表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第1章 死神公爵と我が栄光のチルちゃん軍

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/91

第36話 私の心を満たすもの

大好きなマリー。


まだ赤ん坊だった私と自分の子を連れ、手を入れてはいけないと言われた光の泉に手を入れ、ぐるぐると掻き回してみたマリー。


私の手を、光の泉に入れ、ぐるぐるさせた迂闊(うかつ)なマリー。


その時、泉の中で私の手にしがみついていた光の玉が、私の魔力を吸い続け、何年も経った後、花が咲くように玉が開き、中から可愛いチルちゃんが現れたとさ。めでたし。めでたし。


 ☆


そして今、闇の泉を覗き込んでいた私の頭の中に、何度もマリーが楽しげに話してくれた、あの時の言葉が、啓示のように浮かんでいた。


「あなたもぐるぐるしてみたいの?じゃあやってみましょうか。はい、ぐるぐるぐるー」


・・・やってみる?と、私は自分に問いかける。


どうすれば前に進めるのか分からないこの状況。やれる事はやってみる?無駄かもしれないけれど、やってみる?とんでもない事になるかもしれないけれど、やってみる?闇が生まれる泉に手を入れるのは、正直ためらってしまうけれど。旦那様の呪いを終わらせる為に、やってみる?


やってみるわ。


口の中の飴を噛み砕き、魔力を満たすと、私は泉の前に膝をついた。

チルちゃんがタタタと走って隣に立った。チル友ちゃん達も泉を囲む。

皆、キリリと私を見つめている。

可愛い。とても可愛い。


私はまた泉に目を落とす。


マリーなら、きっと、ためらいなく、この泉に手を入れる。これから何が湧き起こるのか、ワクワクした瞳をして、ぐるぐる回す。そして私はそんな迂闊(うかつ)なマリーに育てられた娘なのだ。だから私にも出来る。


手を泉の方へと差し出していく。


「奥様!」後ろから、焦ったエルビスの声がする。


「そこから動いては駄目よ!」

振り向かず、叫び返す。


急がなくては。旦那様が来る前に。


水面に指が触れようとした瞬間、隣にいたチルちゃんが、金色に光る槍を私の手の隣に添え、私を見上げた。

大きく開いた目。ふっくらとしたほっぺ。ぐっと閉じた柔らかな唇。全てが可愛い。


「一緒にぐるぐるする?」

尋ねると、緊張した面持ちで、大きく頷いた。


「じゃあ、いくわよ」

私とチルちゃんは泉を見つめると、一気に槍と手を突っ込んだ。


「奥様!」

エルビスがまた叫ぶ。


水が驚くほど冷たい。

でも、そんな事はどうでもいいのだ。

私とチルちゃんは息を合わせて泉を回す。


「ぐるぐるぐるーぐるぐるぐるー」


月に照らされた泉の中で、透明だった何かが揺らぐ。不意に何かが姿を現す。

これは何?


鈍く、銀色に光る、一輪の花に見えた。


それが私とチルちゃんが起こした渦に巻かれ、ゆっくりと浮かび上がってきたのだ。

私は、腕を伸ばして、それを取った。


冷たい。

まるで氷の花のようだ。


水面に持ち上げると、花弁から濃い闇の粒が、朝露のように零れ落ちた。


とうとう捕まえた。

たぶんこれが、公爵家に蔓延る闇の出所(でどころ)で、これが旦那様の呪いの始まりだ。


私は銀の花をよく見ようと顔に近づけたが、影になってよく見えない。

月は、私の後ろへと少し傾いていた。

それで泉に背を向け、月に向かうと、銀の花を翳したのだ。


「奥様。それは何ですか?」

ピクニック会場にいるエルビスが、震える声で尋ねてくる。

「泉の中にあったのか?」

ルイスの声も、掠れている。


「そう。泉の中にあったの。呪いはここから生まれているわ。でも、これが何なのかよく分からない」


これは、何の花なのかしら。先の尖った花弁が五枚。派手さはない。どちらかというと、野に咲く花のように、可愛らしい。細い茎が伸びている。小さな葉が二枚ついている。


エルビスの声がする。

「銀細工、でしょうか。昔、貴族の間で、好きな女性に、その女性の好きな花を銀細工で作らせ贈る事が流行ったそうです。今では芝居の中でしか見ることがありませんが、枯れない花は変わらぬ愛を表していると聞いた事があります。求婚の時などに贈ったそうです」

「求婚の時に・・」


でも、何故、この銀の花が、泉の中にあり、呪いを生み続けているのだろうか。分からない。この銀細工の持ち主が、公爵家を呪って死んだのだろうか。それは銀細工を贈る男?それとも贈られた女?

それに、この呪いは、どうすれば終わらせられるの?


