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第3話 初対面のお父様

生まれてから一度も会った事のないお父様は、普段は王都にある屋敷に住んでいるそうで、領地に来たのは久しぶりだと言う。

今は領主の屋敷で私を待っているそうだ。

迎えの馬車がよこされていた。


「まあ、領主様と初めて会うのね。それなら可愛くしてあげるわ。きっと領主様もお喜びになるわよ」


マリーは私とお父様の親子関係について、深く考えるような人ではなかった。

ただ、娘と父親の初めての対面なら、娘を可愛く飾りたてた方が、父親も喜ぶだろうと考えたらしい。


一番綺麗な服を着せてもらい、髪には庭に咲いていた可愛い花を飾ってもらった。

「あら、本当に可愛いわ。これなら領主様もお喜びになるわね」

気軽に私を送り出したマリーに見送られ馬車に乗った。


屋敷に行くと、初対面のお父様は私を一目見るなり、

「なんだ、この痩せたみっともない娘は。おまえがエルサなのか?」と顔を顰めた。


チルちゃん軍に魔力を提供し続けている私はいつも魔力不足に陥っており、そのせいか、びっくりするぐらいに毎日食べているのだけれど太ることが出来なかった。


マリーは「そういう体質なのね」と気にする事はなかったので、私もあまり気にしていなかったけれど、痩せていると言われれば、痩せているのかもしれない。


「ドレスはないのか?なんだ、その平民が着るような服は。みっともない。髪につけた雑草も取れ。今からおまえを教会に連れて行かなくてはいけないのだ。時間がない。出かけるまでに少しは見られる姿にしてくるのだ」


お父様に苛立たしげに命令され部屋から下がると、お父様より更に苛立たしげな顔をした使用人達に別の小さな部屋に連れて行かれ、マリーが着せてくれた可愛い服を脱がされ、古く少し色褪せたドレスを着せられた。

髪に差した可愛い花は捨てられて、重くゴテゴテした髪飾りをつけられた。


そして乱暴に着替えさせられている間中、使用人達は私を罵り続けた。

おまえのせいで旦那様から怒られた、どうしてもっとマシな服を着てこなかったのか、おまえのせいで!おまえのせいで!


私は、なるほど、と思ったのだ。

この屋敷には、濃い闇が多かった。

こんなに闇が多い場所で暮らしていると、みんな怒りっぽく愚痴っぽくもなるのだ。

病気にだってなりやすい。

だから、お父様は使用人がイライラしているのも当然なのだ。


でも大丈夫。

私がここに来たのだ。

そして私にはチルちゃん軍がついている。

街の闇をほとんど倒した最強の軍隊なのだ!


チルちゃん軍は、もちろんいつものように私の側にいた。

そしてさっきから辺りの闇を物珍しそうに眺めている。


やれる?


私がチルちゃんに視線を向けると、チルちゃんは緊張した面持ちで頷いた。


一斉に武器を出すチルちゃん軍。

総勢六名、皆、まるまるとして、艶やかだ。

全部、私の魔力で太らせました!


闇と戦うチルちゃん軍を眺めていると、少しづつ部屋が明るくなっていった。

闇は少しづつ消えていった。

この程度の闇、我がチルちゃん軍の敵ではないのだ。


着替えがすっかり終わる頃には、部屋の闇はなくなり、使用人達の顔も少し明るくなっていた。

「・・・終わりました」と、毒気が抜けて戸惑ったような顔をして告げた使用人に、

「ありがとう。綺麗にしてくれて」と微笑みかけると、使用人たちは一斉に驚いたように目を見開き、顔を赤らめた。


「お嬢様・・・」使用人の一人が申し訳なさそうに私に言った。

「お嬢様に酷い事を言って申し訳ありませんでした。お嬢様は何も悪くないのに。旦那様に叱られて、私、つい。本当に申し訳ありませんでした!」

「すいませんでした!」

「お嬢様は、こんなにお優しい方なのに、私達、なんて事を!」


「いいのよ。気にしないでちょうだい。イライラする事なんて誰にだってあるわ」

本当に気にしなくていいし、私は今、それどころではないのだ。

戦いが終わったチルちゃん軍が、魔力を求めて一列に並んでいる。

私は最初の一人にチューチューと魔力を吸われている最中で、あと五人この勢いで吸われるの?魔力が持つかしら?と思い悩んでいる最中なのだ。


「あの、出来ればお父様と出かける前に、何か食事をさせてもらえればありがたいのだけれど」

私は思い余って頼んでみた。


使用人達は、私の痩せた体に目を走らせて、

「はい!すぐにご用意いたします!」と、言ってくれた。


用意してくれたちょっぴりのサンドイッチを全部食べ、追加で用意してくれたスープを全部飲み、スープのお代わりとパンを食べ、更に用意してくれたカナッペやクッキーや冷たいパイを紅茶で全部流し込み、私の食べっぷりに驚愕している使用人に頼み込んで、角砂糖をもらいハンカチに包んだ。


