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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第1章 死神公爵と我が栄光のチルちゃん軍

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第30話 ロザリー

「『魅了』に対して無抵抗とか、それでいいのか?貴族として」

ルイスは言うけれど、別に構わない。

可愛いものに魅了される人生。

いい。


ロザリーが困ったように微笑むと、

「私が持っている『魅了』避けのお守りを一つ差し上げます。母が『魅了』を持ってるので、教会で幾つか手に入れたのですが、私に母の『魅了』は効きませんし、今のところ必要ありませんから」


状態異常避けのお守りかー。

領地でいた頃、家庭教師のサマンサ先生から、そんなお守りがあるとは聞いていたけれど、実物は見たことがなかった。


「見てみたいわ。田舎の領地にはなかったもの。確か、王都の教会で寄付をすればもらえるのだったかしら」

「はい。私の部屋にあります。こちらにどうぞ」


ロザリーがきびきびとした足取りで廊下を歩いていく。

こうして後ろ姿を見てみると、ロザリーは小鳥ちゃんとあまり似ていない。似ているのは銀色の髪と目の黒い色だけ。それ以外は、顔立ちも背の高さもエルビスに似ている。


それに、先程までは小鳥ちゃんに夢中で気づかなかったけれど、この歩き方は・・・


「ロザリー。あなたは騎士なの?」


私を気遣いながらの小気味良い歩き方といい、筋肉質で均整のとれた後ろ姿といい、何度か見かけた事のある女性騎士のそれだった。


ロザリーは驚いたように私を振り返った。

「よくお分かりになりましたね!まだ騎士として務めた事はありませんが、つい先日まで騎士の訓練所に通っておりました。家で刺繍をしているよりも、私の気質にあっておりますので」


そして数歩進み、そこにあるドアのノブに手をかけた。

「こちらが私の部屋です。少しも女性らしくない部屋で驚かれるかもしれませんが、視察もされるのであれば、ご自由にご覧ください」


簡素な部屋だった。

レースの敷かれた花瓶が二つあり、庭から切ってきたばかりのような花がみっしりと飾られていた。

そこだけが華やかで、後は特に飾りもなかった。


この家全体に言える事だけれど、ロザリーの部屋にも闇はほとんどなかった。

当たり前だ。

四年間、エルビスはこの家に来ていないのだ。


カサカサとした古い呪いが、綿埃のように部屋の隅に落ちていた。

チルちゃんが槍でトン、と刺すと、さらりと消えた。


ロザリーが机の引き出しを開け、白い布に包まれた物を取り出す。

「奥様、どうぞ。『魅了』避けのお守りです。母の『魅了』でご迷惑をかけてしまったお詫びとしてお受け取りください」


布を開いて出て来たのは、小指の先ほどの大きさの濁った青色の石だった。端の方に紐を通すような小さな穴が開いていた。


「魅了をかけられると赤く染まり、魅了を弾くそうです。私が手に入れられる程度のお守りなので、あまり役には立たないかもしれませんが、奥様が新しくお守りを手に入れるまでの繋ぎとしてお使いください」


「ありがとう。不思議な色ね」


私は石を眺めて、握りしめた。

滑らかな表面をした冷たい石だった。


お守りの石を握りしめたまま、ロザリーの部屋を見渡す。

よく片付いた部屋だ。いいえ、片付きすぎている。

こんな部屋を見たことがある。

旅立ちの前の人の部屋だ。


「ロザリー。あなたは家を出るつもりなの?」


尋ねると、ロザリーは穏やかな顔を私に向け、「はい」と微笑んだ。


どうして?小鳥ちゃんが一人きりになってしまう。


「何処へ行くの?」

「新居です。求婚されたのです」

「まあ!おめでとう」


ロザリーには会った時から幸せな雰囲気があった。

なるほど。求婚されたのね。


ロザリーは少し目を伏せ、微笑みを浮かべた。

「ありがとうございます。式も家を出るのも、まだ先なのですが、少しずつ部屋を整理するようにと、母に言われましたので」


「どんな方に求婚されたのか、聞いてもいいかしら」

すかさず聞いた。


一瞬、ロザリーが照れたように目を泳がせた。

「彼は公爵家で働いていますので、奥様もご存知かもしれません。父の部下です。父に言われ、私たちの様子を何度も見に来てくれていました。ミシェル、という名前です」


「知ってるわ!」


ミシェル。エルビスの部下だ。1日だけ護衛についてくれた事がある。

元騎士だと言っていた。

騎士の家系に生まれ、父も母も兄弟も皆、騎士。

ミシェルも騎士としての誇りを持ち、王立の騎士団に所属していたほどなのだけど、本が好きで物語が好きで、訓練の後に夜遅くまで本を読み耽り、ついには眼鏡をかけなくてはいけないほど目が悪くなってしまった。

