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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第1章 死神公爵と我が栄光のチルちゃん軍

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第35話 迂闊(うかつ)なマリー

「ピクニック・・・会場・・・・?」


エルビスの疑問符と共に、チルちゃん軍は一斉に武器を取り出した。

猫のパイも「シャーーーーーーー!」と唸る。かっこいい。


「ここよ。まず、ここの闇を消し去るのよ」


猫のパイは、適当に、その辺の闇を「シャーーーーーーー!」しているけれど、頼もしいチルちゃん軍は、ほっぺをぷるんとさせながら、私が指し示した場所の闇を、手際よく消していく。


あっと言うまに、闇に満ちたこの場所に、四角く切り取られた安全地帯が作られる。

ここが今夜のピクニック会場なのだ。

私は会場にバスケットと鞄を置くと、ふらつくエルビスとルイスも押し込めた。


「敷き布は持ってきてくれたわよね。ああ、これね」

エルビスのバスケットの上に置いてあった敷き布を取り出し、地面に広げる。

「さあ、バスケットを置いて。二人とも、ここに座って。水はあるのでしょ?まず、水を飲んで。チルちゃん達は、二人についてる闇を消してあげて」


フラフラと指示に従うエルビスとルイスを、チルちゃん軍が囲みこみ、一斉に攻撃をした。

二人に纏わりついていた闇は、すぐ消えた。


「さすがよ、皆んな。それじゃあ、あの泉の闇もやりましょう。今日は、まわりの闇は、置いといていいわ。泉の闇だけをやりましょう。泉の闇が無くなれば、きっともう闇は湧かないわ」


チルちゃん軍は、盛り上がったクリーム状の濃い闇を見あげた。

そして、お互いに顔を見合わせる。

足元がモゾモゾしている。

弱気な囁き声が「チルチル・・」と聞こえる。


あ、怖気付いてる。と思った私は、すかさず最大魔法を発動した。


「光の戦士達よ!」

「何言ってんだよ、奥様」


闇の影響から立ち直ったルイスが、呆れたように反応したけれど、チルちゃん軍だって反応したのだ。ハッとした顔で私を見上げる。

この魔法の威力はすごいのだ。


「光の戦士達よ。大丈夫。あなた達は強い。必ず、勝てるわ。だって、あなた達は最強の光の戦士達なのよ。それに、これを見てちょうだい」


私が指し示す先には、大きなバスケットが五つも並んでいるのだ。


「この前は小さなバスケットが一つだけしかなかったわ。でも今日は大きいのが五つもあるのよ」

チルちゃん軍の顔が希望に満ちる。


「それに、飴もたっぷりあるわ!」

飴が入った重い鞄を持ち上げてみせる。

チルちゃん軍の顔が、更に希望で輝いていく。


「あなた達は、最強の光の戦士。勝ち続けた栄光のチルちゃん軍よ。私もついている。やりましょう!」


チルちゃん軍は、武器を構え、泉の闇に向かって一斉に走り出した。


月明かりの下、ムチムチとした後ろ姿を見守る私。

可愛い。

チョロいかどうかは置いておく。

どっちでもいいのだ。可愛いのだから。後の事はどっちでもいい。


ピクニック会場の片隅から、全てを見ていた猫のパイが、冷めた視線をよこしてきたけれど、ローズ派の一番である私は、二番に対して泰然とした態度で見返したのだ。

ふふん。


そんな猫のパイも、軽く馬鹿にしたような顔を残して、戦いに向かって駆けて行った。頑張れ。


「奥様。光の戦士とは、本当に、いるのですか?」

敷き布の上に腰を下ろし、まだ息を乱したエルビスが、呟くように尋ねてきた。


「いるわ。もう戦いは始まっているのよ」


 ☆


戦いは熾烈だった。


泉の上に盛り上がる、クリーム状の闇に向かい、チルちゃん軍が次々に光の矢を飛ばし、光の槍を深く差し、光の剣で切りつけた。

猫のパイも「シャーーーーーー!」を出す。

私もバスケットの蓋を開けたのだ。


「まあ!すごいわ!」

料理長の新作ドーナッツは、穴の開いていないハート型のドーナッツだった!

こんな形のドーナッツを見たのは初めてだ。

おまけに、表にチョコレートが塗られているのだ。チョコレートの色はそれぞれ全部で三色。白と赤と桃色だ。可愛い。

その上、そのチョコレートの上には、赤や黄色や緑色の、乾燥させた甘酸っぱい果物を削ったものが散りばめられているのだ。


すごい。すごいわ。ドーナッツが宝石のようだわ。なんて華やかなドーナッツなのかしら。

一口齧ると、口の中が、色々な味でいっぱいになった。その上、このドーナッツの中にはクリームが詰められている!

なんて事!?これはもう芸術だわ、料理長!


感動に打ち震える私に「なあ、奥様」と、隣に腰を下ろしたルイスが声をかけてきた。

「なあに?」

「戦いが始まってるって言ったよなあ」

私は、チルちゃん軍の戦いに目をやり、厳しい顔で頷いた。

「始まっているわ」

頑張れチルちゃん軍。猫のパイも頑張れ。このドーナッツ美味しい!


