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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第1章 死神公爵と我が栄光のチルちゃん軍

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第27話 キリリ

馬車は石畳の上でガタガタと揺れながら進んでいく。

エルビスの家はもう近いのだろうか。


「全ては私のせいなのです」と、エルビスがポツリと言った。

「坊っちゃまと出会い、いくらか良い人間になれた気がしていましたが、結局のところ、私は真の部分では碌でもない人間なのです」


私はエルビスの丁寧に整えられた髪や、深い皺が刻まれた眉間を見つめた。

何があると言うのだろう。

「話してちょうだい」と私は言った。


エルビスは、辛そうに顔を顰めながら、それでも話し出した。


「公爵夫人があの泉の側で亡くなり、坊っちゃまが呪いを受けた三年後、私は結婚しました。

子供が生まれ、私には過分な幸せが訪れました。

本当に幸せだった。

しかし、私の心の中には常に苛立ちがありました。

坊っちゃまが呪われているのです。苛立っても当然だと思っておりましたが、日々大きくなっていく苛立ちに戸惑ってもおりました」

エルビスは一瞬、口を強く引き結び、また話し出す。


「坊っちゃまが十六歳になり、公爵様まであの泉の側で亡くなってしまいました。

一人きりになった坊っちゃまを私がお助けしなければと、日々奮闘しておりました。

しかし、私は段々と苛立ちを抑える事が出来なくなっていった。ひどく怒りやすい人間になっていた・・・。

家族にもつまらない事で怒鳴ってしまいました。

どうしても怒りを抑える事が出来ないのです。

このままでは家族を殴るようになるかもしれないと思い、家に帰るのをやめました。

生活費は送っております。困った事がないか、人を介して気にかけてはおります。

しかし、それだけです。

もう随分長い間、家に帰っておりません」


エルビスは膝の上で両の拳を握りしめ、

「坊っちゃまのおかげで、少しは良い人間になれたと思っておりましたが、やはり私の本当のところは碌でもない人間なのです」と噛み締めるように言った。


「それは違うわ。あなたは良い人よ」と私はきっぱりと言った。


エルビスは戸惑ったように目を瞬かせ「自信たっぷりに言うのですね」と、苦笑した。


「自信があるから、自信たっぷりに言ったのよ」と私は告げた。


本当に自信があるのだ。

だって、エルビスの膝の上で、チル友ちゃんが一人寛いでいる。

エルビスのお腹に頭と背中をつけて、さっきからエルビスを見上げているのだ。


チルちゃん達は誰でもいいから膝に乗っているわけではない。

チルちゃん達なりに信頼できる人を選んで乗っているらしい。


旦那様の膝の上や、ローズの膝の上には、チルちゃん達も嬉しそうに乗るのだ。

エルビスの膝の上も人気で、いつも誰かが乗ろうとしている。

私はチルちゃん達を信頼している。

そのチルちゃん達が信頼している人は、きっと信頼できる良い人なのだ。


ちなみに、ルイスの膝の上にはチルちゃん達は誰も乗らない。

今もルイスの膝は、隣に座るチル友ちゃんが肘をついたり、反対側の隣で寝転んだ別のチル友ちゃんの足を乗せるのに使われている。

ルイスはナメられているのだ。

そして多分、少しだけ信頼されている。


「エルビス。私はあなたを信頼しているわ。あなたは良い人よ。あなたの苛立ちや怒りは、旦那様の呪いの影響だと思うわ」


エルビスは訝しげに私を見つめ「呪いの?」と呟いたけれど、すぐ頭を振った。

「呪いのせいと、奥様は言ってくださいますが、一番呪いの影響を受けている坊っちゃまが苛立っているところも、無意味に怒っているところも見たことがありません」


なるほど、確かに。

でも旦那様が特別なだけだと思う。旦那様が凄いだけなのだ。


「人によって呪いに対する耐性が違うのだと思うわ。旦那様は凄い方よ。そんな方と自分を比べたって仕方がないじゃない」


「しかし!」


まだ何か言い募ろうとするエルビスを手で制した。


「エルビス。ともかく今からあなたの家に行って、光の戦士達に呪いを消してもらいましょう。それでもあなたがまだ怒りでいっぱいになるのだとしたら、また考えてみましょう」