仲間の騎士たちに、その事を咎められ、本を読むのは悪い事なのかと考えてみた結果、騎士の方をやめる事にしたのだそうだ。

好きな本をもっと読んで生きていきたいという思いが止められなかったと言っていた。


そして、旦那様のところへ流れ着いたらしい。

公爵家では、空いた時間に図書室の本を自由に読んで良いと旦那様に言われたそうだ。

護衛もするし、書類仕事もする。

筋肉質でしなやかな体つきと、落ち着いた優しげな雰囲気が、ロザリーに似ている気がした。


ミシェルには求婚の言葉も聞いたのだけれど、穏やかに微笑んで「考えている最中なのです。まだ何と言うべきか、決めきれずにいるのです。早く求婚したいと思っているのですが」と教えてくれなかった。

あの後、求婚したのね。


「求婚の言葉を聞いてもいいかしら」

逃さず聞いた。


ロザリーは、さっと頬を赤らめ、口元に手をやった。

「あの、二人でうちの庭で花を見ている時に『この花のように美しいあなたと、この後の人生を共にしたいと思っております。どうか、私の願いを叶えてくれませんか』と」


おー!

色めき立つチルちゃん軍と見習い隊員と私!

さすが、ミシェル!本好きの男!まるで物語の中の言葉みたい!いい!


「エルビスは求婚の事を知っているの?」

「いいえ・・・父がこの家に帰ってこないようなら、知らせないでおこうかとも、思っておりましたが・・・今日帰ってきたので、この後、知らせたいと思っております」

「分かったわ。帰りに時間をとりましょう」


危ないところだった。

エルビスは、愛娘に見切りをつけられる瀬戸際にいたのかもしれない。


ロザリーが戸棚を開きながら、昔を懐かしむように話しだす。

「父が帰ってこなくなった後、私達の様子を見にきてくれていたミシェルが、父の様子も伝えてくれていました」


なるほど。二重スパイというわけね。物語の中で読んだことがあるわ。さすがね、本好きの男、ミシェル。


「父は仕事が忙しい中、私達家族の事を気にかけてくれていることも、ミシェルから聞いておりました」


いい働きをするわね、さすが本好きの男、ミシェル。


「ここには来なくても、私達に愛情はあったのでしょう。このような贈り物をいくつもミシェル経由で受け取りました」


戸棚の中から取り出した箱を机の上に置き、蓋を開け、見せてくれた。


「人形ね」


ロザリーと同じ、銀色の髪と、黒い目をした女の子の人形だった。


「私は人形よりも剣の方が好きだったのですが、父は気づかないままでした。私が人形遊びをする年頃を過ぎても、父は人形を送りつけてくるので、少し迷惑にも思っていました。それに、父の送ってくる人形は何か少し怖くて、箱に入れたままこうして仕舞い込んでおりました」


少し悲しげにロザリーが見つめる人形には、古い呪いが分厚い毛布のようにかかっていた。


きっと当時のエルビスは、ロザリーにこの人形を贈る前に、公爵家の屋敷にある、あの闇に覆われた自分の部屋で、箱の蓋を開け、ロザリーに似たこの人形を眺めていたのだ。

箱の中に、たっぷりと闇が入るほど長い時間。


もっと早く公爵家に行って、闇を消してあげたかったな。

そして旦那様にもエルビスにも、もっと沢山幸せな時間を作ってあげたかったな。


机によじ登ってきたチルちゃん軍が、人形の箱の中を槍や剣でグサグサ刺した。

私は、闇のなくなった人形を取り出し、ロザリーに手渡した。


ロザリーは人形を胸に抱き、戸惑ったように呟いた。

「不思議ですね。以前はあんなに怖かったこの人形が、今では全く怖くありません。私が大人になったからでしょうか」


「きっとそうね」と私は言った。


その後、エルビスが送った人形の箱を全て開け、チルちゃん軍に闇を消してもらった。


ロザリーは人形を全て箱から出すと、机の上に並んで座らせた。


「ふふふ。今、こうしてみると、人形も悪くありませんね」


並んだ人形達は、仲が良さそうに見え、口元には皆、幸せそうな微笑みを浮かべていた。


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