。そうそうそれそれ。それを持ってこっちに来て」

「やっぱり護衛じゃなくて、荷物持ちだと思ってんじゃないのか?」


少しいつもの調子が戻ってきたルイスはぶつぶつ言うけれど、別にどっちでもいいのだ。チルちゃん達は、今も魔力を吸っている。早くそれを!もう魔力が!


「おまえ、魔力がもうないな」

女が低い声で言った。


何か言い返そうとした時、女がゲラゲラ笑い出し、私を後ろへ強く引いた。不意を突かれて、体に力が入らない。後ろへと倒れ込む。後ろには泉がある。女はゲラゲラ笑い続ける。


泉へと落ちていきながら、月を見た。慌てた顔をしたチルちゃん達を見た。こちらへ向かって走るルイスの姿を、ふらりと立ち上がったエルビスの姿を、遠くから走ってくる旦那様の姿を、全て目に焼き付けた。


水飛沫が上がり、泉の奥へと引き摺り込まれる。

苦しい息の中、立ち上る泡を見つめる私の頭の片隅に浮かび上がったのは、走る旦那様に抱えられていたあの時の、旦那様の熱く湿った体や、呼吸の音や、泣いているような震えだった。


旦那様!


心の中で叫んだ瞬間、意識が途切れていった。








 ☆








気がつけば、暗闇だった。

目を開けても、閉じても、暗闇だった。

背中に地面があるようだった。

立ち上がり、辺りを見回してみたけれど、暗闇だった。


水の中ではないようだった。息は苦しくない。体も濡れてなかった。

先ほど、泉に引き摺り込まれ、びしょ濡れになったはずなのに、どういう事だろう。

ここは夢の中なのだろうか。

それとも私はもう死んでしまい、ここは死者の世界なのだろうか。


自分の手を見てみると、暗闇の中に、薄ぼんやりと浮かんで見えた。


ここはどこだろう。


「ここは私の世界よ」

足元から女の声がした。

みると、酷く萎びた老婆が闇に埋もれるように横たわっていた。

先程まではいなかったはずだ。


いつからここにいるのだろう。


「私はずっとここにいたわ。おまえが見えていなかっただけよ」


それなら、私が見えないものが、他にも、ここにはあるのだろうか。


「何もないわ。ここにあるのは、おまえと私だけ。私はおまえを私の世界に閉じ込めてやったのよ」


萎びた老婆は、ひどい笑顔を浮かべた。

老婆ははすぐに顔を顰めた。

「随分酷いことを言うのね。萎びた老婆ですって?ふん。おまえもここにいればいずれこうなるのよ」


心で思っただけの言葉が、老婆には聞こえているらしかった。


「ふん。そうよ。おまえが何を考えているのか全部分かるわ」


それは便利だ。いちいち喋らなくても良いなんて。


老婆は嫌そうな顔をした。

「怖がりなさいよ」


どうして?


「怖いでしょ?おまえはここに閉じ込められたのよ。二度と出られないわ。そして、私に心を全部読まれているのよ」


ふうん。


「何よそれ!怖がりなさいよ!」


そう言われても、怖くないのだ。

私は少し困ってしまい、横たわる老婆の隣に腰を下ろす。


「どうして隣に座るのよ」


だって、ここでは、あなたと二人きりなのでしょ。それなら隣に座っても良いじゃない。


老婆は、ぷんとそっぽを向いた。子供っぽい仕草だった。

「二人きりなのは今だけよ。私はもうすぐ消えて、おまえは一人きりになるのよ」


消えるの?


「おまえのせいでしょ!おまえが私の溜めてきた闇を消したんじゃない!あの妖精達と!」


老婆は自分の周りにある闇をかき集め、「残ってるのはこれだけよ。これも、もうすぐ消えるわ。そうしたら、おまえはここに一人取り残されるのよ。一人きりで。永遠にね」


ふうん。と私は思った。

この老婆が消えると言うのなら、旦那様の呪いは解けるのだろう。良かった。私は勝ったのだ。そしてあなたは負けたのね。ふふん。


老婆は、苦しげに上体を起こし、私を睨みつけた。

「本当に嫌な女。勝ったとか負けたとか。ふん!確かにおまえの男は自由になったわ。でも、おまえはここに閉じ込められたのよ。永遠にね!だから、少しぐらい怖がりなさいよ!ずっと一人きりなのよ!怖いでしょ!」


「そう言われてもね」困惑した私は、声に出して言ったのだ。


物心ついた時からずっと、チルちゃん達が側にいた。マリーもマリーの家族も側にいた。道を歩けば知り合いがいた。何処に行っても誰かがいた。公爵様の屋敷に来てからも、いつも誰かが側にいた。私の周りはいつも騒がしかったのだ。

よく考えてみれば、一人きりになった事なんて一度もない。

だから怖いだろうと言われても、本当によく分からない。今だって、一人じゃない。騒々しい老婆と二人なのだ。


「分からないですって!なんて想像力のない女なのかしら。それに一瞬でも一人になった事がないなんて、そんなわけないでしょ!さあ、考えて見なさいよ!一人になった瞬間の事を!あるはずよ!」


えー。そう言われても、チルちゃん達がたいてい側にいたし。

あ!でも、お手洗いに行っている時は、チルちゃん達は外で待っててくれるわね。

お手洗いでいる時の事を考えれば良いのかしら?えーと。


「やめてよ!やめて!私はもうすぐ消えるのよ!そんな私に何を見せようとしてるのよ!酷いわ!なんて酷い女なのかしら!」


老婆が泣きながら訴えてきた。

だって、あなたが考えろって、言ったから・・・


私は戸惑い、老婆を見下ろしたのだ。




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