「光の戦士・・・」と、エルビスは疑わしげに呟いたけれど、それ以上何も言わなかった。

エルビスの膝の上の光の戦士は、心配そうにエルビスを見上げているのだけれど。


 ☆


馬車は進む。

エルビスは窓から外を眺め「もうすぐ家に着きます」と落ち着かなげに言った。


「どれぐらい家に帰ってないの?」と私は聞いた。


「四年、ほど」


四年かあ。長いわね。


「きっと家族は私を歓迎しないでしょう。娘に最後に会ったのは十四歳の時です。もう十八になってしまった。娘がどのような人間に育ったのか、私は知らないのです。奥様に失礼な態度は取らないと思いますが、私と一緒に行けば歓迎もされないかもしれません」と、エルビスは申し訳なさそうに言った。


「それは大丈夫よ。私は気にしないわ。だからエルビスも気にしないで」


しばらくの沈黙の後、エルビスが遠慮がちに聞いてきた。

「奥様は、最初に公爵家に来た時から、堂々とされていましたね。確かに私達の態度など気にされてなかった。その・・奥様は歓迎されない場所に行く事が、嫌ではないのですか?」


「そうね。気にしたことはないわ」


エルビスは瞬きをし、しばらく私を見つめた後、視線を落とした。

「私は正直なところ、恐ろしいのです。仕事ならば、公爵家の為ならば、どんな所へいくのも恐ろしくはありません。しかし、自分の家族となると、どうしていいのか分からないのです。冷たい目で見られたら、と思うと恐ろしくてたまらない。どうすれば、奥様のような心持ちになれるのでしょうか」


いつも真面目なエルビスが、これまで見せた事のない気弱な姿で座っている。


エルビスの為に、真剣に答えを探してみよう。

何故、私は歓迎されない場所に行くのが怖くないのだろうか。


「そう、ね。私は、誰かが私の事をどう思うのかを、気にしてないから怖くないのだと思うわ。私はね、小さい頃、私を育ててくれたマリーに、どっちでも同じことよって言われながら育ったのよ」


「どっちでも、と言うのは?」

エルビスが、気弱げな目を私に向ける。


「好きになられても、嫌いになられても、どっちでも同じ事なのよって、マリーは言ってたわ。人は『好き』って言った次の日には『嫌い』って言ってきて、何年もしてからまた『好き』って言って、すぐその後に『嫌い』って言ってきたりするのよ、って。どうせ変わっていくんだから今好きでも嫌いでも、どっちでも同じことよって言うのよ」


そう言っていたマリーの自信たっぷりの顔を思い出して、私はくすくす笑った。


マリーは色々な人の中へグイグイと入って、ぺちゃくちゃお喋りをして回っていく人なのだ。きっとその中で、好きだ、やっぱり嫌いだ、やっぱり好きだと散々言われ続けて、ある日、もうどっちでもいいわ、と思ったのだと思う。


「それにね、マリーが言ってたの。私の事が好きか嫌いかなんて、全部相手の心の中で決まる事で、こっちにはどうしようもない事なんだから、私が悩む必要なんかないわ、全部、相手に任せればいいのよって。幼い私は、その通りだわと、思ったよのよ。だから私も相手に任せる事にしてるのよ。好きでも嫌いでも、どっちでもいいのよ。自由に思ってくれればいいわ。そのかわり、私だって相手の事を好きだとか嫌いだとか自由に思うようにしてるの」


「それは、まあ。思い切りの良い考え方ですね」

エルビスは戸惑いながらそう言うと、「しかし奥様らしい考え方です」と、少し笑った。


「そうかもしれないわね。でも、エルビス、あなただって任せてしまいなさいよ。あなたの奥さんと娘さんに。あなたの事をどう思うかなんて、二人の自由だわ。でも、あなたが二人をどう思うかだって、あなたの自由なのよ」


エルビスは大きく目を見開いて「私は」と呟き、目を閉じた。

「私は二人のことを愛おしく思っております」


「そう」

チルちゃん達を見下ろすと、キリリとした顔つきで私を見返してくる。


そうよね。エルビスの為に頑張らなくては。

呪いを消し、苛立ちや怒りがない中で、エルビス達を見守りましょう。


馬車の速度が落ちていった。

もうすぐエルビスの家に着くのだ。


「奥さんと娘さんの名前を教えてちょうだい」


「妻の名前は、シルビア。娘の名前は、ロザリー。そして寄宿舎にいる息子の名前は、ルイスです」とエルビスは愛おしげに言った。


隣に座っていたルイスが、ビクッと体を動かし、「俺と同じ名前だ」と呟いた。


「そうだ。ルイス。おまえと同じ名前だ」


エルビスがルイスを側に置いていた理由が分かった気がした。


馬車はゆっくりと止まった。


「さあ、行くわよ。エルビス。大丈夫よ、私がいるわ。光の戦士達もね」

私が自信たっぷりにそう言うと、

「俺もいます」とチルちゃん軍見習い隊員のルイスが、キリリと言った。


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