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死神公爵に「おまえを愛することはない」と言われましたが、我が栄光のチルちゃん軍にお任せください!  作者: 雷雨
第1章 死神公爵と我が栄光のチルちゃん軍

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24/91

第24話 ありがとう

「なあなあ、奥様。昨日の夜『失敗した!』って、スゲー言ってなかったっけ?」


翌日、テラスに整えられたテーブルでおやつを食べていると、後ろからルイスがコソコソと聞いてきた。


「言ってたわよ。それがどうしたの?」


手にしたドーナッツを見つめながら答える。


なんと、今日のバスケットに山盛りにされたドーナッツには、チョコレートがかかっているのだ!

ふんわりとしたドーナッツに、パリッとしたチョコレート!

そのチョコレートには、砕いた別のチョコレートもかけられている。

一口齧ると、口の中は、たっぷりのチョコレートと、柔らかいドーナッツの生地の美味しさでいっぱいになる。

何これ、凄い!


感激して顔を上げると、テラスの向こうの木陰に料理長が立っているのが見えた。

ワクワクした目でこちらを見ている。

きっと、新作ドーナッツの評判を気にしているのだ。


凄いわ!流石ね、料理長!


深く頷くと、料理長は嬉しそうに鼻の下を伸ばしながら、調理場の方へと歩いて行った。


料理長との心の交流に満足しながら、更にドーナッツを齧っていると、ルイスがまたしつこく聞いてくる。


「なあなあ。何を失敗したのか知らないけどさ、あんなに失敗したって嘆いたなら、普通は、しばらくは落ち込まない?」


落ち込む?

「なんで?」


「なんでって、落ち込むだろ、普通」


「そうなの?」


「そうなの?って、ええ?落ち込まない?俺、変な事言ってないよね!落ち込むよね、普通!俺さあ、絶対今日は奥様落ち込んでると思って、ちょっと心配してたのにさ!なんで、そんなにニコニコしてんの?マジで?失敗したなら、落ち込まない?マジで?」


不可解な事を言うルイス。


「なんで失敗して落ち込むの?やった事のない事やって、失敗するのは当たり前でしょ。当たり前の事が起こっただけなのに、なんで落ち込まなきゃいけないの?」


「何?その強気な理論。どう育てられたら、そんな奥様に育つの?マジで」


「失敗しても落ち込まない大人に育てられたら、そんな奥様に育つのよ。マジで」

具体的に言うと、その大人は、マリーだ。マジで。


「何、その連鎖。あ!もしかして、奥様も、その親も、『落ち込む』って言葉の意味分かってないのか?それとも、これまで落ち込んだ事、ないとか?マジで?いや、奥様とその親族ならありえる。なあ、なあ、奥様。落ち込むって意味、ワカリマスカァ?」


ああ、うるさい。

お茶のおかわりの用意しに行ったローズがいないからって、マジうるさい。

美味しいドーナッツを食べている時に、どうしてドーナッツ以外の事を考えなきゃいけないのだろう。

ああ、私に人が呪えるのなら、呪ってしまいたい。


「なあなあ、奥様。ワカリマスカァ?」


ルイスは、うるさい上に、しつこいのだ。

もう呪ってもいいのではないだろうか。

そうだ。呪おう。今すぐ呪おう。


呪いを込めて、振り返ったけれど、

「お、やっと答える気になったんだな。それで、どうなの?分かるの?マジで。奥様?」と、邪気のない満面の笑みで聞かれると、呪いも霧散してしまった。


もういいわ。とりあえず太らせておこう。

チルちゃん軍に入れてしまおう。

それでいいじゃない。


嫌がるルイスにドーナッツを無理やり押し付け、食べさせたところで、戻ってきたローズに「んまあ!護衛が何故、奥様のドーナッツを!」とルイスが怒られるところまでをやった。


満足だ。


 ☆


「さあ、それじゃあ行くわよ」


おやつを食べ終わり、お茶もたっぷり飲んで立ち上がった。

テラスで寛いでいたチルちゃん軍も、私の周りに集まってくる。

戦いが始まるのだ。


「行くって、どちらに?」

ローズが不思議そうに聞いてくる。


「視察よ」

「視察?どちらの視察ですか?」

「この屋敷で働く全ての者たちの部屋よ」

「全ての?!」

「ええ。旦那様の妻として、いずれ屋敷内を取り仕切る事になると、以前ローズも言っていたでしょ。私、やる事にしたの。まずは視察よ。そしてローズ。最初の視察はあなたの部屋よ」


視察は、屋敷で働く者たちの部屋に入り込み、闇を消して回る為の言い訳だった。

これで全て押し通すつもりだった。

まずはローズの部屋だ。

なにしろ私はローズ派なのだ。


ローズは可愛い目を丸くして、

「わ、私の部屋?!私の部屋など視察して、どうするのですか。奥様!お待ちください!え?どうして私の部屋がある場所を知っているのですか?奥様!」と、慌てている。


情報を集めるのは得意なのだ。

真っ直ぐローズの部屋に向かった。


ローズの部屋は独身女性だけの棟にあった。

どうしても付いてくるというルイスは置いてきた。

ローズが冷たい目で睨みつけると、簡単に置いてこれた。


「本当に、この視察は必要なのですか?」

ローズは自分の部屋のドアノブに手をかけてもまだ、疑い深げに聞いてきた。


「絶対に必要よ」

私は重々しく答えた。


ローズの部屋に着くまでにも闇はあった。

思ったよりは少なかったけれど。

部屋の中にはどれほどの闇があるのだろう。

絶対に全ての部屋に入らなくては。


「では、開けます・・・」

少し不満げな顔をして、ローズは自分の部屋の扉を開けた。


猫がいた。

ローズらしい可愛らしい部屋のベッドの真ん中で、猫がお腹を出してぐっすり眠っていた。

もちろん、パイだ。


「ふふふ。可愛いでしょ。昨日、遅くに来たから、まだ寝てるんです。パイちゃん。奥様がいらっしゃいましたよ」

ローズは嬉しそうにベッドに腰を掛けると、猫のパイのお腹を撫でた。


くうっ!パイめ!ローズ派の二番のくせに!


目を閉じたまま気持ちよさそうにお腹を伸ばす猫のパイを見ながら、ローズは「そういえば」と続ける。


「昨日の真夜中に、ドアの外からパイがにゃーっと鳴く声で目を覚ましたんです。パイを部屋に入れてあげた後、奥様の事が気になってお部屋まで見に行ったら、奥様がいないのでびっくりして悲鳴を上げてしまいました。大騒ぎになって、皆で奥様を探したんですよ。本当にびっくりしました!」


くうっ!パイめ!昨日の泉での戦いの最中に、飽きて何処へ行ったのかと思ったら、ローズの部屋に入れてもらって、ローズのベッドで眠っていたなんて!

二番のくせに!

おまけに私が屋敷を抜け出したのがバレたのは、パイがきっかけだったなんて・・・ありがとう。


おかげで、旦那様とキスが出来たのだ。うふ。

またよろしくお願いします。


結局、ローズの部屋に闇はなかった。

きっと猫のパイが念入りに闇を追い出したのだ。

ローズ派の二番として、正しい行動だと思う。


「えらいわ、パイ」


ご褒美に、お腹を撫でてあげると、うっすらと目を開け、嫌そうな顔をして私を見てきた。

気にせず撫で回すと、最後に低い声で「にゃあ」と鳴かれた。

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