よし。これでなんとか倒れずに行ける。

自信をつけた私は、お父様の豪奢な馬車とは別の小さな馬車に乗せられ、チルちゃん軍に魔力を吸われながら教会へと向かったのだ。


 ☆


たっぷり食べて魔力も回復していたのだけれど、教会の闇も多かった。


「ここでしばらく待っていろ。私は神父と話す事がある」

お父様に置いて行かれたのは、地域の者たちが集まり祈りを捧げる部屋らしく、広々としていたけれど、びっくりするほど闇に覆われていた。


物問いたげに私を見上げるチルちゃん軍。

「やっておしまいなさい」

頷く私。

一斉に武器を取り出すチルちゃん軍。


手に汗握る戦いが繰り広げられた。

私は時々泣きながら戻ってくるチルちゃん軍に魔力を与えながら、角砂糖を口に放り込んだ。

もっと角砂糖をもらってくれば良かった。

私の魔力、もつかしら。


でも我がチルちゃん軍はやったのだ!

このひろい部屋の闇を全て消し去り、チルちゃん軍の最後の一人への魔力供給が終わり、魔力不足でクラクラしながら全部なくなってしまった角砂糖の事を考えていると、お父様が戻ってきて、

「今から魔力検査をする」と告げたのだ。


ま、魔力検査?

ふらつきそうになる体を、なんとか真っ直ぐに保ちながら、お父様の後ろをついていく。


「貴族の子女は十歳になった時に、魔力検査が義務付けられている。魔力の量を測るのだ。もしおまえの魔力量が高ければ、高位貴族と婚姻させよう。低ければ金持ちの平民に嫁ぐのだ。おまえの利用価値など、その程度だからな」


お父様の頭からぴょこぴょことのぞいている闇が気になって、お父様の話があまり頭に入ってこなかったけれど、魔力量と結婚相手が関係するのはなんとか分かった。


やたらとキラキラとした装飾の部屋に連れて行かれ、部屋の真ん中に置かれた赤いクッションの上の透明な玉に手を置けと言われて置いた。


なんの反応もない。


首を傾げていると、部屋にいた神父らしき男に

「どうやら魔力はないようです」と、申し訳なさそうに言われた。


そうよね。と私は思った。

角砂糖がもう少しあればよかったんだけど。


お父様は怒りまくり、おまえは十六になったら金持ちの商人の後妻に行かせると宣言され、そのまま馬車に乗せられマリーの家へ返された。


マリーは私のドレスや髪飾りを見て「まあ!素敵!お姫様みたい!」と大喜びだった。

それから私の着ていたドレスを、マリーの子供達も変わるがわる着てみて「お姫様みたい!」とみんなで楽しく遊んだのだ。


 ☆


翌日、また屋敷から馬車が寄越されたので、昨日着ていたドレスをまた着て、髪飾りもつけ、屋敷へ向かった。


屋敷にはもうお父様はいなかった。

すでに王都の屋敷に帰ったのだそうだ。


冷たい顔をした屋敷の執事を名乗る老人がいて、

「これからお嬢様に結婚が決まるまでの間、少しでも良い結婚相手が決まるよう、最低限の教育を施すようにと、旦那様から言われております」と言った。


そして教師だという、顔色の悪い不機嫌そうな中年女性を紹介された。


「いいわ。やるわ。でも住むのはマリーの家でもいいでしょ?」


「毎日馬車を出せというのですか?」

執事は嫌そうな顔をした。


「歩いてくるから大丈夫よ。マリーの家からここまでなんて、すぐ近くだわ」

「・・・旦那様は、お嬢様の日焼けもみっともないと言っておられました」

「それなら日傘を買ってちょうだい。あと長手袋と、ショールも」

「しかし」

「私、教えられた事を全部覚えるし、全部やってみせるわ。でもマリーの家に住ませてもらえないなら、全部やらない。あなたがお父様に怒られてもやらないわ」


執事が睨んだって、別に怖くない。

私は貴族として暮らす必要なんてないのだ。

平民として生きていける自信はあった。

マリーみたいに生きればいいのだ。

どうやればいいのか、ずっと見てきた。

別の街に逃げたって、上手くやっていく自信があった。


長い沈黙の後、執事はやっと口を開いた。

「問題が起これば、すぐに屋敷に移ってもらいます」


私は返事をせず、にっこりと笑った。

問題が起こっても屋敷に移るつもりはなかった。


でもこの屋敷には気掛かりな事があるから、屋敷には来たかったのだ。


もうすでに部屋の中ではチルちゃん軍が戦いに入っている。

この屋敷の闇は多い。

こんなところで暮らしていたら不機嫌になるのは当たり前なのだ。


でも、大丈夫。

私とチルちゃん軍が来たからには、こんな闇など全て消し去ってしまうのだ。


「あ!そうだわ。あと一つ、お願いがあるの!」

私は慌てて執事に言った。


「・・・なんでございましょう」

「食事は出してもらえるんでしょ?」


闇はなんとかするので、ご飯をください!出来ればたっぷり!


まだ恋愛に話がたどりつかない闇

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