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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第1章 死神公爵と我が栄光のチルちゃん軍

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第31話 どうする?どうする?チルチル?

「ここが最後の部屋です。父の部屋です」


主人が四年も帰ってきていないエルビスの部屋は、二階の真ん中にあった。

綺麗に整えられ、白いレースと幾つも置かれた花瓶と大量の花で飾り付けられていた。

家具は全て艶やかで、まるで鏡のように光っている。

きっと毎日丁寧に磨いているのだ。


「こちらもご覧になってください」とロザリーが窓を開けた。

「ここから見る庭が、一番素晴らしいと思っております」


窓から外を眺めると、色彩の海のようだった。

風が吹くと、波が立つように色彩が揺れるのだ。

見事な眺めだ。

「これは、まあ!」と絶句した。

庭とは、ここまでなれるものなのだろうか。


「私は、これが母の父に対する愛情なのだと思っております」

可笑しそうにロザリーが言った。


「小鳥ちゃんは・・・シルビアはエルビスの事をこんなに愛しているの?」

あんなにプンプンしてたのに?


ロザリーは窓の外を見下ろしながら頷いた。

「いつもあんなに父に対して文句ばかり言っていますけれど、嫌いな相手にここまでするでしょうか?この部屋がこのように見事なのは、今日だけではありません。いつも、毎日、見事なのです。庭が花の洪水のようになったのは、父が家に帰ってこなくなってからですが、私はあれは母の父に対する情熱なのだと思っております」


「情熱・・・」と呟き、私は色彩の海を眺める。

確かに、これほどの庭を作るには、膨大な時間と情熱が必要だ。


「母はあんなに父に対して文句を言っていますが、結局は求婚に応じたのですし、庭をこんなに花だらけにして、父の部屋を整え、父の帰りを待っているのです。素直ではありませんよね。母は複雑な性格なのです。

父が悪いとしきりに言っておりますが、私は父が悪いとは思っておりません。きっと父は母の『魅了』にやられてしまって、奇行を繰り返していたのでしょう。

本当に可笑しな二人です」

ロザリーは庭に目を落としながら、苦笑した。


可愛くて、情熱的で、複雑で、奥深い。

最高だわ、小鳥ちゃん!


 ☆


最初に通された部屋に戻ると、ドアは開いたままだった。

中を覗き込むと、エルビスと小鳥ちゃんは窓辺に立っていた。

そしてエルビスが小鳥ちゃんを抱きしめ、何かを(ささや)いている。


しかし、小鳥ちゃんはまだ怒りが収まらないらしく、抱きしめられたまま、クチバシを尖らせ、眉間にシワを寄せ、小さな目をきっと見開いている。でもそのふっくらとした頬はエルビスの胸にそっとつけているのだ。


え!何、それ可愛い!

これが小鳥ちゃんの複雑さなのかしら!