「俺には猫が、暗いとこで、シャーとか言ってるのしか見えないんだけど」

「あなた達には、そうとしか見えないかもしれないわね。残念だわ」

本当に残念だ。

あの可愛いムチムチとした姿で弓を構え、槍を回し、剣を振り下ろす様が見られないなんて。

可愛くて、強い、あの勇姿。クリーム状の闇が、少し減っているのが分からないのだろうか。


自由隊員猫のパイも頑張っている。シャーーーー!を繰り出す度に、闇が震え、少し闇が弱っている。猫のパイも最初に比べ、確実に強くなったのだ。栄養状態が良くなったせいだろうか。それともローズのおかげ?


「もしかして、あの猫が光の戦士なのか?」

「ふふふ。何を馬鹿な事を言っているの?ルイス。猫のパイはただの自由隊員よ」

「自由隊員?」

「ええ。光の戦士達の戦いに、自由に参加してくる自由隊員よ」


息が整ってきたエルビスが、

「光の戦士の他に、様々な隊員がいるのですか?」と聞いてきた。

「それほど沢山はいないわ。自由隊員以外には、見習い隊員がいるだけよ」ここに。

私は見習い隊員ルイスを見て頷いた。


見習い隊員は鼻に皺を寄せる。

「また適当に言ってるだけじゃないのか?奥様。やっぱ、これ、ただの夜のピクニックだろ。いつもと違うところでドーナッツ食いたくて、俺たちを騙してんじゃないのか?」

「私もそれほど悪趣味ではないわ。これは戦いなのよ」


私はドーナッツをまた一口齧り、幸せいっぱいに微笑んだ。


戦いは進んでいく。

クリーム状の闇は、確実に減っていく。

バスケットの中身も減っていった。


最初は「なあなあ、こんな陰気な場所で、よくそんなに嬉しそうに食えるよな」と煩かったルイスも、何も言わず食べ続ける私に対し、だんだん言葉少なくなっていった。


「少し、明るくなってきた気がしますが」

エルビスが不思議そうに辺りを見渡す。

「月が登って、月の光がよく差し込むようになってきせいでしょうか」


違う。

一番濃い闇が消えていったせいだ。

泉の上にあったクリーム状の闇が、ほとんど消えている。

でも、そう説明する時間がない。

早く魔力を作らなくては。

魔力を求めるチルちゃん軍の列が出来ている。

黙々とバスケットから夜食を取り出し食べ続ける私。

アップルバイが、また美味しい!

でも、ゆっくり味わう時間はない。

早く。もっと早く。

ああ、バスケットの夜食がなくなってしまった。

飴を。もっと魔力を。

泉の上の闇が消えた。

辺りがまた少し明るくなった。

でも、まだ泉から闇が湧き出ている。

飴を。魔力を。

まだ湧き出る闇。


そして、ふと気がついた。

猫のパイがいない。


立ち上がり、辺りを見渡す。

何処にもいない。


「どうしたのですか?奥様」

エルビスが心配げに尋ねてくる。


「猫のパイがいないわ」


「ああ」と、ルイスが呑気そうな声で、

「あの猫なら、欠伸をして帰っていったよ」と言った。


「いつ!?」

「結構前だぞ。気づかなかったのか?」


結構前・・・

「まずいわ」

「何がですか、奥様」

エルビスが戸惑ったように言うけれど、どう考えてもまずいのだ。前と同じ連鎖が起こる。


つまり、こうだ。


猫のパイが戦いに飽きる。

  ↓

屋敷に帰る。

  ↓

ローズの部屋の前でニャアーンと鳴く。

  ↓

ローズが起きる。

  ↓

あら、パイ、いらっしゃい、眠くなったのね、一緒に寝ましょうか、でもその前に奥様の様子を見てこようかしら。

  ↓

ローズが私の部屋に行く。

  ↓

私がいないのがバレる。

  ↓

また旦那様が走ってここに来る。


この連鎖はまずいわ。

猫のパイは結構前に屋敷に帰ったなら、もう私がいないのがバレている頃かもしれない。

またこの泉に来ているのがバレたら次の機会はあるだろうか。

おまけに今回はエルビスとルイスも巻き込んでいるのだ。

旦那様に愛想を尽かされて、離縁されて、もう二度と公爵家の敷地に入れない事だってありえるのだ。

それなのに、まだあの泉の闇は湧き出ている。


私は飴を口に放り込み、泉に向かって歩き出した。


「奥様!その泉に近づいてはいけません!」

エルビスが止めようとする。

「大丈夫よ。光の戦士が共にいるもの。あなた達はそこから出てはダメよ!」


泉に近づき、覗き込む。

月の光が差し込み、泉の底が薄らと見えた。

でも、闇が湧き出ているのは底からじゃない。

水の中で闇が生まれ、コポコポと湧き出ている。


どういう事?

どうする?

分からない。

それにもう時間がない。


泉を見つめながら焦る私の頭の中に、ふと浮かんだのは、私の乳母であり、私を育ててくれた女性でもある、迂闊(うかつ)なマリーの言葉だった。


あら、あなたもぐるぐるしてみたいの?じゃあやってみましょうか。はい、ぐるぐるぐるー

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