針を刺した指先から血が盛り上がるように、呪いが銀細工の花から盛り上がり生まれ、零れ落ちていく。


「壊せばいいのかしら」

「わ、私には分かりません」

「俺も分かんねーよ」


誰も、何も分からない。

それなら壊してみようと決めたのだ。

呪いは今日、終わらせる。


左手で銀細工の茎を持ち、右手で繊細な作りの花を手の平で包み込むと、私は一気に両手に力を込め・・・・込めようとしたのだ。

でも、誰かが、誰もいないはずの後ろから、私の肩に手を置いた。


「だめよ」

女の声が、耳元で囁いた。

「それを壊しては、だめ」

少し笑いを含んだ、揶揄うような声だった。


肩から、冷たくて鋭いものが私の中に入り込んでくる。

「だめよ」

念を押すように、女は言いうと、私の肩をキュッと握った。


「お、奥様」

どこか悲鳴のようなエルビスの声が遠くで聞こえる。


「誰も動いてはだめよ」

女は楽しげに命令した。


ふと、見れば、エルビスとルイスが立ち上がりかけたまま、固まっている。

二人の顔にあるのは、驚愕?恐怖?


銀細工を持つ私の手が震え出した。体も微かに震えている。女の触る肩から体が冷たくなっていく。

これは恐怖?


私の後ろにいる何かは、私の肩に冷たく鋭い何かを更に食い込ませていく。私の中に、私以外の何かが入ろうとしている。


「外に出たのは久しぶり。ねえ。おまえはとても邪魔だったわ。でも、これで終わりよ。分かるわね。おまえは、もう、私のもの」


私の左の手首につけていた、ロザリーにもらった魅了避けのお守りが、濁った青から赤く染まっていくのが見えた。今、『魅了』が使われている。とても強力な『魅了』だった。お守りは、まるで滴り落ちたばかりの血のような赤へと染まり、耐えきれず、砕け散った。


ぼんやりとしていく頭の中で、きっと、旦那様のお父様とお母様も、同じ事をされたのだと理解した。


「そうよ」

口にしていない私の考えに、女は楽しげに同意する。

先ほどより、女の息遣いが近くに感じた。女の髪が、私の耳や頬をくすぐった。おかしな事に、それがとても心地良く感じてくる。


「あの二人も私のものにしたのよ。もちろん、おまえも私のものよ。あの男の血を継ぐものは、もっともっと苦しめてあげなくちゃ。ね。おまえもそう思うでしょ?さあ。力を抜いて。そうしたら、もう、怖くないわ」


腕の力が抜けていく。銀細工を持つ手が下がっていく。

身体に恐怖が満ちていく。少しずつ、私の体が支配されていく。

でも私はまだ考え続けていた。この女から抜け出す方法は?体はもうほとんど動かない。でも目はまだ動く。何が見える?


その時。


チルちゃんが私の視界に飛び込んできた。

ほんのり潤んだ大きな目で私をまっすぐ見つめている。ほっぺは桃色よりも赤く、ふっくらとした曲線を作っている。柔らかそうな唇が大きく開き、並んだ小さな歯も、可愛い舌も、全部見える。


チルちゃんは、私を一生懸命見つめた後、眉間に可愛い皺を寄せ、片足を引き、ムチムチとした手に持った光る槍を構え、私の肩の上に向かって一気に槍を刺したのだ。


「あら、なんて幼くて、ちっぽけな光の妖精かしら」

女は、揶揄するように笑っただけで、少しも動揺していない。


私の視界の端に、チル友ちゃん達も現れる。

皆、真剣な顔で武器を構え、女に向かって攻撃を始めた。


「ああ、うるさい妖精ども。それほどこの娘が気に入っているの?でもねえ、そんな幼い光で、私の作った闇が消せるのかしら。ふふふ。無理よ。坊やたち」


ふふふ。ふふふ。と女が笑う。

私もふふふ。ふふふ。と笑ったのだ。


楽しげにしていた女が笑うのをピタリとやめた。

でも、私は笑い続ける。


ふふふ。ふふふ。ふふふ。ふふふ。


「何がおかしいの?恐怖で頭がおかしくなったのかしら」

女が少し不快げに言った。


ふふふ。ふふふ。と笑い続ける私。


「やめなさい。うるさいわ!」

女が私の肩に手を食い込ませる。


それでも私は笑うのをやめなかった。


「何だと言うの!何がそんなにおかしいの!?やめなさい!」

苛立った女が叫ふ。


私はそれでも笑い続ける。

だって、今、初めて、戦うチルちゃん達を正面から見たのだ。

いつも戦うチルちゃん軍を、私は横や後ろからしか見ていなかった。だから、知らなかったのだ。え?チルちゃん達って、いつもこんな可愛い顔をして戦っていたの?真剣な顔も、瞳も、姿も、何もかもが新鮮で可愛い。

可愛い。可愛い。笑ってしまうほど可愛い。

可愛いを見つめていると、胸が温かくなり、恐怖で強張っていた体中が温かくなる。


「ふふふ。なんてこと。可愛いは恐怖に勝つのよ!」

「な、何を言っているの?」


戸惑う女の声を無視し、私は降りていた両手を上げる。

手には銀細工の花がまだある。


「やめろ!それを離せ!」

女がまた肩を強く握る。

私の中に、冷たく鋭い何かが更に入っていく。


でも、私の心はチルちゃん軍の可愛さで満たされてる。

手が動く。支配されていない。私はまだ私のものだ。


「これで終わりよ!」

私は笑いながら、銀細工を、へし折った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