私の胸がキュンとした瞬間、小鳥ちゃんと目が合った。


「エルビスが悪いわ」

反射的に言ってしまった。


「そうでございましょう!そうでございましょう!」


途端に活気づく小鳥ちゃん。

可愛い。


「お、奥様!やっと妻を落ち着かせたのに!」と涙目で叫ぶエルビス。

しかし、エルビスが悪いから仕方がないのだ。


「え?なんだよ奥様。また掛かっちゃったの?」

ルイスが慌てて前に飛び出してくると、私の顔を覗き込む。


「うわー。また目がヤバくなってんな。お守りはどうしたんだ。奥様。さっきのお守りは?ああ、握ってんのか。ほら、奥様、手を開いて」


手を開くと、先ほどロザリーにもらった『魅了』避けの青いお守りが、淡い桃色に染まっていた。

小鳥ちゃんの『魅了』は桃色。可愛い。


「お守りはちゃんと作動してますね。『魅了』を弾く時に青いお守りが赤く染まります。母の『魅了』は弱いですからこの色なのでしょうけれど」

ロザリーが困惑した声で言っている。


「『魅了』を弾いても『魅了』に掛かっているってことか?」

「もしかすると、本人に『魅了』を弾く意思がないので、『魅了』に掛かってしまうのかもしれません」

「自分から掛かりにいってるって事か?ああ、この人はそんな人だよ。ほんと、訳分かんねーよ!ともかく水だ。水を飲まそう。あと風だ。冷そうぜ」


また冷たい水を飲まされ、(あお)がれた。

寒い。


  ☆


お手洗いから戻った後、私はルイスと一緒に庭を見せてもらった。

その間に、ロザリーがエルビスに求婚の事を話すのだ。


開いた窓からは、

「ええ!?」「ミシェル!?」「そんなに早く!?」

などと言うエルビスの叫び声ばかりが聞こえてきた。


庭に落ちていた闇のカケラは、我がチルちゃん軍が綺麗に消した。

家の中のカケラも、既に、消してある。

これでもう大丈夫だ。


  ☆


帰りの馬車の中で、エルビスはしばらく放心状態だった。

いつも綺麗に整えられた髪が少し乱れ、唇には小鳥ちゃんのクチバシ・・・唇に塗られていた口紅の色が薄っすらと付いている。耳元に付いているのはロザリーの口紅だ。


エルビスの隣に座るルイスをチラリと見てみると、え、マジかよ、あのエルビスが?、といった目をして、エルビスに付いた口紅の色を見ていた。

チルちゃん軍に至っては、相変わらずの物見高さで、交代にエルビスの膝の上に立ち、口紅の色を間近で見ては頬を赤らめ、「チルチルチル!」と話し合っている。


今まで、ただただ旦那様の為に生真面目に働くだけだったエルビスが、こんな状態になるなんてね。

さすが小鳥ちゃん、そしてロザリー、そして我がチルちゃん軍、いい仕事したわね。


チルちゃん達だけが激しく「チルチル!」と喋り続ける馬車の中、突然、放心していたエルビスが、背もたれにつけていた体を、はっ!と起こした。

何処にも焦点の合っていなかった目が、私の上でピタリと止まる。

そして「あ、あの!」と言ったきり、黙り込んでしまった。


「良かったわね」と十六歳の私が言うと、

「は、はい」と、たぶん四十五歳くらいのエルビスが、頬を染めた。


「奥さんと仲直りしたのね」「はい!」

「娘さんの結婚も決まったのね」「は、はい!」

「ミシェルに求婚されたのでしょ」「はい!」

「ミシェルは良い人だわ。仕事も出来るし。良かったわね」「は、はい・・」


お母さんと子供のような会話だと思いながら、会話を続けていると、エルビスの目から、ポロリと涙が溢れた。


ええ!!と、動揺する私とチルちゃん軍と見習い隊員。


拳を目に当て、グスグスと泣いているエルビスを前に、私たちは素早く視線を交わし合う。


ええ!?どうして泣いてるの?分かんないよ。チルチルチル。どうすればいい?だからマジ分かんないって!チルチルチル!


誰も何の役にも立たない中、

「奥様・・・」と、エルビスが言った。


「な、何かしら?」動揺で声が裏返りながらも返事をする。


「申し訳ありません」

「な、何の事?申し訳ない事なんて、何もされてないけれど?」

「いいえ、このような恥ずかしい姿を見せてしまいまして」

「な、泣いている事かしら?」

「はい」

「そんな事、気にしなくてもいいのよ。いつでも泣いてくれて構わないわ。みんな泣けばいいと思うわ。そ、そうだわ。私が今度エルビスの前で泣くわ。それでどうかしら。それでいいと思うわ」


同意を認めるように、チラリとルイスを見ると、何言ってんだよ、と言った目で私を見ていた。

あれ?返事を間違えた?


しかし、エルビスは目から拳を外し、赤くなった目で私を見つめると、「奥様はお優しい」と、ぐしゃぐしゃな笑顔を見せた。


「私はもう二度と、家族とあのように話せる日が来るとは思っていなかったのです」

目元に残った涙を払い、エルビスはまた微笑み、「良かった」と絞り出したような声で言った。


エルビスにとってはそこまで深刻な帰宅だったのか。


私は身を乗り出し、膝の上で握り締められたエルビスの湿った手を、ぎゅっと掴み、「良かったわね」と言った。


私の目を見つめ「はい!」と言ったエルビスは、またポロポロと泣き始めた。

手を離し、体を引くと、エルビスは体を折り、自分の膝に額を擦り付けるようにして、声を漏らして泣き出した。


どうする?どうする?チルチル?

残された私達は、また激しく視線を交わし合う。

でもどうしようもないのだ。


結局は「良かったわね」「良かったですね」「チルチルチル!」と、公爵家に着くまで言い続けた。


  ☆


エルビスが、私が闇の泉へ行くための協力を申し出てくれたのは、その翌日の事だった。


(エルサ)以外には見えないし聞こえないけれど、仲間(ルイス)との会話には参加する気満々のチルちゃん軍。

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